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【1/20本編堂々完結!】自力で帰還した錬金術師の爛れた日常  作者: ニキニキちょす
世界征服編

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閑話:レッツゴー先駆け

 アルケミが創立されて少し知名度が出た頃。


 スタジオには、数十名の無名女優や俳優、多種多様な人材が一同に座っていた。


 所属事務所は全員アルケミ。

 しかし今まで給料はあるものの、まともな仕事はなかったのだ。


 固定給で過ごせるのだから、全員かなり恩に感じている者も決して少なくない。


 俳優業は本当に懐が寒い人間ばかりだ。

 なので、全員がここにいる人間を敵視する。


 呼ばれた理由は一つしかないのだから。


 バチバチ自分が獲るつもりの火花を散らすような空気の中。


 「お待たせしました〜」


 陽気な数人が入ってくる。


 「お疲れ様です!!」


 俳優たちはすぐに90度お辞儀を見せる。


 「いいよ緩くて。座って座って」


 全員が一斉に着席する。


 「これから皆さんに企画内容を説明します。

 ⋯⋯夏羽」


 プロジェクターが詳細な企画内容を映し出す。


 「今回、上層部より本格的に動き出すことが決定したのは、ネット配信サービス媒体での番組、ドラマなどの出演だ。


 各々色々なテーマの作家が命を吹き込んで、かなりの出来栄えになる予定だ」


 全員の顔が一瞬困惑の色を見せる。


 「どうした?」


 一人の人間が手を挙げる。


 「ネット配信サービスというのは⋯⋯テレビとは違うのでしょうか?」


 「あー。そうだな。

 上層部からいくつか伝言がある。


 『テレビよりも自由度が高く、次世代の知名度を誇ると思ってる媒体での王になる君達のチャンスだ』


 『選択の自由はある。

 今の状態でも構わないが、受けたら面白い事が起こる』


 と、伝言は貰っている。

 会長はこれから海外に向かう事になっているので、しばらくごまを擦れなくなるだろうしね」


 そう。

 まだ無名の彼らは、なんとか覚えてもらおうと様々なやり方で会長たちにゴマをすり、仕事を手に取ろうと日々奮闘している。


 「作品の形態、ジャンル、ほとんど決まっている。


 出演陣を決めるだけだが、まずは本人達の選択から始めようと思う」


 




 それから、話が終わり各々の時間。

 溜息を吐きながらソファに腰掛ける俺。


 「んー、やっぱり向いてないのかな」


 23歳の芸歴10年目の無名俳優。

 それが俺、佐藤樹。


 特別凄まじい程の容姿というわけでもないが、悪くもない。


 この業界の中では中の中で終わる程度だ。

 そんな中、丁度俺の人生は岐路に立っていた。


 「はぁ」


 子役から続けてはいるものの、棒読みだって言われ続けてもう23か。


 ずっと演技の幅がないと言われ続け、必死に努力した。


 しかし残念なことに、本番に全く強くなかった。


 この業界は自我が強くて当たり前。

 自分を見せることに長けている者たちが集まっているのだから、自分が浮くのは当然の事ではあった。


 おかげで、オーディションは全落ち。

 情けで色々な伝手を使い、頭を下げながらミニ番組に出演する事でなんとか飲み食い出来ているだけの、ただの俳優かぶれだ。


 しかし。 

 つい半年前の事。



 『俺が⋯⋯所属ですか?』


 今勢いに乗っているこの事務所のオーディション。


 全落ちなのだから今更だ。


 ヤケクソになって応募し、書類選考は通った。


 『おっ、君は佐藤樹くん?』


 部屋に入って、驚いた。

 面接官はまさかの子供だった。

 

 中高生ってところの。


 『は、はい!』


 『うん。座って』


 や、やべぇ。

 アルケミって、マジでこのレベルがゴロゴロいるのかよ。


 面接官である子供の両隣には、モデルかと思うほど美しい女性がついており、近くにはイケメンたちも勢揃い。


 『君は、なんでウチに?』


 『あっ、えっ⋯⋯と』


 あーもう!

 なんで吃るんだよ!


 『緊張しなくていいからね。

 経歴は⋯⋯』


 あー終わった。

 

