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【1/20本編堂々完結!】自力で帰還した錬金術師の爛れた日常  作者: ニキニキちょす
世界征服編

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てるてる坊主

 『ざっきー!何処だよ!!

 冗談じゃねぇよ!!

 まだ俺達の人生終わっちゃいねぇよ!!』


 「俺に、生きる道を示してくれて、俺を助けてくれて⋯⋯感謝しきれない」

 

 だけどもう、限界だ。


 電話切って前を向く。


 信号待ち。赤信号。

 もう、俺には何も残ってない。


 「紗季。

 俺、知らない内に限界だったみたいだ」


 職場の奴らに笑われた。


 ーーお前彼女が入院してるからって毎日お見舞い?


 死ぬわけじゃあるまいし⋯⋯なぁ?

























 「くっっぅ⋯⋯ァァアアア!!!!!!」


 それまで冷静だったのに、発作のように怒りが沸き立って、血が出るほど拳を握りしめ、そのまま髪を掻き毟って気付けばスマホを地面に叩きつけていた。


 「──あ」


 背面に映る写真。


 「ご、ごめん紗季」

 

 乾いた笑い声で慌てて手に持つ。


 「あ、あっ」


 紗季の顔が傷ついて⋯⋯


 だが同時、上司の言葉が頭の中を順ぐり。

 順ぐり巡る。


 「う゛る゛せ゛ぇよ゛!゛!゛」


 近くの標識の棒に殴り掛かる。


 「てめぇに!!俺の!!

 何がわかんだよカスがよぉ゛!゛!゛」


 ボーンと微かに揺れるのを眺める。


 「ハァ⋯⋯ハァ⋯⋯クソッ」



 ーーまだ彼氏だろ?

 結婚もしてn──


 「黙゛れ゛よ゛ク゛ソ゛が゛!゛!゛!゛」

 

 ーー伊崎ぃ、仕事はできるのに、人間性がなぁ?俺だったらそんな息k──


 「あー!あー!黙゛れ゛よ゛!゛

 黙れ黙れよ!!!

 うっせんだよ!!」


 ただ蹴っていた。


 「死ね!!どいつもこいつも!!」


 無我夢中に。


 「なんなんだよ!

 俺が何したってんだよ!!」


 周りを見渡しながら。

 だけど耳には声が聞こえる。


 ーーあははははは、何だその顔は?

 とりあえず、仕事はやってからその御見舞とやらに行ってこい。


 コーヒーくらいはやるかr──


 「不倫してる馬鹿がよぉ!!!

 黙ってろよ!!


 俺はただ普通の人生を歩みてぇだけなんだよ!! 


 てめぇみたいに女遊びなんてしてねぇんだよ!!


 聞こえねぇのかよ!!!


 一人の女とただ普通の人生が送りたかっただけなんだよ!!


 あぁ!?

 誰がてめぇみたいなやつ⋯⋯うるせぇよ!!


 俺が人でも殺したんか!!

 攻撃的なことでも一言でも言ったか!?

 

 殴ったのかよ!!」


 あー苦しい。


 「神はどこだよハゲがよ!」


 寝てない。

 食べてない。


 フラフラしてるせいでただの酔っぱらいだ。


 「幸せそうなやつなんて全員死ねよ!!

 俺割と善良な生き方してただろ!!


 何が気に食わねぇんだよ!

 何がわかんだよ!

 俺以上に普通なやつで耐えた奴いんのかよ!!


 ええ!?」


 暴れた。暴れ散らかした。


 もう──限界だ。


 「ヒュ⋯⋯ピー⋯⋯ハァ⋯⋯クソッ⋯⋯⋯⋯」


 フラフラ地面に尻もちついて周りを見ても、気味悪がられるだけ。


 「⋯⋯⋯⋯」


 返し終わって無駄遣いの一つもしなかった。

 貯蓄はあるだろうし、保険金も掛けてある。


 副業のお金も別口座にある。


 「南⋯⋯悪い」


 また信号の前に立つ。


 南。沢山迷惑をかけたなぁ。



 ーー妹さんの事なんですけど


 ーーどうやらお金持ちの娯楽に出れば稼げるという話に乗って⋯⋯


 ーー私もある程度知ってるんですけど、とても言えない事ばかり



 「駄目な兄貴で悪い」


 コンビニの扉。

 反射する自分が見えた。


 鏡の中の自分が死ねと親指で首を斬るような動きをしてくる。


 その場でアホみたいなダンスを踊りながら、俺に死ねと煽ってくる。


 それが幻覚なのかは関係なかった。


 「⋯⋯行ってくるよ。南、紗季」


 そう踏み出した時だった。







 「あれ」


 随分時間が経った気がする。


 「何処だここ」


 一面に映る森。

 左を見ても、右を見ても、振り返っても森。

 

