ある種のトラウマと青春
ーーケルビン、魔法はこう使う
"うわァァァァ!!!"
普通なら。
きっと何かを教える時に人に見せるのは当たり前だよな?
俺でも同じことをする。
頭に浮かばないことは人間、具現化する事はできない。
だからまずは見せて、イメージさせて指導に入る。
だがよ?
人に向かって撃つのは違くないか?
しかも、相手は──生涯で一度も敗北したことがない魔導師であり、錬金術師。
師であるレグルスの経歴はこれもかなり異質で、最初から錬金術師ではなかったらしい。
曰く。
暇だったから。
飯が食えるようになると聞いて。
曰く。
女を無限に抱けると聞いて。
曰く。
自分を永遠に高めることが出来ると聞いて。
そんな理由だったかららしい。
エルフォリアでも似たような状態ならしい。
そう。この男は本当に全部そう。
冗談じゃないのだ。
例えば初級魔法とされるファイアーボール。
あのレベルの人間のファイアーボールはファイアーボールではない。
それはただの暴力だ。
そんでそれを、平然と、一日俺が覚えるまで撃ってくるスパルタ具合だ。
⋯⋯ええ。
それはそれは覚えましたよ。
覚えないと本当に殺されると思うくらいには。
この人は本当に多種多様。
素手、剣、槍、弓、戦場で使うような武器をすべて使える。
キモいだろ?
あんな強いのに、万能。
そんで性格はアレだ。
そんで⋯⋯そんで。
"今俺の状態すらバレてる"
「とりあえず馬鹿弟子」
まずい。
「俺が最初に教えた事を覚えてるか?」
えぇ。知ってますとも。
「戦場で自分より強いやつを見たら、躊躇なく退却せよ」
「よく分かってるじゃないか」
嗤い、頷いて納得するあの化物は、元気よく周りの景色を眺めながら、絶賛お説教タイムだ。
「そうだな?
俺は確かに言ったはずだぞ?
何か一つを極めることも、一つのことを突き詰める。
悪くない。
だがそれは、生きる魔導を進む者にとって理想論でしかない。
俺は昔なんと言った?」
「選択肢の多さは実力に比例する」
「そうだ。現実は非情だ。
俺は言っt⋯⋯※→:"※」
この人は。
実力も持っているのにもかかわらず、何故か用心深く、本質をよく理解している。
まるで最初から全てを解っているように。
「現実の戦場では、その一つの手段を失った瞬間、価値をなくす。
選択肢が多いということは、それだけ生きる能力が高まるということ。
よって、警戒すべき対象は主に2つ。
一に選択肢を多く持つ者。
二に年老いた兵士。
この2つのどちらかを持つ者が目の前に現れた場合、最重要警戒対象だ」
「⋯⋯えぇ。散々聞かされましたけどね!」
撃つ。撃ちまくる。
「そうだな。
一つ目は言葉通り。
選択肢が多いという事。
それは、戦場で生き残るためには必須事項であり、魔法が使えなくなった場合は武器。
武器が使えない場合は周囲にある物。
ない場合は自身の体。
こうやって選択肢の幅があるという事は──」
ゲッ。
「どうやら、お前は老いたな」
満面の笑み。
小石を拾い、指ではさみ。
──懐かしの地獄。
ドゴンッ!と。
とても小石を弾いたとは思えない轟音。
一瞬で俺の前にその小石はやってくる。
「きっ⋯⋯!」
今の俺の全開ギリギリでも、小石すら頬を掠めるほどの速度。
「キモすぎだろ!クソ師匠が!!」
「あァ!?馬鹿弟子!
そう。なんで説教してるのか──」
⋯⋯あれ?俺の目でも追e──
瞬間、俺の脇腹に久方ぶりに蹴りがクリーンヒットする。
「ァ゛ハッ!」
「お前は俺に勝つ為には短時間での戦いを前提に挑んでいる。
だが、選択肢が魔法である事がわかっていること。
お前の魔力の最大値、お前の身体能力、お前の思考回路。
全てこの短時間で理解できる」
クソッ、連撃が速すぎる!
やり返す。
だが、両足を開いて落としてる状態でも身体を反らされ、当たらず。
追撃の蹴りを狙っても、ヤンキー座りで溜息をつくこのクソ師匠。
「ハァ。2つめ。
老兵も同じ意味だ」
全力──。身体強化!
「だから言ったろ?」
真横から仕掛ける。
「老兵は馬鹿にするものではなくて、尊敬の念を持たなきゃならん」
アソコをかきながら片手で。
俺の連撃をパパンと汚れを払うかのように防ぐ。
「くっ!」
「なんせその年まで戦えるくらいの選択肢の幅と実力。
加えて戦況の把握に素早い判断材料の発見が凄まじい」
跳ねて飛びながら回し蹴り。
しかし。
⋯⋯一瞬すらも。
俺の事など見ずに片手で受け止めるどころか払われ、俺の体を使って軽く転がり、気付けば背後を取られてる。
「アイツらはおっかない。
隙あらば殺しにかかってくるからな?」
数百年ぶりに味わう──背筋が凍る感覚。
ヒリヒリした感触。
「クソがァァァァ!!!」
「おー、これはミコポ族の格闘術」
「ッぐ!!」
防がれるのは想定済み。
魔力を剣にして斬り下げる。
「ほう?
