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09

「キミたち、Aクラスになりたいんだろう? よかったらボクが決闘を受けてあげるよ。条件もなくていい」


 さわやかボーイがさわやかに言い放つ。

 とてもさわやかだ。


 それと比べて、マリア様はとても怒っていらっしゃる。

 そりゃまぁ、誇りがどうだーって話をしていたのに、それを覆すようなことを言われれば怒りもする。

 でも何も言わない。

 この人が誰だか知ってるのかな。


「誰だ貴様! マリア様が言っていたことを聞いていなかったのか!」


 1号君が叫んだ。

 いいぞ、こういう時の1号君だ!


「おやめなさい。彼は勇者様よ」


 わぁ!

 いるとは聞いていたけど、ホントにいるんだ!


「スゴイスゴイ! 勇者さまってなんで勇者さまなんですか!? なにをもって勇者ってなるんですか!?」


 だって、今はただの学生でしょ?

 実績を上げたワケでもなく勇者だと認定されるのって、なんか理由あるのかな?


「この紋章さ」


 そう言ってさわやか勇者はさわやかに手の甲を見せてくれた。

 なんかよくわかんない模様が浮かび上がっている。


 話を聞くと、大昔に魔王が現れた時、この紋章を持った人が魔王を倒したそうだ。

 そんで14年前に魔王が復活して、それと時を同じくして手の甲に紋章の浮き出たさわやか先輩が誕生したらしい。

 それを見た大人たちが「勇者じゃあ! 勇者の誕生じゃあ!」ってなったとか。


 ほぇー。


「それで、どうする? ボクに勝てなくても、ちゃんと実力を見せればAクラスになれるかもしれないよ?」


「やるやる!」



   〇



 それじゃあ善は急げってんで、職員室に行って決闘の申請をしてから、すぐに演習場へ向かった。

 職員室では勇者が決闘の申請をしてきたというのでにわかに色めき立ち、先生がいっぱい付いてきた。

 さらに、そんな状態で演習場に向かったものだから、道行く生徒たちも「なんだなんだ?」ってなっていっぱい付いてきた。

 祭りじゃ祭りじゃ!


 演習場に着いた頃には、かなりの人数が一緒になっている。

 一応まわりには観戦席みたいなのもあって、どんどんいっぱいになっていった。

 そういや、ついさっきまでも演習場にいた気がするんだけど、やけに縁があることですな。


「それでは決闘を開始する。まずは誰からいく?」


 立会人を務めるホームレス校長が言った。

 ヒマなんか校長。


「私が行くわ」


 当然のごとくルナが先陣を切っていく。

 だから、さっきもこの光景みましたよって。

 相手が違うだけじゃないか。


 そして、例のごとくルナは身体強化と殺気を全開にして特攻の構えをとった。


「それでは、はじめ!」


 校長による開始の合図とともに距離を詰めるルナ。

 そこから初撃を受けたさわやか勇者先輩は軽く吹っ飛ばされたものの、その後はルナの攻撃をいなしていく。

 だが、ヘルケン先生の時ほどの実力差は感じられない。


「……なんでキミはFクラスなの?」


 人間として終わってるからです。

 納める鞘まで切っちゃうような抜き身の刀を、良い刀とは言わないじゃないですか。

 だって、さっきからルナの剣は殺す気マンマンの軌道しか描いてないんだもん。

 いくら刃を潰してあったって、頭に当たったら死んじゃうよ?


 そこからさらに数十合、剣戟を重ねていく。

 さわやか勇者先輩の顔に余裕はない。

 ルナにも余裕はないハズだが、顔は笑っている。


「そ、そこまで! この勝負は引き分けとする!」


 二人の距離が空いたのを見計らって、ホームレス校長が焦りながら宣言した。

 まぁ仕方がない。

 このまま続けると、おそらくどっちかはエゲツないケガを負うか、もしくは死ぬ。

 そう思えるだけの内容だった。

 だからルナさん、校長にメンチを切るのはやめなさい。


「いい剣だね」


 アルフが言う。

 だから似たような光景をもう見たって!


