08
Fクラスっていうのは、何事でも優先度が低く設定されているらしく、学食からも遠かった。
というかもう棟からして違う。
なんかやたら古い建物に1年から3年までのFクラスが集められている。
だからA~Eクラスの同学年すら、顔を見る機会が普段から少ないらしい。
そしてFクラスの先輩方の顔は軒並み暗かった。
学食へ向かう途中に何人か見かけたが、全員パチンコ屋から出てきて換金所へ寄らずに帰る客と同じ顔をしていた。
学年が変わる時に、成績によっては入れ替えがあるらしい。
そうは言ってもFクラスの担任の評価はアテにならないっていう考えらしいので、学校公式のイベントや試験でよっぽどの成績を残せば、みたいな話だそうだが。
あとは両者の合意のもと決闘を行う、っていう入れ替え方法もある。
ただし、ただ入れ替え目的だけだと決闘を申し込まれる側に全然メリットが無いので、それに見合う条件を出して頷かせなければならない。
ましてやチンカスを集めたFクラスなので、そもそも勝てる見込みが薄い。
さらに「アイツなら勝てるかも!」って思って申し込んでも、その相手が「もしかしたら負けるかも……」って思っちゃうと決闘してくれない。
ゆえに「クソ美味しい条件でクソザコが決闘を申し込んできた! ラッキー!」って思わせなければ決闘が成立すらしないのだ。
まぁ、別にどこのクラスでもいいんですけど。
もちろん卒業後の進路に影響するが、別に軍の偉いさんとかになりたいワケでもないし。
中間管理職なんかサイアクだよ。
上からは現場も見ずに結果だけ求められて、下からは待遇の改善ばっかり要求されてさ。
さらにその仕事の中身が戦争なんだから余計に終わってるよ。
それにしても遠いなぁ、学食。
「上のクラスほど立地が良くて、Aクラスだけしか使えない施設もあるらしいよ」
アルフが言う。
そういや、そんなことが案内の冊子に書いてあったような気がする。
「どんなのがあったっけ」
「24時間のトレーニングジムとか」
「私、Aクラスに行くわ」
ルナがクソ真面目な顔で言う。
あなたは筆記ダメでしょ。
決闘で行けたとしても、定期試験で結局は下に落ちてるところしか想像できない。
「あとはAクラス専用の学食もあるらしくて、普通の学食と同じ金額なのに料理のランクが全然ちがうんだって」
うーん、それはちょっと惹かれるものがある。
やっぱウマイもん食いたいもんな。
「しかもAクラス専用の学生寮まであるんだってさ。朝晩のゴハンも豪華だし、大浴場も広いし、部屋も個室でキレイだし」
うわー、昨日入った学生寮は汚かったもんなぁ。
当然ながら男子寮だったワケだが、なんかもう、ザ・男だった。
全体的にクサイ。
そして4人部屋で同室になった男たちも、とても男男していて男だった。
暑い夜だった。
うーん。
Aクラスいこっかな。
セオリー通りにいけば学校公式の行事とかでFクラスがAクラスを倒すみたいなイベントもあるかなって、ちょっと楽しみにしていたんだけども。
初日にしてFクラスに見切りをつけちゃおっかな。
担任もヤベェし。
◯
ようやく学食についた。
マジで30分ぐらい歩いた。
Fクラスはもうムリだ。
早めに決闘の相手を探さないと。
何種類かあるランチメニューからトンカツ定食を選び、お手頃な金額を支払って定食が乗ったトレーを受け取った。
見渡すと、座席は結構ガラガラだった。
まぁすでに昼飯時は過ぎていたので、遅めの昼食を摂る先輩方だったり、食後のティータイムを楽しむ人々がいる程度だ。
新入生っぽいのもチラホラ見かけるので、おそらく選択授業の説明とかも他のクラスは午前で済んで解散となったのだろう。
こっちは演習場でムダな時間を過ごしたからな。
適当な席に座るかとあたりを見回すと、見たことのある顔を見つけた。
マリア様だ。
