うむ。人間って面白い。って俯瞰してる俺も
なんと言えばいいんだろうか。
「はむ⋯⋯っうむっごぼっ!
※※※※※※」
声にもなってない。
地面に並べてやった果物やご飯。
それらを野生動物かのように手にとってムシャクシャ食べる姿は⋯⋯まるで原始時代の人間と対面したかのような感覚だ。
と言ってもまぁ。
"俺は知っているが"。
それからどれくらいか?
3分以内に食べ尽くした余韻に浸るかのように、少年は喉をつまらせながら可愛らしく叩いている。
「飲め」
差し出した日本の水を渡すと、不思議そうに首を傾げてくる。
「こっちの言葉が分かるの?」
「ん?あぁ。一応な」
学のないやつには適当にしておくのが一番。
情報弱者には俺達からすれば常識にないような事でも通用する。
喉越しと耐えられなかった溺れそうな水の呼吸が服を濡らしている。
「焦るなガキ。
そんな事しなくてもまだ水はある」
そう言うと、超落ち着こうと何度も深呼吸している。
ペットボトルを落とすまいと優しく、苗を抱えるように。
⋯⋯そう。
人生で何度も見てきた光景。
水すら満足に飲めず、誰かからは嫌われ、誰かには嘲笑の対象にされて、軽蔑され、悪道の道を往くしかない子供を──よく知ってる。
日本では馴染みのない事。
それだけ平和であり予想だにしないこと。
しかし外はこんなにも残酷なのだ。
俺は幸い、向こうで知ってるから。
亜人という差別対象にどこどこ人で女の取り合いをしている国を知っているし、上の連中の因縁や遺恨で終わらない負の連鎖が起こって、滅亡した文明を知っているし、没落した貴族も知っている。
「⋯⋯⋯⋯」
少し感傷に浸ったか。
無言で近く廃材の上に座って一服しながら見下ろしてた。
「あ、あの」
見た目は恐らく小学校低学年か、ちょっと上くらいなもの。
想像できるか?
そんな歳の時、生きるために誰かに頭を下げて飯を食う想像が。
「なんだ」
「な、何を⋯⋯すれば⋯⋯」
世界は残酷だと、俺は思う。
まぁ俺も対価無しにこんな事はしない。
明らかに何をされるか怖がっている。
泳いだ目を必死に隠しながら訊ねるその姿は、日本人に理解できるのだろうか?
⋯⋯しかし。
「腹はいっぱいになったか?」
「え?う、うん」
「⋯⋯ならいい。
明日もこのあたりでウロチョロしているんだろう?」
「う、うん!」
「先に言っておくが、これについては内緒だ」
まぁ明らかに人外の所業だからな。
こんな死に方をするガキを見たことある地球のやつなんて居ないだろうし。
「行け」
「え?」
「いいから」
オロオロしながら踵を返す少年。
足早に去ろうとする少年を見て思わず言い放ってた。
「家族は?」
「お、弟と妹が」
「連れて来い。
お前だけ腹が膨れても、また人を殺したり騙したりするのだろう?」
顔が強張った。
まぁ図星なのだろうな。
「う、うん」
「疑うのは悪くないが、俺はあまり面倒なのが嫌いだ。
明日またこの時間、ここらでウロチョロしてろ。
もし何かされるようなら場所を書き置きしとけ」
静かに頷いて足早に去っていく。
「ふぅ⋯⋯」
ゴミ溜めに俺の吐いた煙が上っていく。
「綺麗だな」
どんなに現実がクソでも、空は綺麗なんだよな。
辛くても、幸せでも。
「⋯⋯⋯⋯」
*
「っ!連れてきた!」
次の日の夜。
俺は同じように賭けをしてから同じ場所で待っていた。
勿論?
似たようなガキは既に掃除済みだ。
「「こんにちは」」
「来たか、ほら」
向こうで俺がよく食っていた食材不明パイ。
「「「※※※※※※※※!」」」
犬みたいに食ってやがる。
まぁ、向こうの最高級素材を乗せてレシピ化した飯だしな。
そらうめぇか。
「あ、ありがとう!」
「お前は一人か?」
「え?どういうこと?」
「黒人だから差別されてるんだろ?
この辺で」
意図が通じたようで。
俯いた少年は俺を見上げてハッキリと言葉にした。
「一人じゃない。
いっぱいいるけど、みんな怯えてる」
「そりゃガキか?みんな」
こくんと無言で頷く。
「名前は」
「ヴェンルヒ」
「そうか。
ヴェンルヒ、全員明日は連れて来い」
「な、なんでこんな事してくれるの?」
「⋯⋯本当、なんでだろうな」
少し悩んでから返した。
昔を思い出したからとも言い難いし。
⋯⋯かと言って同情でもねぇし。
「名前は?名前!」
悩んでいると、妹の方からキラキラした瞳で訊ねてくる。
「湊翔」
「ソウ!ありがと!」
世界はこんなにも残酷なのに、子供はこんな状況でも笑えるなんて⋯⋯なんて素晴らしい世界なのだろう。
汚え頭を撫でながら、俺は笑う。
「名前は?」
「ノヴァ!」
パァッと花みてぇに笑いながら元気よく言ってくる。
「ノヴァ。ふっ、そうか」
「ソウ、辛いの?」
可愛くコテンと傾げながら言ってくる。
「ん?なんでだ?」
「悲しい顔してる!」
ーーそれでも笑うしかないよ!
ケルビンは凄い人だ!
「平和ってむじぃよなって」
「⋯⋯平和?」
「子供には難しいよな。
みんな喧嘩しないで生きていくにはってことだ」
「でも、大人は喧嘩してるの!
ノヴァ、それは嫌!っていうと大人のみんなは嫌いなんだって」
「ノヴァ⋯⋯ソウ、ごめん!
そんなつもりは」
俯いてしまうノヴァを庇い、ヴェンルヒは俺を見上げる。
きっとこの行動にも意味があるのだろう。
「気にするな。
お前たちが悪い訳ではない」
「⋯⋯っ」
俺の言葉に動揺したヴェンルヒが見開いた目を向けていた。
「ただ、生きていたいだけなのにな」
色んな過去を思い出す。
「なんでこうなっちまうんだろうな」
「ソウ?」
「ん?悪い。
ほら、見ろよ」
全員で夜空を見上げる。
「「「きれ〜!!」」」
「あんな綺麗なのにさ、俺達の心は汚えもんだから思うところがあんだよ」
⋯⋯なんかねぇかな。




