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自力で帰還した錬金術師の爛れた日常  作者: ニキニキちょす
世界征服編

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閑話:上に立つ人間、強者という存在

 「石田のアニキー」


 「はぁ。お前ら⋯⋯」


 ベッドの横にパイプ椅子を持ってきてはどっこらせっとジジ臭くスマホを開く馬鹿ども。


 大体俺達こんなところで普通にしていい身分じゃないだろ。


 まぁ、こいつらも英語は若干しか話せないしな。

 

 とはいえ飯は食えてるし女も近くのラウンジ行けばいくらでも会えるし、暇っちゃ暇か。


 少なくとも──俺の周りで携帯をいじるくらいには。


 「アニキ〜なんでそんな真面目に仕事してるんすか」


 カタカタ俺はノートパソコンでやることが毎日ある。


 むしろ動けないのを口実に仕事ばかりしているのが実情だ。


 「何言ってんだ。

 お前らの仕事作ってやるために毎日奮闘してるんだろうが」


 PMCもやっと形になってきたことだし、色々展開を伊崎さんと練ってはいるが。


 ブン、と通知が。


 [株式会社とりま]


 メールをパパっと返す。


 するとまたブン、と。


 [株式会社ゲンホー]

 今年の売り上げ、展開の件


 打ち返す。

 だが。


 「くそっ、何回返信しても色んな会社がここぞとばかりに俺にメールを送るのをやめない!!」


 「だから言ったじゃないっすか〜。

 仕事なんてしてないで、もっと遊びましょうよ〜」


 「⋯⋯そうも言ってられん」


 「伊崎のアニキですか?」


 「あぁ。

 俺達は10代真っ只中の一人に人生助けられてんだぞ?自覚あんのか?馬鹿が」


 タイピングしながらそう問うと、後輩たちはうーんと首を傾げて唸る。


 「なんだ、月収は60万も貰って、不満か?」


 「いやぁ?そういう訳じゃないっすけど」


 「電気、飯、ガス、一通りの金だってあの人のポケットから出てんだぞ?


 煙草代ですらあの人が出してるのに、俺達が何を言うことがあるんだ」


 「いや、なんと言いますか⋯⋯こう⋯⋯実感がなさ過ぎるというか⋯⋯なんというか」


 「なに?」


 画面から視線を外して睨むと、少し仰け反って後輩は手を振る。


 「いや、怒らないでくださいよ。

 最近どうしちゃったんですか?アニキ」


 一人がそう言うと、近くにいる奴らも乗ってくる。


 「そうっすよ、明らかに伊崎のアニキの肩を持ちすぎな気がするすけど」


 「そりゃあ持つだろ。

 俺達全員、人から奪う事なく完結出来る。

 陽の目を浴びながら生きて行けることに感謝すべきだろう」


 「それはそうなんすけど⋯⋯」


 「なんだ?

 お前らは人様を殴ってカネを回収することが当たり前だと?


 お前らこそ最近たるみ過ぎじゃねぇか?

 ええ?」


 「いや、と言っても、俺達頑張ったところで上がる金なんてたかが知れてるじゃないっすか」


 「そらそうだろ。

 60万円分の価値のある仕事⋯⋯お前ら見つけてやれんのか?」


 危険手当なんて言ってるが、実際は何も理不尽なしでいくら付与されてると思ってるんだ。


 「極道の世界だったらもっと⋯⋯」


 「そうっすよ!

 俺達、アニキたちとテッペン獲って悪から奪って俺達がって!


 それを安全が理由でなぁなぁになってる気がして」


 「しかも、当の本人あんな女を連れてやりたい事成すこと大量。


 他も十分耐えてる方っすよ」


 確かに。

 こいつらが言う通り、俺が肩を持っているのは事実だ。


 でもあの日。


 あの日を見てから俺のあの人に対する態度は特に変わった様な気がする。







 「ふぅ⋯⋯やっぱり、朝風呂からの一発は最高だな」


 「はいはい。

 一応もう海外に行く準備は出来てますけど、今日の予定は⋯⋯これ、なんすか?」


 株式会社とりま?