 『うん。面白いね。

 君みたいなタイプは多いのかな?この業界は』


 『と、言いますと』


 『テレビに出ている人間は極わずかだけど、売れない人間はとことん売れない。


 そんな意味かな』


 『な、仲間はみんなそうです』


 残酷だ。

 目の前の子供はこんなにも輝いているのに、俺ときたら、一時期輝いた栄光だけで未だに縋っているんだから。


 恥ずかしくて面と向かって喋ることすら憚られるよ。


 『ふーん。

 君は病院に行った?』


 『し、質問の意図がわかりません』


 『行った?』


 『行ってません』


 なんだ?この問い。


 『診察をおすすめするよ。

 まぁだけど、いいや。 

 ちょっと来て』


 全く意味がわからないけど、とりあえず言われた通りにやってみる。


 『痛っ!』


 熱を確認するように手を額に当てられると、それだけでとんでもない痛み。


 『うん。もう大丈夫』


 『だ、大丈夫⋯⋯というのは』


 『ん?いや、こっちの話。

 とりあえず君は面白い──よって合格』


 こんな感じで樹の面接は話をすることも無く決まった。




 「ほれ、樹」


 ソファに腰掛けていた俺に、缶コーヒーを差し出す人影。


 「光?」


 「よっ!」


 見上げるとそこには、見覚えのある同期である七星光。


 24歳のフリーターだ。

 ざっくり容姿を表すと、王道なイケメンだ。

 社会人からすれば少し長いくらいのホストっぽいような。


 「アルケミ⋯⋯やっぱすげぇな」


 「うん。他事務所で見た顔も何人もいた」


 この業界では破格な値段と待遇。


 最初は恥知らずだと言い放っていたベテラン連中も掌を返したように最近はアルケミについて言及するようになっていった。


 「凌牙先輩や松村先輩だっていたよな?」


 「あそこにいた連中も、無名の俺らといるようなランクじゃなかったと思うしね」


 一言で言えばここ魔境だ。

 中堅より下の連中という括りで集められたに違いない。


 アルケミの感覚がおかしいのだろう。


 「あ、そうだ⋯⋯」

 

 「ん?」


 「樹はどうするか決めた?」


 「選択のやつか?」


 一人一つ、好きな作品を選べる。


 「そうそう。

 俺は料理人のやつ。樹は?」


 「んー」


 「どうした?」


 「いや、俺俳優に向いてるのかなって」


 「急にどうした?」


 「丁度家業的に母親も帰ってきてってさ。

 人生的にももう色々考えないとなって」


 実家の豆腐屋も、後継者がいない。

 

 「まぁそうかぁ。

 樹のところは家業があったらしょうがないのかもな。

 

 うちは何もないからこのままやるよ。

 幸い、固定給はいいし」


 爽やかに指で金を表して笑う。


 「まぁでもよ?

 最後にするんだったら、ちゃんと想い込めたらいいんじゃねぇ?」


 「だね。

 親に良い顔をさせたかったんだけど」


 「光ー!」


 「おう!今行くわ!」


 返事を返し、光は立ち上がって俺を見下ろす。


 「樹、今だけは──全力で演じろよ」


 「⋯⋯うん!」







 それからすぐに2日も経たぬ内に勝負の日が訪れた。


 「では、「病室の悪魔」主役希望の⋯⋯佐藤樹さんだね。


 設定は分かるかな?」


 「はい!頭に叩き込んでいます!」


 この作品は末期である主人公、平塚亮介という男が病室で誰にも看取られないまま死を迎えてしまう。


 だが、その前にこの男の持つ本来の力が覚醒し、読んだこともないのに後に後世にいくつも作品を残す事になる。


 ──作家として。


 様々なジャンルを書きのけ、読んだ人間が人の皮を被った悪魔と崇めるほどとなってしまう。


 だが、それは全て病室の中で。

 死にゆく時間を身体で全て感じながら、文字通り命懸けで書き続けた狂人の話。


 それがこの、病室の悪魔だ。


 「凄いねぇ、短時間だったと思うけど」


 昔からこういうのは得意だ。

 でも、本番では上手く行かない。


 典型的なタイプだ。


 「ではカウント」


 "3、2、1、"


 ⋯⋯そう。

 今までにない没頭感。


 緊張して上手くいかなかった経験。

 それらが突然、発動しなかった。


 心臓の鼓動も変じゃない。

 身体が──まるで。


 彼のようだ。


























 「カット!」


 「⋯⋯あれ?」


 カット?あれ?

 俺、何やってたんだっけ?


 コソコソ話すPDの顔色が険しい。


 やべぇ。

 俺、何かやらかしたのか?

 記憶が飛んでる。

 セリフを言った記憶もない。


 内心、終わったと溜息混じりに吐くくらいしか言うことがなかった。


 「佐藤樹くん」

 

 「は、はい!」


 一呼吸置いて。


 「すぐにスケジュールを空けてくれるかな?」


 「⋯⋯え?」


 思ってもなかった言葉。


 「いや、正直、多分このあとの誰が来ても、あの狂気じみた演技が出来るとは思えない。


 芸歴は10年ほどあるみたいだけど、誰も見る目がなかったかい?


