求めよ、さらば与えられん
宙を一瞬で渡ってくる刃先を避けるので精一杯だ。
「ッ!」
速い。とんでもねぇな。
少し仰け反った──
「くっ⋯⋯ドラァッ!」
──コイツっ!?
一直線に来たと思ってカウンターを入れようとしたら、俺の手首を斬ろうと。
「っ⋯⋯!」
慌てて止めて一気に距離を空ける。
「ふぅ、ふぅ」
「⋯⋯Huh」
初めて見た。
本気で人を殺そうとしている。
普通なら、ただどこかへと突いたり、躊躇がある。
だがコイツにはまるでない。
飛んできた腕にある俺の脈を正確に狙っていた。
いや、コイツらにとっては当たり前の事なのか。
「Heh⋯⋯you're such a softie.
Backing off already, huh?
Around here, that’s just normal, you know?
Or is that how things go back in Asia?
Thought you were tough—but looks like I was wrong.
You even give off that virgin vibe.」
⋯⋯相変わらず何言ってるかわからんが。
ただ、馬鹿にしてるのは顔を見れば分かる。
「ウェポン、ノー、ノットメン」
そう言い放つと。
「pu⋯⋯HAHAHAHAH!!!」
一斉に向こうの奴ら全員が笑い出す。
「何がおかしい。
人殺しなんかして男としての格が問われる。
殺すことが正義か?
俺はそうは思わない。
人は人を殺すのではなく、共存しながら高めるのが正義だ。
殺しても何も解決しない。
俺達はそういう風に生きてはならん」
ーー銀、俺達人間はいがみ合う為にいるわけじゃない
『では、なんの為に人種があるのだ?
それだと説明がつかないと思うが』
ーー作った奴らがこう言ってるとは思わないか?
"お前たちは同じ存在。
だが見た目が違うだけだ。
どうだ?
お前らはいがみ合ってるだけだぞってな"
──クソ喰らえ。
協力せよ。能力は分けてやったぞってな。
欲しいものはその先にあるって事だよ。
殺し合って、憎しみ合って、否定しているだけでは俺達の格が下がるだけだ。
「⋯⋯⋯⋯」
そうだ。俺達は殺し合ってはならない。
協力していくべき相手達だ。
だが大将。
今回ばかりはそんな相手ではないぞ?
相手は全員、日常的に敵を殺し尽くす殺人鬼であり、罪の意識なんてなく、その全てが正しいと思ってる奴らだ。
そんな相手に俺達が勝てるのか?
同じ土俵に上がらずに。
「What a letdown.
Keeping your distance ‘cause you’re scared?」
「相変わらず何言ってるかわからん」
だが無性に腹が立つ。
あんなナイフを上に投げて遊べるくらいには舐められているということだ。
「ウロチョロしている暇はないぞ」
「heh⋯⋯you’re killing me」
「っ!」
速い!
やはりコイツ、只者じゃない。
「くっ⋯⋯」
近くにあるテーブルの破片を拾って投げる。
宙に浮いている間一気にこちらも突っ込み、仕掛ける。
「Hey」
ナイフを避けながら応戦するが、最小限の動きで払われ、逆に持ってるナイフで胸を斜めに斬られる。
「っ、無茶な動きしやがる」
更に破片を投げながら翻弄しようと考えるが上手く行かない。
「easy huh?」
今の一瞬でかなり複雑に散らしてフェイントを混ぜ混んだが、全く効いてない。
「Heh… cheap tricks, huh?
I’ve seen plenty of those before.
Kids like you never change」
ウロチョロしやがって。
だが──目の動きも自然で、余裕すら感じる。
手元のナイフで遊んではいるが、隙は全くそこにない。
⋯⋯これが、海外のギャングのレベル。
超えていかないといけない俺の壁。
ーー銀、お前武器は使わないのか?
『向いていないと思う』
ーーだが、銃や刃物なんて使われたらお前でも案山子同然だと思うが
『⋯⋯やはり大将もそう思うか』
ーーそりゃな。
手段を選ばないやつなんていくらでもいる。
その度に怒り狂ったって現実は変わらないし
「一応、俺だって何もしてなかったわけじゃない」
「⋯⋯?」
タイミングよく、一人の近くにあるナイフを借りる。
「A Japanese kid, huh?
