異端と異端
「タァッ!!」
紫色に輝く槍が飛んでくる。
だけどなぁ。
「な、なに!?」
だから嫌だったんだよな。
魔導師と戦うのは。
首の動きだけで槍は通過して俺の背後で爆発する。
アイツら⋯⋯無事だと良いが。
「ふん──余所見か?
今頃ワシの力でボコボコにされ、絶望の中で泣き喚いている事だろう」
「⋯⋯⋯⋯」
だと、いいがな。
ーー伊崎さん!
今日のご飯は仕方ありませんから要望くらい聞いてあげます
ーー大将、来週鈴の音楽発表会があってだな⋯⋯
「ふっ、アイツらを信用している。
まぁお前は今、自分の心配をするべきだと思うが?」
「なんだと?
お前は帰還してまだ時間が経っていないはず⋯⋯力を戻すのにはかなりの時間を要するはずだが」
「それに、俺はウンザリしているんだ」
「⋯⋯?」
「どいつもこいつも。
なんで俺を固有結界に連れ込むんだ。
──自分を過信し過ぎだ」
結局、魔法使いという存在が表に出てはまずいというのは万国共通理解なのは分かった。
被害は抑えるよう指示されてるみたいだし、魔法使いとしてはバンバン撃てる場所がいいに決まってる。
だがなぁ。
「んくくくくくっ⋯⋯!面白い。
笑わせる。
なら、これではどうだ!?」
ヤツの背後に展開する魔法陣。
俺の知ってる言語ではないから、恐らく独自の魔法体系なんだろう。
「んー⋯⋯」
「恐ろしいか?
避けるだけで精一杯じゃないか」
なぁ?誰だと思ってる?
目を閉じて。
鼻からゆっくり息を吸って。
⋯⋯若干小石とパサパサした空気が。
うえッ。
まぁいい。ゆっくりと開ける。
「くr⋯⋯っ!?」
パリンと幾つもある魔法陣が破壊される。
振り返ったジジイは口の端を上げたまま、壊れかけの機械みたいに向き直す。
「避ける以外に理由があると?」
「⋯⋯何者だ」
「何者って⋯⋯お前がアホなのはよく分かった」
そりゃ"避ける以外の理由がないからだ"。
「儂の術式が相殺され──あまつさえ破壊するなど⋯⋯あり得ん!!」
「ふわぁー。
まっ、お前が俺より強かったらこんな顔してねぇよ、今頃」
術式なんてすぐ分かる。
俺は魔力量に関しては全盛期とは呼べないが、身体は全盛期手前レベルに近い能力があるんだから。
魔法・術式の解析、それに対する計算。
全て終わらせているに決まってるだろう?
「まさかだが、お前が射出したその槍の魔法⋯⋯俺が首をこんなんして避けてるだけに見えてるのか?
──五流だな」
術式とやらを弄って微妙にズラすよう仕向けているに決まっているだろ?
「くうっ⋯⋯!
き、帰還者がここまで強いケースを見たことがない!!」
「さっきからその帰還者ってのがあまりピンときていないが、まぁ、それは今いいだろ」
ポケットから片手を出して、真横に異空間を出現させては漁る。
「おぉ⋯⋯あったあった」
「き、貴様⋯⋯!
アイテムボックスを扱えるのか!?」
「逆にお前は空間如きで驚くレベルの魔法使いなのか?
