情知鉄城
オルスレッドエレクトロニクス。
世界でも有数企業である社長室。
その扉が開けられる。
「⋯⋯っ、何か進展があったのか!?」
その座に座る社長であるカイアン・ホークス。
彼はフェニックスバッテリー競争に敗走した。
帰国した直後は、あの子供の態度が気に食わず感情的な判断で手を上げた。
自分たちにとっては最大限譲歩した。
にも関わらず。
『なんでお前らにやる必要があるんだ?
お前らは俺達の技術の恩恵を受けるだけだ。
それにライセンス料を横取りして技術を盗もうとしていることなんて見え見えな事なんてされたらキレちまうよ』
少しでも盗もうと思っていた自分たちの考えを傲慢な物言いで言われた事で意地になっていた。
⋯⋯しかし。
とある番組を見ていたカイアンは気付く。
『現在、ERURA社の株価は下落しているのは間違いありませんが⋯⋯アナリストのエヴァン氏はどう思われますか?』
『個人的な感想といたしましては、これは一時的なものであると確信しています』
『それは?』
『前代未聞の技術であるということです。
確かに、下落自体を見れば理解はできるでしょう。
現在抱えている問題がERURAには多くあります。
既にいくつも問題を抱えていますしね。
しかし今回の共同開発。
これはただ事ではすまないというのが私の個人的展望と時代のゲームチェンジャーを鳴らす警鐘のように感じるのです』
『やはりこのバッテリーですか?』
『えぇ。
たしかに多くの問題を抱えているERURAですが、このバッテリーの性能は無視できません。
通常の運行距離が二倍近く伸びるということは、それだけまだ伸びしろがあるということでもありますから、時代的にもまだまだ数年が経過した場合──化ける可能性が大きくあると私は考えています。
それにアジアと言っても特に日本です。
○クタやタナカ、様々な品質が最高とまで言われている国の最新技術と言えます。
これを放出するということは、まだまだ日本の躍進を秘めている事を感じさせる何かがあるでしょう。
風の噂で聞きましたが。
どうやら強気な交渉があったようですが、私個人的に見れば間違いないと思います。
前代未聞に現在の価値観を投入したって意味がないのは分かるはずです。
ですから日本と気があったのはERURAということになります。
CEOのエリックは変わり者ではないですか。
控えめに言って頭がイカれてる。
だから合ったのかもしれませんよ?』
何かに負けた気がしたカイアンは圧力を掛けた。
伝統ある企業であるその力は報道、民衆の方向性を導くものにおいて力を発揮する。
しかし。
『下落はかなり続いていますが、エリックは依然としてポジティブな事を発信しております。
しかも、最新情報では、
「これから世界が変わる。
日本は私にとって神がお導きになった素晴らしい国だ。
今後私は日本と心中するつもりでプロジェクトに邁進していくつもりだ」そう言っております』
カイアンは頭を抱えた。
エリックは少なくとも人情もあるが基本的には自分の利益、技術欲、それらの為に全てを失う覚悟が常にある人間だ。
だからここまで短期間の時間であっという間に成長したのだから、ある程度の条件は飲むべきだったのだ。
⋯⋯気付く。
『ネイヴァン、調査を頼む』
『今更かい?』
『あぁ。
埃を叩けば少しは時間稼ぎにもなるだろう』
数ヶ月もしないうちに答えは返ってくる。
『埃すら落ちない。
鉄壁だぞ、あそこは』
なんてことだ。
共同開発元の日本人もいくら揺すっても出てこなければ、あれだけうるさいアメリカ人も興奮のし過ぎで何日徹夜なのか競うほどだと言う。
これでは食い入る隙がない。
物理的に行くか?
カイアンは考えるが、それだけはまずい気がして踏み止まる。
そうして様々な策を講じてきたカイアンの元に、秘書がやってくる。
「進展は依然として変わりませんが、隣の国である契約書は出てきたくらいです」
確かにあの場には私達とERURA、そして韓国がいたな。
「どれどれ」
契約書を読み上げるカイアン。
「ふっ」
笑わせる。
こんな子供騙し⋯⋯あの小僧に通用するわけ無いだろう。
「韓国も駄目だな」
「はい」
確かに表向きは悪くない内容だ。
日本に対してこれでもかというほど譲歩している。
──だが。
・知的財産権の共有
・技術派遣
・独占販売権
・技術相互使用
これらが毒のように細部に隠されている。
「強欲だな、アジアは」
「はい。
関係情報によるとまだまだ搾り取ろうとしていたようですが、伊崎というあの少年が無理やり追い出したそうで」
「恥を知らんのか。
この共有⋯⋯改良でも加えたら自分たちのものにしていいだと?
やりたい放題だな」
机に契約書を放り投げるカイアン。
「分かりづらくしていたようですが、伊崎という少年は一目でその意味を見抜き、独断で断じたようです」
「あの少年の一言に他の大人たちはてんやわんやだったな?
その少年とどうにかコンタクトは取れないか?
今からでも共同開発として」
「社長、さすがに厳しいかと存じますが?」
「クソッ、このままでは──」
その時、爆破でもするんじゃないかと言う勢いで社長室の扉は開かれる。
「社長!!!」
「どうした!?」
「テレビを!」
秘書がテレビをつける。
『エリックCEO、今回の発表は?』
『我々はERURA、並びに一部企業はこれより、プロジェクトゼウスを発足する事をここに正式発表いたします』
シャッター音と記者たちのどよめきが広がっている。
『どういうことです!?』
『我々は、電力を独自に生み出す方法を得た。
このプロジェクトが上手く行けば、我々はまさに雷帝のゼウス神にもしかしたら足元に及ぶかもしれないと思ってね。
まさに世界を穿つような続報を楽しみにしていろ。
日本は我々に力をくれる』
「急いでこの事について探れ!!」
ただ事じゃないぞ!?
電力を独自に生み出す技術が出来ようとしている!?
そんな事が可能になったら⋯⋯勢力図がまるっきり変わってしまう!!
「「は、はい!!」」
カイアンの表情は、これでもかというほど冷や汗を流していた。