俺に指摘され、即座に魔力を変形させたか。
この剣術は王国剣術。
そして次は、アシュタル民族の独特な水のような動き。
悪くない──」
バレてる。クソッ。
「馬鹿弟子。
お前──俺の事を年老いたせいで忘れてるんじゃないだろうな?」
あぁ⋯⋯アンタの二つ名なんていくつもあるもんなぁ。
「魔導師殺しの達人」
「そう。
あとは無敗の錬金術師な?」
マジで負けたことないんだよこの人。
あの人が死を選ぶ数週間前ですら、俺の全開の状態で全く歯が立たなかった。
「懐かしいモノを見せてくれる。
お前も俺と同じように沢山の流派を学んでいるのだな」
剛拳。アメル剣闘術。
持てるすべてを叩き込む。
「だが駄目だな」
俺の視力ですら追いつかない。
「ンがッ!!」
顎が跳ね上がる。
そのまま首を掴まれ──荒々しい獅子の満足気な笑みと共に地に叩き込まれる。
「うっ⋯⋯ガッ!!!」
「技術の披露会じゃないんだぞ?
これは殺し合いなんだから。
相手が何を苦手とするか。
何を嫌だと感じるのか。
理解し、そしてそれを分解し、繋ぎ合わせていく。
これは何を言っているかって?
──全ての物事において上達する方法だよ」
⋯⋯クソが!
余裕たっぷりな顔しやがって!
「お前俺のイチモツ何回食らったんだよ。
まだ分かんねぇか?
⋯⋯馬鹿弟子が」
「くっう⋯⋯!」
「慢心していいのは大海を持つものだけだ。
そうだろ?
お前が言ってたじゃないか。
色んなのスキルを増し増しすればいいってな。
だがよ?池くらいの水の持ち主に湖をいくつ与えたところで──星の大海に勝てると思ったか?」
「⋯⋯うっ」
「やり直し」
持ち上げられ、俺はぶん投げられる。
「あっ⋯⋯ぐっ⋯⋯ゴホッ!」
数十回転がり、血を吐きながら起き上がる。
「っ⋯⋯くっ⋯⋯ふっう」
「ハァ、馬鹿弟子。
傲慢になったな。
俺が最も得意とする陣空権。
忘れてる上に、戦い方を忘れ、頭が頑固。
ガッカリだ」
「クソ師匠が」
「人は理解を拒む。なぜか?
怖いと恐れるからだ。
俺を見た連中は魔力に恐れ、知識に恐れ、勝てないと恐れた。
だがほんの数人、挑み続けた人間がいた。
そいつらに共通していたのは、何かで頂点に立った者だった。
そう。
理解する事。
理解すれば恐怖は恐怖ではなくなる。
意外性。予想外。
人に大切なものは、理解することから始めなければならない」
あぁ。何回も言ってたよな?
「そうだろう?
ガキの時には理解できなかった魔法は、今となっては赤子同然の理解を得ている。
だが、それ以上になると途端に諦める。
歳を取ると経験が当たり前に変わる。
緊張、思考、感情。
全てが一定になる。
だから俺は女を抱く。
定期的に戦争に参加する。
時には魔法無しで戦争に行った事もある。
思考の凝り固まりは人間性を失った人形と何ら変わらん。
⋯⋯そう、今のお前だ」
その瞬間、俺の全神経が昔の感覚を思い出す。
金属を無理やり擦り合わせて削ったような⋯⋯キューンと身に覚えしかない魔力が収束する音。
「少星滅撃」
白い炎に内側には蒼い魔力。
そう。これが師の持つ特異点──星の魔力。
「ハァ⋯⋯はぁ、ハァ、はぁ⋯⋯クソッ」
ほぼ無詠唱。
しかも、この魔法は普通じゃない。
「うぐっ⋯⋯ガハッ!」
巻き込まれて吐血して、なんとかうつ伏せで生きてる。
通常、魔法というのは、術者の手元や周りに現れるのがほとんど。
「おーよく生きてたな」
だが、あのクソ師匠が使う星の魔法は違う。
「ゴホッ、ゴヘッ⋯⋯ゴホッ!」
腰に手を当てて、人差し指の先で操作。
変わんねぇよな。
瞳に映る場所そのものに魔力を強制的に発生させ、半径およそ500メートルまで爆発のダメージを負う。
「ふんっ、"遊び"に付き合ってやってるんだ。
まともな戦いにさせろよ?」
⋯⋯遊びだって?これがか。
魔法は射出か、制御して動かすか、収束させて広い範囲で影響を与えるか。
違う。
この人の魔法は、魔力を見たところに突然発生させるのだ。
そしてその構築スピードは、常人の魔導師の1000倍。
おそらく誇張じゃない。
俺ですらこの人の構築能力に及ばない。
正真正銘──化物。
「おい、ケルビン。
お前、まさか俺と同じ眼を持ったから舐めてねぇよなァ?」
はは。知ってるとも。
「さっ、馬鹿弟子──」
まるでこれからピクニックに行くかのように。
「一からやり直しだ」
「クッッッソがァァァァ!!」
もはや戦いではない。
「ハッハハハハハハ!!馬鹿弟子!