だから人に頭を下げるんだな」
俺なんて、頭を下げるなんて事⋯⋯天地がひっくり返ってもないがな。
指輪をはめ、ネックレスを着け。
小物を装備して俺はジジイを見据える。
「ところで。
お前は魔法使いのようだから、一つ教えを与えてやる」
魔法陣を展開させ、腕を組む。
「っ、ぁぁ⋯⋯な、なんだこれは⋯⋯!!!」
「まぁ相手は──万物の王と呼ばれた男だぞ?」
「ば、万物の⋯⋯王?」
数百の魔法陣。
そこから沼から出てくるように頭を出すのは、蒼い魔力が凝縮された槍。
「お前の要領で真似てみた。
これでお前も俺と戦う気すら起こさないだろう?」
「き、貴様。
この結界で、星空を⋯⋯まさか、自身を神と自称するつもりかっ!?」
「フンッ。神なんて──笑わせる」
人差し指を軽く上げる。
「おぉっ、結構飛ぶな」
ドゥオンッ、みたいな音だ。
パイプを爪で弾いた感があるな。
いや?
拳哉とやったモゲハンの音爆弾みたいな音だな。
「その様子だと、防御には自信が有りそうだが、何発耐えられるかは見物だな」
砂漠の煙の中から出てきたのは、球体の防御魔法らしきものに囲われたジジイの姿。
防御というのは現実世界の格闘技と一緒で、かなり複雑で技術のいる芸当。
破壊するのは簡単だが、それを防御するのにはとてつもない叡智が必要⋯⋯というべきか?
んんー。
分かりやすい例えが出ないが、ハッカーとハッカーされないようなセキュリティを作る側とかか?
まぁそんな事はいいか。
あのジジイ。
片膝ついて杖を支えにしている。
あの様子じゃ、魔力量もないことが丸わかりだし、構築に相当脳を使っているに違いない。
──限界を試そうじゃないか。
「ん?」
気付くのが少し遅れたが、周囲のエーテルが収束している。
「貴様が強いのは分かった。
帰還者と言ってもランクがあるが、おそらくお前は上澄みの中も上澄み。
魔王や勇者などのレベルなんだろう。
⋯⋯だが。儂はそれでも負けなかった。
それは何故か?」
「お前より弱いのしかいなかったから雑魚狩りになってたとかじゃねぇの?」
「ふんっ!戯言を!」
口を歪ませ、巨大な魔法陣がジジイの足元に展開される。
⋯⋯この禍々しいエーテル。
「まさか──」
「そうだ。
貴様には分かるだろう?
強ければ強い程⋯⋯その凄さに驚くだろう?」
なるほど⋯⋯コイツの本来の姿は。
俺が錬金術師であるように。
コイツは──
「死霊術。
または魂を操るような学問をメインとしていたクチか。
⋯⋯なかなか良い趣味してるよ、ジジイ」
現れたのは、俺の世界ではレブンヌという魔物。
こっちの世界で考えるならば、合成で生まれたキマイラのような魔物だ。
見た目はケンタウロスのように。
鷹みたいな上半身に、馬みたいな下半身。
「だがお前──やっぱり雑魚だな」
「⋯⋯んなっ?」
「それが数十、数百居て──」
後方に待機していた魔法陣たちの一斉射出。
俺は相手の技を待つほど優しくない。
小規模な爆発が目の前で連発する。
「おぉ⋯⋯良い眺めだなぁ」
ドゴォン、ドドドッと射出された槍の嵐は約三分ほど続く。
ゴォォと焦げた音。
焼け野原になってるし、終わりか。
チッ。
こんなんなら結界なんて張んじゃねぇよクソジジイが。
一発であんなんだったわけだしな。
「さて、アイツらの方に行かn──」
終わったと思った。
背を向けたその時一瞬感じた⋯⋯全身の悪寒。
思わず振り返っていた。
「ふふふふふふ⋯⋯ハッハッハッ!!!」
エーテルじゃない。
なんだ?
「なるほど。
やはりあの方が言った通り⋯⋯"人間ではないようだ"」
「⋯⋯⋯⋯」
「予言の通り、儂はここで、貯めてきた生気を使わなければならないとは!!」
その時、俺の前には今までとは違う、黄金に輝く放射状に舞う光線が映る。
なんだ?
解析がうまく働かない。
「恐怖せよ、人外!!
|記憶と眠る魂を呼び起こす生命!!!!」