 「⋯⋯⋯⋯」


 だがどうでも良かった。

 なんにも気力が起きない。


 「⋯⋯何処だか知らないけど、もうどうでもいいんだから」


 好都合だ。

 自然の中なら、事故死に装えるだろうし。


 「ロープで⋯⋯と言ってもそれはまずいか」


 だが、俺の目の前には異変が一つあった。


 「家?」


 古い木の家。

 かなり年季が入ってて、蹴ったら破れそうな⋯⋯そんな家がポツリと少し歩いた先辺りに見える。


 「何がしたいんだか」


 不思議と精神は落ち着いている。

 と言っても別に、気持ちが変わるわけではない。


 ただ、行動を起こさないくらい。


 「何処にやってきたんだ?俺は」


 雑草の生え方的に、田舎でもここまでじゃないだろう。


 周りも背の高い植物ばかりだし。

 

 何も考えなくても映る綺麗な空。

 少し汗っぽい匂い。


 でもポカポカして、決して嫌じゃない⋯⋯夏特有の匂い。

 

 「なぁ──俺どうしたら良かったんだ?」


 見上げて。

 俺は祈るように空へ話し掛けていた。


 「どうしたら南とか、紗季を幸せに出来たんだ?


 誰か⋯⋯誰か⋯⋯教えてくれよ」


 腰が抜けた。

 丁度良く木の根に体を預け、俺はただ無気力に大自然に囲まれながら呼吸を続けた。


 


 とは言っても。

 人間、2日も3日もすると、流石に身体は異変だと気付く。


 ぐぅぅうぅぅ。


 「俺、まだ腹が減るんだな」


 もう死にたいのに。

 俺なんて何も出来ないただのカスじゃないか。


 家族一人救えない。

 彼女一人救えない。


 誇れるような人生すら歩めない。


 なんなんだよ。俺の人生は。

 何をしてたんだよ。


 働いた。勉強した。

 弱者は弱者なりに積み上げた。


 「俺は⋯⋯全力を尽くしたじゃないか⋯⋯」


 だけど。

 平然と運命みたいなものは俺の全てを奪っていく。


 唇が乾く。

 口を開くにも固まって痛い。


 湿った木の根。

 水が飲みたい。


 ⋯⋯死にたいのに?


 「いやぁ、※※※※様、本日も誠にありがとうございました」


 ん?聞こえない。


 「さっさと帰れよー。

 俺はやることがいっぱいなんだからな」


 すげぇー。

 綺麗な外国人。


 「ッたく⋯⋯あいつらときたら──ん?」


 「あの」


 とりあえず、川の在り処だけでも教えてもらおう。


 「男は間に合ってるから」


 「そうではなくて」


 締めかけの扉を止めてくれる。


 「ん?なんだ?

 浮浪⋯⋯者にしては⋯⋯清潔感あるし、変な格好──」

 

 上から下まで品定めされそこまで言いかけると、綺麗な男の人は驚いたように俺を見ながら高速で瞬きをした。


 「いっけね。

 とりあえず用は?」


 「あっ。

 水が飲めるような川はありませんか?  


 後は、地図とかあると。

 スマホを叩き割っちゃって──あれ?」


 割ったスマホがない。


 「あれ⋯⋯おかしいな⋯⋯紗季の写真が」


 紗季が笑ってる写真はアレだけなのに。

 

 「⋯⋯おい、何だその顔は。

 どうした?」


 「あ、あはは。すみません。

 この辺りって自然豊かだと思うんですが、ロシアとかの場所なんでしょうか?


 綺麗なお兄さんもヤケに日本語が通じますし、なんか色々複雑な状態で⋯⋯説明が付かないんですよね」


 「日本?ロシア? 何処だ?」


 え? 知らない?


 「し、知らないというのは?

 ご存知であればここは何処なんでしょう?」


 「あァ?お前頭イカれてんのか?

 ハァ⋯⋯」


 外国人って凄いな。

 怒ってんのに顔綺麗だからあんまり気にならないっていうか。


 「とりあえずお前、これ取ってこい」


 「ハッ?」


 渡されたのは、読めない謎の本と瓶。


 「あ?