 正直とてつもない原石だと思うんだけど」


 「み、身に余る言葉です」


 「凄いよ。形容し難い。

 では主役は佐藤さんに決定」


 まさかの一発合格。

 やべぇ。セリフを発したときの記憶がない。


 ただ、身体が痛くて、頭がぼうっとして、気怠くて。


 なんで生きてるんだろうと言う感覚だけは覚えている。


 「あ、ありがとうございます!!!」


 そしてそれから。

 配信されてからすぐ、映画まで決まる程視聴率が良かったらしく、試写会まであっという間だった。






 ──緊張の当日。


 「お兄ちゃん!」


 「夏海」


 俺の妹の夏海。

 いつも俺が上手く行ってくれるようにサポートしてくれた来年高校生の今。


 「お兄ちゃんが映画主演なんて決まるなんて思わなかったよ!」


 「ま、まぁな」


 まさか本当にトントン拍子で試写会まで行くとは。


 「ん?あれ」


 奥の方で、重鎮たちがお辞儀してる。

 誰だ?


 「伊崎さん、この間はありがとうございました!」

 「あっ、久しぶりです」

 

 「⋯⋯え!」


 「お兄ちゃん?どうしたの?」


 あ、あの人。

 

 「夏海、待っててくれ!」


 「ちょお兄ちゃん!?」


 「いやぁ、原作であるこの作品、まさか伊崎さんが作っただなんて」


 「ははは。全く問題⋯⋯」


 「あの!」


 「ん?君は⋯⋯って主演の」


 オジさんがこちらを見るものの、肝心の面接官は気づいていない。


 「伊崎さん、彼が用があるみたいですが」


 「ん?あぁ、あの時の?」


 「は、はい!」


 「あぁ主演決まってたんだね」


 「わ、分かっててきてくれた訳ではなかったんですね」


 「ほら、うちの妹があそこにいるんだけど」


 顎で指す場所を向くと。


 「昴様!」

 「あ、あはは⋯⋯」


 なるほどね。

 妹さんは別役の昴くんのファンだったのか。


 「でも、記憶にあるよ。

 凄まじい演技だった。

 どう?やっていけそう?」


 「あの!」


 「ん?」


 あの後、俺は病院にすぐに向かった。

 なぜか分からないが、あの返しは何か意味があると思って。


 『あぁ、これは行けといった方の意味がよくわかります』


 『どういう事ですか?』


 『これは重度手前の注意欠陥、失語症などの障害の傾向があります』


 『え』


 『セリフなどの時、吃ってしまったり、言葉が出にくかったり、他人の表情などの読み取りが難しい時がありませんでしたか?』


 『あ、あります』


 それから重大だと気づいた俺は、すぐに何回も通うことにした。


 『指示した方がいたら感謝を伝えた方がいいと思いますよ』


 『⋯⋯え?』


 ある時だった。

 医者の人が突然、変な事を言い出した。


 『なぜかは分からないんですが、診断した時から明らかに状態が正常になっています。


 今じゃ逆に過剰に覚えられたり発言できたりしますから、没頭のし過ぎに注意してくださいね』




 「あなたのおかげです」


 「あぁ、あの時のやつ?」


 「はい!

 まさか自分にあのような事があっただなんて」


 「佐藤、伊崎さんはアルケミのオーナーなんだぞ?


 失礼のないようにな」


 「え!?」


 「まぁな。

 あんまり気にすんな。

 俺は"気に入らないやつ"を入れたくなかっただけだから」


 「すみません!馴れ馴れしく!」


 「全然。──ん?」


 「お兄ちゃん?」


 「夏海!今話しを⋯⋯!」


 一瞬驚いたものの、オーナーは気さくに話しかけてくださった。


 「そちらは妹さん?」


 「あっ、佐藤夏海です!」


 危ない。

 挨拶もできなかったらあとでキレるところだった。


 「妹さん、誰が好きとかあるの?」


 「あっ、え、えーっと⋯⋯」


 俺をチラ見。

 素直に言えとアイコンタクトを送る。


 「す、スバルくんが⋯⋯」


 「なら、行ってくるといい。

 昴には俺から言っておく」


 と、オーナーは首にあるマフラーを取り。


 「少し乾燥しているな。

 寒いだろう?俺のでも使え」


 「あ、ありがとう⋯⋯ございます」


 妹よ。そんな見上げて絵に描いたような恋する乙女みたいな顔をするなよ。


 「試写会、良かったよ。

 君がこれから活躍することを祈っている」


 「はい!

 骨を埋めるつもりでやらさせていただきます!!」


 「たんまり金を入れてくれよー未来のスター」


 手を振り、消えていく彼の背中が見えなくなるまで、俺は頭を下げ続けた。


 頑張ろう。俳優人生。

 やり切るんだ!


 「お、お兄ちゃん⋯⋯」


 「ん?どうしたんだ?」


 「あの人、名前なんて言うの?」


 「え?

 た、確か、伊崎さんって言ってたような」


 「か、カッコイイ⋯⋯」


 妹よ?

 そんなホイホイ好きになるものではないような気がするのだが⋯⋯。

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