液体地獄の毎日と
「伊崎さん、大丈夫ですか?」
「ハァ⋯⋯問題ない」
嘔吐く俺の背中を擦るのは、石田。
振り向くと奴は。
「⋯⋯?」
ッチ、褒めるのはあまり好きではないが。
「優秀になったもんだ⋯⋯ウゥッ」
「どうしちゃったんですか、伊崎さん」
毎日ありえない量のエリクサーを飲む毎日。
エリクサーも飲めば貯まる。
蒸発するのは変なもののみだ。
それ以外は蓄積する。
飲みすぎて気持ち悪くなるが、魔力量は増える。
「ハァ⋯⋯ッ⋯⋯世界を救わないといけないらしい」
「いきなり何言ってるんですか⋯⋯って、伊崎さんは普通ではありませんでしたね」
コイツ、俺が日本に帰ったのを疑問に思って、急遽飛んできたらしい。
いつもなら銀を置いていく人間ではなかったのだが。
「銀の面倒は?」
「うちのもんが見てますよ」
「あんなに慕ってたのにな」
そう言うが。
石田の表情はどこか穏やか。
「貴方はもう、俺のアニキ分と同じようなものですよ。
どこへだって飛んでいきます」
「っ、」
一瞬、頭がフリーズした。
まさか。
こいつがこんな事を言うようになったなんてな。
「⋯⋯ふっ、お前も少しはせいt」
駄目だ。
マジでキツイ。
1日どんくらい飲んでいるのかすら記憶がない。
ただ、今の俺では明らかに力不足なのは肌で実感しているし、そんなに甘い訳がない。
俺が強かったのは、圧倒的なまでの魔力量。
そして、長年経験による魔法の研鑽と実践、研究によるもの。
絶対的な魔力量は絶望なまでの差を生む。
だからこそ、向こうでは血統至上主義であり、地獄のようなまでの差別が生まれた。
「⋯⋯何か悩んでるんですか、伊崎さん」
ゆっくりと擦りながらコイツは、俺の顔色を察したらしい。
「力不足をどう覆すかを考えている」
「なるほど、俺じゃ解決できなさそうですね」
「理解が早いな」
「ですが」
「ん?」
「一人でいるよりはマシだと思います。
そういう意味で言うと、自分がここにいるのは腹を割ってくれているのだと思うので吐き出した方が早いと」
「人間の成長には目を見張るものがあるな」
石田が少し離れた間に、俺はまたエリクサーを飲む。
ハァ⋯⋯きちぃ。
そう。人を増やすとかは意味がない。
それは、自分が人にいつも言ってきたことだから。
物語の英雄伝みたいな展開はないんだ。
魔王の前に協力をしたところで、本来は勝てるはずもない。
ただ、魔王というシステムが負けるように出来ているように存在しているのだから。
本来なら、圧倒的な実力差に終わっているところだ。
相手は、
"全盛期の俺の片腕を斬れるくらいに強い"。
それには、魔力による身体強化を使った状態で⋯⋯だ。
どのアレイスターかは知らんが、少なくとも、そのレベルだ。
毎日、毎日。
やり続ける。
紗季の居るこの世界を⋯⋯今度こそ。
「⋯⋯⋯⋯」
鏡に映るいつぞやの自分と、今の自分。
なんだ?
こんな時にまで俺に幻覚を見せてくるなんていい度胸をしている。
もう十分に生きただろ。
⋯⋯クソ老害め。
何今更躊躇してる。
ーー今度どこ行く!?
「⋯⋯⋯⋯」
ーーねぇ、伊崎くんが良ければなんだけど⋯⋯
「⋯⋯⋯⋯」
鏡に映る自分は鼻で笑っている。
ソレはもう十分に貰った。
何を強請っている。
俺自身の幸福などもう向こうに置いてきた。
この間だって行ったじゃないか。
求めるな。
ーーライトニングマウンテンだって!
あれで俺達の遺言は達成されたものだろう?
ーーまた来たいね!
そんな景色に溺れるな。
クソロリコンめ。
──この世界だけは守らなければならない。
──この家族が存在している世界だけは。
──白波紗季という女がいる世界を守らねばならない。
──家族を死なせた自分の末路をよく知っている。
そう。
その為だけに帰ってきたんじゃないか。
「⋯⋯やるべき事をやるだけ」
毎日、毎日やる。
積み上げて、積み上げて。
必ずブチのめす。
クソアレイスターめが。
⋯⋯勝てるか知らんが。
*
卒業式は出席した。
どうやら、クラスメイトたちは大学生活を満喫するようだ。
俺が行かないというのを知ると、みんな退屈だと言って、縋りつかれた。
いつの間にか、学校も一つの居場所になっていたんだなと、知る。
後輩からはボタンをどうだという恒例行事があるらしい。
──秒でなくなった。
まぁその日は家族と飯を食ったり、打ち上げもやった。
家族は俺が大学に行かない理由をなんとなく理解したようなので言及はしてこなかった。
実際問題、大学に行く時間なんて今年起こると言われている事件があろうとなかろうと、全くもってないのだ。
三年通った場所もお別れだ。
秘密基地も、リビやゲラハに任せ。
俺は──転移で上空へと移動する。
「⋯⋯⋯⋯」
久しぶりにやるな。
両手を胸の間で一回拍手をするように合わせる。
パンッ!
「結界──聖域」
重ねていく。
俺の魔力量では限度があるが、使えるものは何でも使っていく。
配分さえミスらなければ、エリクサーは作れるのだから。
「っ?」
重ねがけを終えたその時だった。
俺の感知に反応がある。
そう、
真後ろに。
「おやおや?
感知の練度が高いですね。
あなたは普通の人間ではないようだ。
魔導師⋯⋯この世界で言うなら魔法使い、または陰陽師とも呼べますか?」
コイツ。
アレイスターか?
にしては魔力量が少ない。
「いや、失礼。
おかしいなぁ。
アレイスター様の計画は万全かつ漏れがなかったはずなのですが」
見覚えがある。
真っ白い肩がけの軍服。
聖なるローブと言われているソレは、向こうでの10を表す刻印がある。
「聖十騎士団、ダグマディオス隊隊長──オルガン・ダグマディオス。
地球人にしては強そうだ」
「"小僧"」
「ん⋯⋯っ!?」
ほう?俺の一撃を避けるか。
「距離を取るのが好きか?
中二病殿」
いいねぇ。焦ってる。
「これはただの斬撃の魔法。
なるほど──これはこれは。
もしかして、あなたがアレイスター様の言う"邪神"、ですかね?」
「そう伝わってるんならそれでもいいぞ。
とりあえずお前たちの目的を聞こう」
「誰が言うんですか⋯⋯ねぇっ!!」
「来るか、小僧」
さぁて。
予想外に早いな。
「久しぶりに楽しめそうだ」
「いつまでその余裕──保っていられますか?」
俺はただ、やるべき事をやるだけだ。
最期のその時まで、自分の行いに報いる為にも。