You really think you can handle that?」
自衛隊の特殊な人間に習いに行った。
時間掛けて、少しは使えるようにしたんだ。
奴は何かを言ってるようだが⋯⋯そんな事はしらん。
「通じるか⋯⋯試させてもらうっ!」
今度は一気にこちらから攻める。
「フンッ!」
突きが弾かれ、俺の逆半身へとカウンターが。
そこへ空いた足元を狙うが。
「っ!?」
察知していたのか、その場でカエルみたいに真上に飛び上がり──
「くっ⋯⋯!」
上から叩きつけられる。
これが刃物の重圧か。
少し軌道がズレれば腕が斬れる。
日本にはない恐怖。
「Yo──Japanese kid.
Welcome to hell」
至近距離でそう言って笑うシルヴァ。
「舐めやがって」
互いの戦い方が似ているのか。
「「っ!」」
やる事は一緒だった。
互いに身体を捻って反対の足で蹴り上げようとしていた。
だが。俺の方が一瞬反応が早かった。
咄嗟に蹴りで奴のナイフをふっ飛ばす。
「⋯⋯⋯⋯」
カランカランと奴のナイフは空間の端の方まで悲しげに音を立てて転がる。
「いいかギャング──」
俺もナイフを反対方向へ投げ捨てる。
「これが男の戦いだ」
見せてやる。
これが日本男児の闘いだ。
「wow」
笑ってはいるが、さっきとは何かが雰囲気が違う。
「っ!」
なんだ?
一瞬で──
ドンッ!と。
スゥゥと聞こえた時には突然人間の出す音ではない威力。
「ッァハ!!!」
「⋯⋯⋯⋯」
なんだ?何の音だ?
視線で奴を見ても、何も異変がない。
ガタイもほぼ一緒だ。
だが何故?
よろめいて後ろに倒れそうになるが、口からの吐血を感じてなにふり構ってられない。
その状態から、顔面に向かってスマ──
バチッと。
それはまるで雷だ。
火花のような弾ける音と共に俺は地面に叩き落とされていた。
「グアッ!」
あげたこともない。
いや、ここまで強い奴と対面するのも初めてだ。
そのまま倒れたところをマウントを取られ、殴られる。
「くっ!」
「Huh」
だが。舐めるなよ?
「oh?」
戦ってきたやつにも柔術を使える奴はいたんだ。
「○uck!!」
両足でコイツの首を絞め上げる。
抵抗はしているものの、奴の顔は真っ赤だ。
「クソッタレがァッ!」
そのままやつを飛ばし、立ち上がって体勢を整える。
「ふぅ、ふぅ⋯⋯」
危ない。
さっきの一瞬──何かが奴のオーラが変わった。
パラパラと壁に衝突した奴が立ち上がる。
やはり来るか。
「That old man called it a miracle…
Guess it ain’t all talk after all.」
(あのジジイ、奇跡なんて言ってたが、悪くねぇな)
三日月みたいに口元を歪ませてやがる。
なんだ?様子がおかしい。
「っ!」
⋯⋯まただ。
俺達の距離は空いてるっていうのに──一瞬で落雷そのものみたいに目の前に移動してくる。
半身を返して避けるが、奴には通じないらしい。
「ぐぅっ!」
大振りな普通のフック。
でも何故か速さと威力がケタ違いに上がった。
人間の威力か?これは。
「っ、ァッ!!!」
だが俺は倒れない。
俺は──かつて家族で頂点に近付いた──
「夜叉だァァァァァァッッッ!!!」
しかし。
耳に入るのは。
バリィィィィンという奴の金属を打ち付けるようなカウンター。
身体が上へ跳ね上がる。
「HAHAHAHA! easy!!
oldman, Heh… this power’s incredible.
Now you — fall into hell」
(ハッ、ジジイこの力⋯⋯最高だ。
お前が地獄に落ちろ)
まずい。意識が飛びそうだ。
「Now──」
頭から落ちる自分の視界は、奴の笑い声と見下されてるであろう笑み。
クソ。俺は⋯⋯駄目なのか?
何故いつも俺は──肝心な時に。
だがその時。
俺の頭は走馬灯が走っていた。




