07
どんな強者であれ、アツアツのおでんをフーフーせず食べることはできない。
おでん召喚魔法が”最強”であると考える所以である。
転生してから12年。
その歳月の中で俺はある時、あることに気が付いた。
最強であるためには、そもそも煮え煮えおでんを相手が食べなきゃいけない状況を作り上げる力がなければいけないということだ。
それに気付いてからは、試行錯誤の日々が始まった。
そこで以前に紹介した”おでんを主役にしてさえいれば、割となんでもできる”というルールを発見している。
しかし、この”おでんを主役”という線引きが難しい。
例えば「おでんが超スピードで相手にぶつかる」とかの場合は「超スピードで相手にぶつかる」ことの方がメイン(目的)なので実現しない。
だが「超スピードで相手の目の前におでんが現れる」だと「おでんが目の前に現れる」ことがメインなので実現する。
あとは「おでんを食べると身体能力が向上する」の場合でも「身体能力が向上する」がメインなので実現しない。
あるいは「食べると身体能力が向上するおでんを召喚する」としたとしても、同じく最終目的は「身体能力が向上する」ことなので実現できない。
ただし、おでんが主役であれば実現できるので「身体能力が向上したおでんを召喚する」は大丈夫。
身体能力が向上したおでんってなんだ。
以前ヤクザ屋さんから逃げるときに使った煙幕は「おでんの湯気で煙幕を張る」だと煙幕が目的なので実現しないが、工夫して「エゲつない量の湯気が立ち上るアッツアツでグッツグツなおでんを召喚する」っていう日本語の問題で乗り切った。
それと、おでん目線での強化などは実現できる。
おでん目線ってなんだ。
これの例を挙げるなら「召喚したおでんから半径3メートルに全攻撃絶対防御バリアを張る」は可能なのだ。
自分のそばにおでんを召喚してコレをすれば、無敵と言っても過言ではないのである。
ただまぁそんなに、おでんみたいにウマイ話はない。
自身も含めて全攻撃絶対防御バリアを張ると、おでん目線からすれば異物認定を受けてしまう。
おでんのみであれば無敵になれるが、そこに俺も俺も! ってすると、バリアの解除方法を設定されてしまうのだ。
それこそが、フーフーせずにアツアツおでんを食べることだった。
「クックック、このバリアを解いて我を倒したくばこのアツアツのおでんを冷まさずに食してみるがよい!」
ヘルケン先生は困惑していた。
ずっと余裕ぶっていた先生を困らせることに成功したのだ。
やはりおでんは全てに勝る。
がんもどき、やんごとなき。
案の定、先生はとりあえず剣でバリアを攻撃してきた。
しかし全攻撃絶対防御バリアは全攻撃絶対防御バリアなので全攻撃を絶対防御するバリアなのだ!
すると先生は魔力を剣に込めはじめ、マジでマリア様とか比にならんレベルの魔力量を剣先に集中させている。
めっちゃしゅごい。
あれで突かれたら流石にバリアも破られちゃうかも!
しかし全攻撃絶対防御バリアは全攻撃絶対防御バリアなので全攻撃を絶対防御するバリアなのだ!
ガキィン! って剣を弾かれた先生は、呆然としたあと足元のおでんに目をやる。
バリアの中にあるおでんとは別のおでんだ。
ちなみに冷まさず食べろとは言ったが魔力でコーティングされているので、いくらフーフーしても冷めない。
グツグツと煮えたぎるおでんをしばらく見つめ、先生は剣を振り上げた。
ガシャアン!