 この辺りじゃ女でも稼げないことで有名だぞ?


 身体使ってる女も逃げ出す小さい村も村だ。


 ⋯⋯お前が思ってるよりも辺境だぞ」


 マジか。ていうか、女も逃げ出すって。


 「というかすみません」


 「あ?なんだ?

 俺は今、研究で忙しいんだ。

 あ!ヴィラちゃん、脱いでる途中ごめんねー!」


 アンタ研究なんだよな?

 なんで脱ぐことが関係あるんだよ。


 でもなんだかんだ勧誘でピンポンして、扉を少し開けてくれながらも渋々応対してくれてるこの感じを見るに、意外と優しい人なんだろう。


 「文字が読めなくって」


 「気合いだ」


 「え?」


 「頑張れよ、とりあえずメリア草を二束。

 えーとね、モヒトとラバーリッケが3つ。


 魔力が多少なくても肉体労働でどうにかなる範囲だから」


 「え、え、ええ?はっ?」


 「そんじゃ、帰ってきたら飯くらいは食わせてやるから」


 ドガンと。

 これ以上ない音割れしそうな勢いで閉められたドア。


 俺は理解出来ず、数秒眺める。


 「⋯⋯⋯⋯ムチャクチャだ」


 





 「だハァ⋯⋯ハァ⋯⋯まじで⋯⋯ムチャクチャだー!! あの人ー!!!」


 勝手につけたこの場所──魔物の森。


 なんか知らないが、この場所は⋯⋯アニメみたいな生物がいる。


 「狼みたいなんいるなんて聞いてねぇよ!!」


 うーわっ、なんか威嚇されてるし!!


 「えーとっ」


 この絵と合ってるやつを探せばいいんだよな?


 泥水を啜りながら数週間。

 俺はひたすらこの絵と同じものをなんとか探し出すことに成功した。


 幸か不幸か。

 俺はこの時死にたかった割には元気に捜索できていた。


 「でもなんかあいつら──ギリギリで追いかけるのをやめてくれるんだよなー」


 いなくなったタイミングで息切れしながらも座って、命懸けで記録した食えそうな果実を口にする。


 「みかんっぽい。

 とりあえずこれが俺の生きるソウルフードになるわけだ」


 ういしょ。食った食った。





 「おぉ、長かったな。

 俺そんな変な事頼んだっけ?」


 言語不明で、分かるのは絵だけとかそんなすぐ見つかるわけないだろうが!


 どんだけ説明不足なんだこの人は。


 「まぁいいっかー。

 今すぐ必要でもねぇし。


 あ、じゃあ次はねぇ──」


 「あ、あの」


 「ん?」


 「さすがに限界⋯⋯」


 色々栄養の限界か。

 俺は話しながら気絶していた。


 そんで次に目を覚ましたのは、間違いなく知らない天井。


 「やべ。何処だここ」


 天井と言っても、そこはまるでプラネタリウムのような夜空に輝く星。


 近くには畑⋯⋯だったり?

 でも、なんかこう⋯⋯


 全体が白い。

 大理石っぽいけど、"そんなモノ"と呼べるほどここにあるモノはどれも純白で、異質な輝きを放ってる。


 思わず数回深呼吸してしまうくらいには。


 「天井にあるあのてるてる坊主、なんか可愛い」


 ここが何処だか分かんないけど、もしかしたら最悪の可能性がある。


 例えば文明が何故か崩壊したとか。


 世界でもなかなか通じない日本語は通じるのに、何故かロシアとかそういう地名は通じない。


 なんか知らない間にコールドスリープ的なあれでどうちゃらとか。


 全然そういう方面詳しくないからわかんね。


 「お、起きた」


 気付けば目の前にあの時のお兄さんの顔が。


 ⋯⋯、⋯⋯え?


 「ぎゃぁぁぁァァァ!!!!!」


 「なんだよ馬鹿!!

 せっかく倒れた所を助けてやったのに!」


 「え⋯⋯?

 あ、それは失礼しました」


 じゃなくて!


 「そうです!」


 「あ?どうした?」


 「そんなキョトンとしないでください!

 俺は文字が読めなかったんです!」


 「⋯⋯まぁ普通じゃねぇの?」


 「え?」


 ヤバイ。

 そんな返しが来るなんて予想もしてなかった。


 「ていうか、そんな事言えるっつー事は⋯⋯さてはお前、貴族かぁー?」


 「貴族⋯⋯?」


 どういう事だ?貴族って。


 「お兄さん、貴族っていつの話ですか?