2人の取り巻きと一緒に優雅なティータイムを満喫していらっしゃる。
片方は入学受付のときの1号君だな。
そして、彼女たちの向かい側にちょうど3人座れるスペースがあった。
「向かい側いいっすか!? いいっすよね! いやー入学試験でスゴイ魔法を見せてもらったもんで、いっぺん話してみたいと思ってたんすよー! あ、お昼なに食べました? トンカツ定食にしたはいいんですけど他のも気になっちゃって! 日替わり定食のエビフライでも良かったかもなー」
流れるように座席に腰掛けながらまくし立てる。
相手に断りの言葉を言わせない高等テクニックだ。
「おい、気安く話しかけるな! このお方をどなただと思っている!」
しかし隙を突いて1号君が吠える。
取り巻きが板に付いていて非常に好感が持てる。
「どうしたんだよ、モウ。席ならいっぱい空いてるのに」
後ろからアルフが声をかけてきた。
さらに人が増えて、取り巻き2人はより警戒心が剥き出しの顔を見せる。
そしてアルフの影から、スッとルナが姿を現した。
1号君はかわいそうなぐらいビクンってなって硬直した。
もう一人の取り巻き女子も、バケモノを見たような表情で冷や汗を流し始める。
マリア様ですらピクッとなったのを俺は見逃さない。
「……何かご用がおありかしら? 見ての通り食後のティータイムを楽しんでいるところでして、手短にしていただけると助かるのですけど」
平静を繕いながらマリア様が言う。
流石は(たぶん)大貴族の御令嬢だ。
「いやーちょっと聞きたいことがあって。マリア様って何クラスです?」
「Aクラスですわ」
「へぇー! やっぱそうなんすねぇ! スゴイっすねぇ!」
あの魔法の腕前だ、当然Aクラスだろう。
ちなみにルナとアルフはそれぞれ俺の両隣に座ってメシを食い始めている。
ただメシを食ってるだけのルナの一挙手一投足を警戒しながら見つめる1号君と取り巻き女子。
大丈夫だよ?
別に理由なく暴れたりしないよ?
「そういやAクラスなのに、なんで普通の学食にいるんす? Aクラス用の学食があるんすよね?」
「この子たちがどちらもBクラスだからよ」
なるほどね。
「それで、クラスがどうかしたのかしら?」
優雅さは変わらずだが、ムダな話はしたくない雰囲気を全面に出していらっしゃる。
心なしか威圧感みたいなのまで出してきている。
でもそれに反応してルナが顔を上げると一瞬で引っ込めた。
かわいい。
「いやー僕らFクラスなっちゃったんで、ちょっと決闘したいなって。学食が遠いもんで」
瞬間、空気がピリッてなった。
今度は威圧感を隠そうともせずにマリア様が俺を見つめてくる。
照れる。
「どういう意味か知ったうえでの発言かしら?」
「いやいやちょっと、勘違いしないで下さいよぉ。別にマリア様とやろうってんじゃないですよぉ? なんていうか、こう、ちょうどいい人いません? みたいなアレですよぉ」
「同じことよ。クラスメイトに会ったのは今日が初めてだけど、みんなAクラスになれたことを誇りに思ってるわ。それを甘く見られるのは、少し我慢ならないわね」
熱。
めっちゃ熱いじゃん。
ちょっとヤダァ、これじゃアタシが悪者みたいじゃなぁい?
「断言するわ。Aクラスの誰も決闘なんて受けない。どれだけいい条件を出されても、あなたみたいなのが相手じゃ”誇り”を賭ける気にはなれない」
マジぃ?
でもホント学食に来るのスゲェ遠かったんすよぉ?
いっぺんFクラスになれば、その気持ちもわかりますってー。
って言ったらめっちゃキレるかな。
どうしようかな。
「なんだか面白そうな話をしているね」
急に後ろからそんな声が聞こえたので振り返ると、さわやかボーイが立っていた。
80年代のアイドルぐらいさわやか。
ローラースケートはいて歌って踊りそう。
誰だコイツ。