 なんだそれ?


 その場で調べてみても、特に検索に引っかからない。


 しかも、俺に伝えてすらいない謎の企業。


 「伊崎さん」


 「ん?」


 俺は流しで色々必要な書類と決済を見せながら、とりまを混ぜる。


 「これって何の企業です?

 今日視察というか、予定に組み込まれてますよね?」


 「あー、これね。

 個人的な件」


 個人?

 あの下半身に脳みそがある伊崎さんが休日に外出する理由が?


 



 「あっ!伊崎さん!ようこそ!」


 「鈴木さん、一月ぶりですね」


 握手を交わしている相手はどう見ても金を持ってそうな感じではない。


 むしろ逆だ。

 

 「あら、今日は執事さんを連れて?」


 「あっ。石田龍司と申します」

 

 名刺を渡すと中年女性の目つきが変わる。

 というより、俺もすっかりビジネスマンになったなと心底思う。


 「え!?アルケミの!?」


 「あぁ言ってなかったっけ?」


 「凄いわぁ。

 凄い人の周りにはスゴい人が集まるって本当なんですねぇ」


 そんな世間話を終え、中に入るのだが。

 入るとすぐに目が入るのは⋯⋯小さい工場?

 伊崎さんが?


 汚れるのが嫌だから視察に行かないのに?

 まぁでも、見回した様子だと、清潔にはなってるか。


 「今月の収益は?」


 歩きながら伊崎さんが聞いている。

 

 「今月は利用者が50名を超えたから⋯⋯700万円ってところです」


 なんの話だ?

 700万って。


 「黒字ラインは?」

  

 「はい。10万ほどです」


 「それは"適切"に運営して、だな?」

 

 伊崎さんらしくないくらい鋭い目つきだ。

 見られているおばさんは少し仰け反りそうになっているほど。


 「はっ、はい!

 確認いただくことも可能ですが」


 「目を見れば分かる。

 いつも感謝している」


 「こちらこそ!!

 利用者も喜んでいます!」


 「俺のシステムは結構上手く行ってそうか?」


 「あっ、それはむしろ職員が大喜びでして」


 付いて行くと、すれ違う職員が伊崎さんを見るとすぐに会釈しては神のように崇めてすらいた。


 「おぉ、上手く行ってるようだな」


 「伊崎さん、あれは?」


 ちょこっと歩いて見えるのは、コンビニっぽいところ。


 見える限りでも、衣類や食品、割となんでもあるように見える。


 ラインナップも変ではなくて、本当に人気なもので揃えられて。


 「就労支援施設だここは」


 「っ、あ」

 

 障害⋯⋯者施設?


 「俺はこのとりまで全国展開している。

 既に10個程展開していて、国からの補助金で正統に運営している。


 さすがに全国を回るわけには行かないが、金ならあるんだからやれる事をやるべきだ」


 なんとも言えないほどのインパクトが全身を駆け抜ける。


 なんでそんなことをわざわざやるんだ?


 「あっ、昌平」


 「こんひにち!」


 伊崎さんに声を掛けてきたのは、発声がままならない作業服を着た若い男の子。


 「ひさしぶりだな。

 げんきにしていたか?」


 わざわざ喋り方まで遅くして、ゆっくり喋っている。


 どうやらお昼休憩のようで、二人は意気揚々と食堂の椅子に座って喋っている。


 「石田さんは知らなかったのですね」


 隣にやってきたおばさん。


 「え、ええ」


 「初めの頃は信じられなかったんですけど、行政の人とか、なんか高圧的な人たちに対してとんでもない暴言を吐いていて凄いんだけどねぇ⋯⋯ああやって施設の人とよく喋ったり、あっ、ほら見て」