オメェの腐った勝ち誇り根性を締め直してやる!!」
爆心地が1秒一回。
「死ねぇぇぇぇぇ!!!クソ師匠!!!!」
逃走。
全力疾走である。
「馬鹿弟子が!
女にばかり現を抜かしてねぇだろうな?
研究⋯⋯してねぇな?さては」
転移しながら。
「うるせぇ!!!!!!」
「"""育ての親"""としては悲しいぜぇ?
息子が女と腰振るために強くなりましたなんてっ⋯⋯!」
「アンタに言われたくないね!
一日中埋もれてたアンタにだけは言われたくねぇ!!」
感覚としては、走って逃げた先に突然あり得ない範囲の爆発が起こるような感覚だ。
とにかく発生点が見えたら即時転移。
「反撃はなしか馬鹿弟子」
「無理だっつーの!!」
あの人の体と魔力は全盛期。
対して俺は、限界値も対して超えられてない魔力値。
あの魔法はアレでも"加減"している。
本物はこんなものではない。
マジで文字通り、遊んでいるのだ。
俺を使って。
「オイオイ、俺が遊ぶわけ無いだろ?
説教したじゃないか」
「あぁ!?
こんな泣きじゃくりそうな弟子を見といてそれか!?」
「また俺に躾けられたいのか?
ベッドの上で」
「胸糞悪いことを思い出させるな!!!!!」
数値にして説明するのはむずいが、あの魔法は一発で1000万程。
つまり、俺の今の全魔力を振り絞ってそれが限界なのだ。
上限は毎日少しずつしか伸びない。
だから、年月が経たないと育たない。
振り返る暇もない。
とにかく、数十個規模のクレーターを走り抜けながら、俺は舌打ちしながらクソ師匠を見つける。
「チッ!」
やるしかないか。
「ほぉ?」
「少星滅撃」
うしッ!
「どうーだ!クソ師匠め!」
⋯⋯あ、しまった。
「俺が見えてないとでもォ!?」
駄目だこのクソ師匠め。
「ヤバッ──」
もろに食らう。
「ゴホッ、ゴホッ!」
吹っ飛ぶ。
全身のダメージが酷すぎで、転がりながらうつ伏せで倒れつつも、必死に考える。
マジで勝ち方がわかんねぇ。
この人だけは──何も勝ち筋がわからん。
「素手でも駄目、剣でも勝てない、槍でも難しそう、遠距離でも難しそう⋯⋯お前、俺が教えた事を何も活かせてないな」
目の前に転移してきては、嗤って見下ろすクソ師匠。
「あぁ?」
「お前には何も見えてないようだな」
「はぁ?」
⋯⋯その時、今まで言われた事を全て思い出す。
ーー説教だ。
ーー選択肢の幅が実力に比例する。
「フッ、おせぇんだよ馬鹿弟子」
一気に距離を離して、魔法を連発する。
そして、時間稼ぎをしながら、高速で頭を回す。
なぜあの人は説教をした?
多分本当に思っているのもあるだろうが、初手⋯⋯魔法を防ぐことはしたものの、返してこなかった。
むしろ蹴りに来た。
魔法を使えばいいのに。
「風塵爆雷」
迫るクソ師匠に魔法を放って時間を稼ぐ。
落ち着け。
だがさっき、俺が距離を近づけてきた途端、魔法を撃ちだした。
まるで俺に見せるように。
そこまで考えた時、俺の目は大きく見開いた。
"魔力感知"
こちらに来て忘れていた。
目を凝らして師を見る。
「そういう事か」
ソレに気付いたとき、俺は勝ったという気持ちと歯軋りをする悔しさが同時に表に感情として出ていた。
「馬鹿弟子、さっさとしろよ」
空中を爆発させながらこちらへと雷神の如く走ってやってくるクソ師匠。
「──こんな事で勝ったなんて思いませんよ」
「⋯⋯ふっ」
本来、この世界に魔力はない。
俺もそうだが、エリクサーを飲まないと魔力は戻らない。
魔力感知であんたも魔力が今、本来ならするはずの自然治癒がしないのが分かる。
つまり今ある魔力の範囲で戦わないといけなかったから、肉弾戦で時間を作りながら俺が気付かないと思った直後、魔法に切り替え、無理やり放出した。
そう。
アンタは数分も連発した訳だから、もう空。
「ふざけんなよ、なんでだよ」
アンタなら、エリクサーを作れるくらいの魔力量はあったはずだろうが。
最初からそのつもりだったのかよ。
俺はそのまま、なんとも言えない顔で、魔法をぶっ放した。
──もう空のクソ師匠に向かって。




