黒毛和牛塩タン焼1500円
陶光咲と酒井亜美は地元で有名な悪童であった
令和という元号に最初酷く違和感を抱いたのを覚えている。平成はとても短く感じた。昭和以前は記憶の中には無い。当たり前だ。2人とも生まれてないのだから。90年代、2000年代も平成だ。平成以外の時代を生きたことは無かった。時代が変わり、年号が変わり、科学の進歩により人間の平均寿命が伸びていったが、人間の全盛期と言って差し支えない20代の2人には関係ない事であった。
「令和だってよ」
「変わりましたなぁ」
茶の間、現代風に言うのであればリビングか、液晶テレビで時の総理大臣が大勢のカメラの前で発表した元号に、関心があるのかないのか分からない声色で二人は画面を見ていた。
「えっ光咲さ、今年で幾つになったんだっけ」
「25」
「私の3個上か」
二十歳を超えればもう成人、立派な大人として急に社会に放り投げられる世界において20を過ぎれば自分が幾つかなど普段から意識などしない。タイミングが合えば周りの人間が祝ってくれる程度には現代社会は温かさはない。ゆとり世代の後、さとりだのZだのと言われる少子高齢化社会において少数の若者達は何を思い、なにを感じて生きているのか当の本人達にも分かりはしない。ただ膨大な量の情報と、少しのコミュニティの間でなんとなくなる様に生活を続けている
「てか珍しく休日被ったんだしどっか遊び行かん?」
「ん〜〜茶しばきたい。アフヌンキメね?」
「アフタヌーンティーを茶しばくって言う奴初めて見たしアフヌンって略してんのもヤバい。行くか」
東京に来てから2人はシェアハウスをしながら働いている。陶は美容師として、酒井は古着屋で、忙しなく動き続ける世間を眺め、また自分達も忙しなく働いていた。収入は心細い所はあるが困る事は無いので、現代社会の利便性を享受しつつ若者らしく都会を楽しんでいる
東京に住み続けている理由は至極単純で「進学先がたまたま東京だったから」
流れのまま進学し、就職を決め、生活を続ける。なんの問題もない
2人はリビングのローテブルに対面に座った。大きな箱を自分の横にどすりと置き、鏡を取りだしたと思えばまたひとつ今度は少し小さいがこれまた大きな箱からカラーコンタクトを漁る。化粧はコンタクトの色から始まるのだ
「カラコン何色?てかカフェだし可愛いの着てく?」
「ブラウン飽きてきたからグレー系にしよっかなって。この前買った服着る」
「アレね。じゃあキレイめな服にすっか〜…カラコン安定の黒縁グレーだな。ギャルっぽくて可愛い」
「グレー系多くてマジで悩むよね」
「わかる。困る」
会話は続けながら鏡とカラーコンタクトを交互に見つめる作業が終われば、コンタクトを装着後、化粧水で顔を整え改めて鏡と向き合う。己の顔面、大小のコンプレックスをまじまじと見つめながら下地、コンシーラー、ファンデーションと塗り始める。さながら塗装である。
用事が終わり家に帰れば落とさねばならないものに、こんなにも金と時間をかけて誰が見てるかも分からない顔をコーティングする理由は女特有の「可愛いから」であろうか
「化粧ミスると萎えるよな」
「やる気全部無くなるよね。戦化粧とかさ、やっぱモチベ大事なんだろうね」
「ガチでモチベ大事。あっねぇ見てこれアイシャドウパケ買いしちゃったんだけど普通に中身も良くて一軍入り」
「えっ良い私も新しいの買おうかな」
似たような会話を続ける事およそ1時間、ようやく彼女達の顔面が出来上がった
気分で書くので更新いつになるかわかりません。頑張って週一で更新したいお気持ち