 ただまぁ、同意はする。

 おそらく、さわやか勇者先輩には勇者としての特別な力があるのだろう。

 普通の魔法使いからは感じないような、なんだか神聖というか、質の違う魔力を感じる。

 だがそれ以上に、彼の剣からは努力を感じたのだ。

 特別な力に驕らない、言ってしまえば地味な、地道な剣だ。


 生まれた時から人類の期待を背負いながら、やもすれば軽薄ともとれるような態度を取る彼には、似つかわしくない剣だった。


「僕も行くよ。なんだか、単純に彼と手合わせをしてみたくなった」


 これもヘルケン先生の時と同じように、盾と剣を携えてアルフが前へと出ていく。

 その背中は少し楽しそうだ。


「それでは、はじめ!」


 決闘の申請をする時に三連戦で承知したのはさわやか勇者先輩だ。

 ルナとの闘いで多少なりとも疲れているだろうが、まぁ悪く思わないでもらおう。


 今回のアルフは最初から全力だ。

 初撃から魔法を織り交ぜて、さわやか勇者先輩はかなり戦いづらそうにしている。


「なんでキミもFクラスなの……?」


 人間として終わっているからです。

 鞘に納めようと思ったらブスを見つけて飛び出していく刀を、良い刀とは言わないじゃないですか。

 それはもう妖刀だよ。


 お互い決定打を出せず、ルナよりも長い時間を戦っていたあと、ふいにさわやか勇者先輩が構えを解いた。


「まいったな。引き分けにしないかい? キミを負かすにはボクも全力を出さなきゃいけないけど、そうするとケガさせちゃいそうだからさ」


 そう言われてアルフも構えを解いた。

 まぁそうだろうな。

 実際、さわやか勇者先輩はルナの時も含めて魔法を一度も使っていない。

 あのなんか神聖そうな、やたらめったらある魔力を使っていないのだ。

 それでどっこいどっこいなんだから、使われたらアルフに勝ち目はないだろう。

 なのに引き分けにしてくれるっていうんだから、そりゃもう願ったり叶ったりじゃないですかね。


 アルフがこちらへ戻ってくると、さぁ次はキミだよ、とさわやか勇者先輩が目で語りかけてきた。

 だいぶ疲れてそうなのに、彼はとても笑顔だ。

 とてもさわやか。


 それにひきかえ、ギャラリーはみんな困惑の表情でどよめいている。

 そりゃあ人類の希望たる勇者が、新入生のFクラスに2連続で引き分けにされたんだ。

 ホームレス校長ですら難しい顔をしている。


 そんな状況で大将、俺。

 泰然自若と歩み出る、俺。

 4番ピッチャー、俺。


 あらかじめ宣言しておいてやろう。

 俺もヘルケン先生戦のリピートをしてやると。



   ◯



「クックック、このバリアを解いて我を倒したくばこのアツアツのおでんを冷まさずに食してみるがよい!」


 全攻撃絶対防御バリアは全攻撃絶対防御バリアなので全攻撃を絶対防御するバリアなのだ!

 以下、省略。


「しょ、勝者、モウ・レッツ……」


 やった!

 ワイはやったで!

 金メダルや!

 いやー、決勝戦では流石にもうダメかと思う場面もあったんですが、気持ちを切らさず最後までやり抜きました。

 あそこで気持ちが切れていたら、この金メダルは無かったと思います。

 ママでも金。


 演習場に集まった人々はもう困惑というか、困惑を通り越して憔悴している。

 さわやか勇者先輩も、さわやかさが無くなってゲンナリ勇者先輩になっていた。


 ホームレス校長もウンザリしたような顔で、ゲンナリ先輩と俺とおでんへ視線を行ったり来たりさせている。


「食べます?」


 最終的に思案顔でおでんを見つめだしたので、そう問いかけた。


「お前は一体なんなんだ?」


 質問に質問で返すなっつってんだろウンコ野郎。


「おでんを愛し、おでんに愛された男。モウ・レッツ、それが俺の名前です」


 まるで聖女かのような、慈愛に満ちた表情でそう答えた。

 そう、聖女のように優しさで満ち溢れているワタシは、質問に質問で返されても答えてあげるのである。


 でも、誰も何も応えてくれず、なんかみんな疲れ切った顔で解散となった。



   ◯



 翌日。

 決闘の結果、誰がどうなるとかは掲示板に貼りだされるらしい。

 決闘はちゃんとした学校のルールのもとで行われるものなので、その結果も学校公式として発表されるとか。


 あとから聞いたところ、ゲンナリ勇者先輩は当然ながら3年のAクラスだそうだ。

 しかも筆頭。

 要するに生徒全員あわせて一番強いのがゲンナリ勇者先輩なのだ。

 そこに引き分け・引き分け・勝利を収めた俺たちは、なんなら飛び級してもおかしくはなかろう。

 少なくともAクラスは確実だし、さらに特別待遇だって期待できちゃうかも!


 ワクワクしながら、クラス分けも出されていた校門の掲示板のところへ向かった。

 噂を聞きつけたのか多くの生徒が掲示を見てザワついている。


 まぁ諸君ら落ち着くのだ。

 主人公が来たぞよ。

 はやく道を開けらっしゃい。


 思いが通じたのか、コチラに気付いた生徒たちが左右に道を開けていく。

 昨日のことでだいぶ顔も売れたらしい。

 モーセのごとく、割れた人波の間を突き進んで掲示板の前へと到着。


 さぁ、結果はいかに!?



 ルナ・マーブルローズ Aクラス昇格

 アルフレッド・アルバトロス Aクラス昇格

 モウ・レッツ Fクラス残留



 は?

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