 周りには気付けば利用者たちが伊崎さん囲んで嬉しそうに何かを渡している。


 「あれは?」


 「あれは今日作ったクッキーです。

 普段は箱詰めなどの単純作業をしています。


 あっ、勿論ある程度から始めていますけどね。


 でも。今日は伊崎さんが来ると言ったらみんなが張り切っていつもは集中できないみんなが一生懸命仕事そっちのけで作ったんです」


 おばさんから大体の概要を聞く。


 全く金にならない現実。

 善意で成り立っている構造。

 その中にやってきたのがあの男。

 

 「そー!かっこいい!」

 

 「俺はいつでもカッコイイぞ」


 「伊崎さん、このコンビニシステムを作ったんですよ」

 

 「コンビニシステム?」


 「えぇ。

 黒字化すれば最小限でいいからと、補助金をこの施設独自のとりあえず満足ポイントというものをあそこのコンビニで交換をする事で、飲み物や食べ物、靴下や様々な物と交換出来るんです」


 「へ、へぇ」


 「最初なんでそんな事をするんですか?と聞いたんです。


 運営していくなら他の作業所は腐るほどあるじゃないですか」


 「く、詳しくないのであんまり言えませんが」


 「でも、あの方はこう言ったんです。

 それで食費と衣服代が浮けば生活が楽だろう?って」


 「⋯⋯⋯⋯」


 「年上だけど、素直に尊敬したんです。

 あんな真っ直ぐな子に会えたのは。


 闇を見ても、それを決して見放さずに寄り添おうとしている姿が」


 「やっぱり切迫しているんでしょうか」


 「やっぱり、えぇ。

 生活保護、グループで面倒を見るのも容易じゃありませんから。


 月にここでの利用者は5万円"も"貰えるんです」


 「少なくないですか?」


 「リアルは3000円くらいですよ」


 「⋯⋯は?」


 「ビジネス風に言えば、金にならない仕事しか彼らに任せる事ができないんですよ。


 だから、こういうところで利益を出しながら上手くやるには色々工夫が必要だから闇が深いって言われている業界なんです」


 俺の目には、沢山の笑顔が溢れた大人の子たちが伊崎さんに構ってほしいそうに周りをウロチョロしている。


 「そー!

 ゲームやろ!!」


 なんなんだよ、あのクソガキは。

 俺達の前ではあんな言動と態度のくせに。


 裏でこんなことをやっていたのか。


 「なんだ、箱詰めで1位獲ったのか?」


 「うん!凄い!?」


 「やるじゃねぇか」


 「へへへへー!」


 「⋯⋯⋯⋯」




 それから。

 色々喋り終わった俺達は時間になったので次の場所はと向かわねばならない。


 「またねー!!」


 「⋯⋯またな」


 見送られ、俺は移動の車内で訊ねた。


 「なんで言わなかったんです?」


 「ん?」


 「最初からそう言えば良かったのでは?」


 「良い行いを言う必要はない。

 世界は循環なのだから何も自慢することでもない」


 「循環?」


 「金なんていくら持ってても、使わなきゃ意味ない。


 世界は廻っている。

 自然、俺達、全てのものに。


 お金は一つのエネルギーであり、そのエネルギーが偏れば均衡はおかしくなる。


 今の世界みたいにな」


 「またなんか不可解な事を」


 「まぁ、要するに、特定の部分に集中することをルールが許さないって話だ」


 「なるほど」

 

 「て、言うがな」


 窓の外を見ながら、伊崎さんは何やら考えている。


 「実際、どうやったら世界ってよくなるんだろうな」


 お金も持っていて、力もある。

 女に困っていなければ何も困っていない。

 

 そんな人間が発するには、あまりにも何かじんと来るものがあった。






 「石田のアニキもそう思いません?」


 なんだかなぁ。

 

 「お前らはお前ららしくていい事だとは思うが、見えてるモノが全てじゃないってことは覚えとけよ」


 「「なんか小難しい事言おうとしてます?」」

 

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