土鍋ごと吹っ飛ばされて散乱するおでん。
「食べ物を粗末にするな!」
元日本人として非常に遺憾な行動であるが、しかし、攻撃方法を持たないおでん召喚魔法の唯一の攻撃手段となる条件が満たされた。
まさしく「食べ物を粗末にするな」だ。
鍋からこぼれても、魔力によってアツアツを維持する具材たち。
まずは王道の大根くんが、ヘルケン先生の口を目指して自ら飛んで行った。
でもちょっとズレて、おでこにビターンってなった。
「あっつァアッ!?」
悶えるヘルケン先生。
しかし、続いてタマゴくんが先生を襲う。
今度はうまく口に飛び込めたタマゴくん。
「ブァッハッ!」
熱すぎて口から飛び出されたタマゴくん。
食べずに口から出すという行為は、おでんの怒りをより買うことになる。
三角形に斬られたコンニャクくんたちは、なんか弾幕シューティングみたいな感じでフォーメーションを組んで先生に迫っていった。
「ちょまっ……! 降参! 降参するよぉ……!」
それを聞いた俺は、おでんたちに待てと命じた。
それと同時に、あとでおいしく食べてあげるからね、という慈愛の心も忘れずに召喚を解く。
「なんなんだよぉ……。キミは……キミはワケわかんないねぇ……」
口の中を軽くヤケドしたらしく、若干涙目になりながら先生が言った。
負けておきながら意味不明だとのたまうあたり、まだまだおでんに対する理解が足りない。
ホントにコイツを許していいのか? と怒りを露わにするしらたきくんを、キレイに結びなおしてあげながら宥めた。
召喚は解いたんだから早く帰れよ。
「なんかさぁ、モウがいれば魔王とかも敵じゃないと思うんだよね」
アルフがそんなことを言ってきた。
まぁそういうのは勇者の役目でしょ。
いるらしいし、勇者。
しかも、この学校の3年生だって誰かが言ってたの聞いた。
◯
「君のおでんは素晴らしいね。でもね、この水を使ってダシを取ればもっと良くなるよ。水素を多く含んでるからね」
教室に戻ると同時にマルチ・カンユーくんが話しかけてきた。
この先、活躍する見込みもないクセにキャラが立ちすぎている。
水は丁重にお断りしておいた。
そしたら「後悔しないでね?」と圧をかけてきた。
怖い。
「さぁ……、みんなの実力もみれたことだし……アハッ、今日はここまでかなぁ……アハアハッ」
先生が冷や汗をかきながら笑って言った。
どう見てもクスリが切れている。
そのあと虚空を見つめながら何かを捕まえるような仕草を見せ、急に真顔になって教室を出ていった。
「ヘルケン先生も、元々は戦争で活躍した英雄だったらしいよ。通りで強いハズだよね」
話しかけてきたクラスの女の子(ノットブス)が教えてくれたんだけどね、と付け加えてアルフが言った。
基本的にアルフはブスが恋愛対象なだけで、社交性自体は高い。
だから元々、地元でも女子の友人は多くいた。
向こうは友人じゃなくて性欲の対象として見ていただろうが。
でもオコボレに与るとかは無かった。
イケメンの隣に立つフツメンというのは、握り寿司に添えられたガリである。
もちろんガリが好きだって人もいるのは承知している。
でも寿司屋の大将が「この握り寿司とガリ、どっちかだけ食べていいですよ」って出してきたらって話ですよ。
それにしても、まだ昼過ぎだ。
本来は入学式のあと、選択授業の説明とかがあると聞いていた。
ヤク切れ先生が帰ってしまったので、どうしたものか。
「とりあえず学食でメシ食って帰るか」
教室にいてもやること無いしね。
ちなみに昨日から学校の敷地内にある学生寮へ入寮している。
なので帰るのはすぐ帰れる。
ただ朝と夜のゴハンは寮で出るけど、お昼は出ない。
僕たち食べ盛り・育ち盛りの12歳。
学食は安くて量も多くて、それでいて美味しいと評判だ。
こりゃあもう行くっきゃないね。
クスリで人生ボロボロ先生に負けてから無言で筋トレを続けるルナに、筋肉にはタンパク質が重要だと説いたらすぐ付いてきたので3人で学食に向かった。