 今は貴族制なんてないですよ?」


 「はぁ?何言ってんだお前。

 現にここはアルセイム王国領地だぞ?」


 「⋯⋯⋯⋯へ?」


 「へ?じゃねぇよ。

 アルセイム王国の最果ての地。


 こんな所にいるやつなんてのはよっぽど頭が悪いか、頭がおかしくなったやつか──」


 するとお兄さんはさっきまでとは違い、突然息苦しくなるような威圧感を纏う。


 「この天才錬金術師に用があるか──このレグルス様に」


 凄まじい威圧感。

 アニメに出てくるような重くて、苦しくて、バチバチっと雷がうねる。


 ⋯⋯でも。


 「綺麗」


 「⋯⋯んぉ?」


 星空みたいだった。

 まるでこの天井に見える星空を身に宿したような綺麗なオーラだった。


 「意外だな。魔力にビビらないなんて」


 「十分ビビってますよ」


 「いや、普通のやつならもっとこう⋯⋯ほら!」


 両手でくねくね何かをやっている。


 そう。この人⋯⋯なんて言えばいいんだろう。

 なんか相応しい感じの⋯⋯


 「あっ、残念なイケメン」


 「アガッ!」


 「あれ、大丈夫ですか?」


 こてんと滑って転んでしまっている。


 「お、おい⋯⋯まさかこの俺様を残念だと呼ぶ愚か者がいるとはな」

 

 「な、なんか変なこと言っちゃいました?」


 「だが気に入った!!」


 両肩を掴んで、彼──天才と自称するこのレグルスとかいう人は瞳をキラキラさせて俺を真っ直ぐ見つめて、何やら頷いている。


 「お前、俺の家で掃除の仕事をやらせるから働け!」


 





 それから、色々学んだ。


 「おいぃいっ!!」


 「あ、なにかいけなかったですか!?」


 「⋯⋯天才だ」


 「え?」


 「この異国の青年!

 お前は掃除の天才だ!

 俺と並ぶ天才がこの世界にいたなんて!!」


 ⋯⋯こんな掃除くらいで何をテンション上がって。


 「名前は?」


 「い、伊崎です」


 「ほう?""伊崎""か!

 それなら""伊崎""、お前は今日から俺の助手だ!」


 「へ?」








 「はァァァ!?」


 「今度はどうしました?」


 「お前⋯⋯一回で出来たのか?」


 あーこれ?なんか出来たんだよなぁ。


 「は、はい⋯⋯いっ!?」


 修羅の眼光。

 ドシン、ドシンと。


 俺の前に仁王立ちになるレグルスさん。


 「天才だ」


 「え?」


 「"""伊崎"""、お前は天才だ!!」


 「⋯⋯⋯⋯へ?」


 「お前は助手を卒業!!

 今日から本格的にこの俺様の弟子だ!!

 魔力の運用も何故か上手いし、知識も覚えも早い!!


 よし、"""伊崎"""⋯⋯今日からお前はケルビンと名乗れ!」


 「け、ケルビンですか?」


 「おうよ!

 俺の故郷⋯⋯エルフォリアって場所ではよ?

 星を受け継ぐ者って意味があるんだよ!」


 「エルフォリア⋯⋯そこはレグルスさんみたいな人が大量にいるんですか?」


 「まぁな。

 俺は追い出されたんだけど」


 あ、地雷踏みそう。


 「へぇー」


 「まぁんなこたぁいいんだ!!

 ケルビン!お前は"""伊崎"""じゃなくてケルビンだ!


 もうお前も何年もここに居るんだし、そろそろ馴染め!」


 と言ってもなぁ。

 女、快楽、女みたいな生活に馴染まないといけないのはなぁ。



 ーーそーくん!



 「なんだ?好きな女でもいんのか?」


 研究机に座るレグルスさん。

 こういう時はなんか親みたいな顔すんだよなぁ。


 「いますよ。もう会えませんが」


 「⋯⋯⋯⋯」


 小刻みに頷きながら、笑う。


 「そいつ以外に好きな女はいねぇのか?」


 「言ったじゃないですか。

 俺の国では一人だって」


 「男も女も星の数ほどいるんだぜ?

 怖ーい女もいれば、かわうぃー女もいる。

 男も一緒だぜ?


 いつか、お前を見つけてくれる女がいるかも知んねぇじゃん!」


 「それ以外に要らないじゃないですか」


 「馬鹿だなぁ。

 まっ、でも──」


 一口飲み、レグルスさんは天井を見上げる。


 「一途も限りなく男らしくて俺は好きだぜ。

 

 大量の女を抱える男もかっけぇが、お前みたいにたった一人の女を愛するのもカッケェ。


 だから人生ってのは無限にあるんだよな」


 「なるほど」


 「適当に流すなよ。

 良いこと言ってんだろぉん?」


 「はいはい。

 クソ師匠」


 「あー!!!言いやがったな!?」


 「弟子ケルビン、クソ師匠レグルス先生に師事しまーす」


 「てんめぇ!!許さねぇぞ!!」


 ⋯⋯100年。

 俺がこんな風に会話できるまでに時間をかけてくれた時間。


 見ず知らずの人間の為に、この人は情熱を注いでくれた。


 会話が苦手な俺に、ガンガン話しかけてくれた。


 真面目な俺に、遊びを教えてくれた。

 人生っていうのを教わった。

 人を教わった。


 だから、忘れられない思い出だ。


 
























 「恐怖しろ人外!

 お前の魂に眠る最も強き者の魂を召喚する」

 

 胸糞悪い。

 無意識に記憶が想起したのはこういう事か。

 

 天が怒っている。

 空から鳴り、蠢く雷轟の音。


 異質な風。


 全身が訴えかけるほどの悪寒と鳥肌。


 靡く自分の前髪。


 「生気をもって召喚する。

 私の制御化に置いたまま、貴様を滅する地獄を!!」


 異空間が目の前に開く。


 ナニカだったものは人の形を成し。

 設計される。


 「一応聞くが、まさか本物を持ってくるということで間違いないか?」


 「当たり前だろう?

 正真正銘──生気から生み出した生命の中にアカシックから持ってきた魂を込めた儂の全力を注いだ傑作だ!!」



 ーーケルビン様は流石でございます。

 しかし、ある時代。

 戦争が無くなりそうな時期があったのです。



 ⋯⋯なんでこんなことを今思い出すんだか。


 各国のトップが集まったあの時。

 四大将が口揃えていってた時の言葉が過る。


 

 ーー東のバスタ。西のモード。

 南のアルセイム。北のジャーム。


 四つの大国が戦いあった激動の時代。


 猛将と呼ばれた人間たちが渦中、どんなに敵を追い詰めても笑わない時代がありました。


 どんなに優れた騎士、魔法使いを従えたとしてもですよ?


 各国の参謀は佳境を迎えると斥候に何をやらせてたと思いますか?


 ⋯⋯魔力の残滓を確認させるんです。


 なぜか?

 相手がたった一人の人間を参戦させてるかを確かめる為です。


 ーーえぇ。その通りですケルビン様。


 笑わなくなったのは、敵国に残滓を感じたら、この戦争は敗北したと即時報告する為です。


 いやはや、当時私は前線にいましたからな。

 よく知っています。


 残滓を感じたら全員の顔が真顔になるんです。

 そして同時に、どんな餌をやったのだろう?と。


 そう。

 たった一人の人間──その者が加わった国は必ず勝つと言われているのです。


 事実その噂は覆る事はありませんでした。


 各国が求め。


 女、権力、娯楽。

 文字通り、なんでも贈りました。


 恥ではなかった。

 たった一人の人間が参戦するだけで勝つんですから。


 どんなに対策を取らせても、どんなに戦略を練っても。


 ただの一度も致命傷どころか軽症も負わせた事などありません。


 我々老人からすれば、ケルビン様も崇拝すべき人間ではありますが──我々世代は全員こう言います。



 "星の子"と。 

 


 「おい馬鹿術師──今すぐ召喚をやめるべきだ」


 「制御したお前にとっての悪夢⋯⋯見せてもらうぞ?


 ふふふ何をビビッ⋯⋯んなっ⋯⋯!?」


 「まさか、俺様がこんな形で来るとは思ってなかったぞ」


 あーちくしょう。



 ーー神の子?何を言いますか。

 神よりも星に愛された存在は崇めるべきでしょう?


 星の子でございます。


 そう。貴方様のお師匠であられる。


































 "星の錬金術師──レグルス・シルフィール・デ・アストレオルム"


 噂に違わず──伝説でございます。

 

 

 「よぉ、馬鹿弟子。元気にしてたか?」


 ありゃ正真正銘、クソ師匠だ。

 魂も本物だ。

 どっから持ってきやがった。


 身体も全盛期のままだ。

 

 ──くそジジイが。

 よりによって一番ヤバイのを召喚しやがって。

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