05
今度は2週間ほど経って、入学式を迎える。
結構日数が空いたので、また例のテーマパークへ遊びに行ったら顔を覚えられていて入場拒否された。
子供を誘拐してるって噂を流したのもバレていて、衛兵さんまで呼ばれた。
なので「そうやって真実を握りつぶす気か!」ってギャラリーがいっぱいいる状況で叫んでから逃げた。
学校に行くと、校門のところにクラス分けの掲示があった。
ここで自分のクラスを確認して、その教室へ先に移動して荷物を置き、それから講堂に集まって入学式が催されるそうだ。
自分のクラスを確認すると、Fクラスだった。
今日までの2週間で集めた情報によると、Fクラスはいわゆる”掃き溜め”らしい。
才能が無いヤツとか、問題児とか、とにかく扱いに困るような生徒たちを放り込む場所なのだ。
ちなみにこれは想定通りである。
なにも試験官の人を困らせるために入学試験でハデにおでんを召喚したわけではない。
ルナとアルフは、人格に問題があるとは言え優秀なのだ。
普通に試験を受けていれば下位クラスになることはあるまい。
実技試験のあとに筆記試験も行われていたので、ルナに関してはそこに不安が残るところではあるが。
でも実技試験の占める割合は大きいって、試験の時に道行く受験生たちが話しているのを聞いた。
これでヤツらと同じクラスになることはなかろう。
3年間の学校生活、あのアカンタレどもの世話をするのは御免だ。
だから、あえて試験では的にダメージを与えなかったのだ。
貴族は試験で落ちないっていう状況を逆手に取った頭脳プレー。
本気を出せば強化したおでんを使ってダメージも出せたんだよホントに。
そうしてルンルン気分で教室に向かった。
友達100人作って富士山の上でおにぎり食べるんだ!
Fクラスにルナとアルフがいた。
何してんだコイツら。
マジでフザケんなよ。
「模擬戦をするっていうから、試験官をボコボコにしたのになんでFクラスなのかしら」
ルナは不満そうに言った。
脳筋なのでクラスがどこになろうとも気にするタイプではないが、実力を認められなかったというところに思うところがあるのだろう。
ふと見れば、クラスの数人が怯えるような目でルナを見ている。
おそらく試験を見ていたのかな。
この状況を勘案すれば、たぶんコイツやりすぎて問題児認定うけてんじゃねぇの。
アルフはアルフで、模擬戦の相手が女性でブスだったらしい。
だから一切攻撃せず、ひたすら防御して長引かせようとしたのだとか。
ただ防御して長引かせただけなら、筆記も余裕であろうアルフがFクラスに落ちることは無いはずだ。
たぶん本気で試験官を口説きにかかったのではないだろうか。
クラスの女子たちがチラチラとアルフを見て頬を赤らめているが、おそらく”女性には攻撃しない紳士イケメン”という勘違いをしていることだろう。
まぁ、若干こうなる予感もあった。
だってこいつら人格が終わってるもん。
だからクラス分けも自分以外の名前を見ないようにしてた。
友達、できるかなぁ。
◯
「諸君、入学おめでとう」
講堂で入学式が始まると、ホームレス先生が壇上で挨拶しだした。
なんか校長らしい。
今日は小綺麗な服を着てる。
どこの世界でも校長の話は長い。
要約すれば「みんな頑張ってね」で済むのにダラダラ話す。
こっちは学校卒業したら戦働きしてこいっつって戦場に放り込まれるんだぞ。
でも周りを見てみると他の生徒はマジメな顔で熱心に話を聞いていた。
「魔王を打ち倒し、この世に平穏を取り戻すため! 諸君らの力を貸して欲しい!」
長い話の末に、急にテンション上げて校長が叫んだ。
そしたら聞いてた新入生たちも「応!」って叫んでビックリした。
新興宗教かよ。
校長、絶好調だな。
そういや魔王が復活したとかそんな話だったなぁ。
前線からは遠い田舎から来たから実感なかったよ。
隣を見るとアルフも興味なさげで、新入生のブス探しをしていた。
逆にルナは目を輝かせている。
万雷の拍手の中、校長が降壇していく。
周りの生徒たちが感動を口々に話し出すのを聞いていると、ホームレス校長はデカい戦争の英雄だったらしい。
殺しの手管で英雄ヅラしてデカい顔すんなよな。
ま、現代日本の倫理観を生きた私の感想でございますが。
「静粛に! 続いて各クラスを担当する教員を紹介する!」
モノクルをつけた勉強が取り柄そうな細身の若い教師が言った。
ああいうタイプは禁断の魔法を研究してて、バレたら高笑いしながらその禁断の魔法を使って、最終的に「バ、バカな!?」って言いながら死ぬタイプだな。
担任教師はAクラスから順番に紹介されていく。
Aクラスはなんかもう、いかにも「エリートです!」みたいな顔したスマートイケメン男性教師だった。
そこからもBクラス、Cクラスと優秀そうな教師が紹介されていって、DとEになると優秀っていうより優しそうなカンジの担任になっていく。
そして我らがFクラスの担任紹介となった。
めっちゃ猫背で根暗そうな長髪ガリガリ男が登場する。
「ヘルケンです……。どうぞよろしく……」
死ぬんじゃないかっていうぐらい死ぬほど覇気のないほっそい声でヘルケン先生は言った。
こういうタイプの人は何があって教師になろうって思うんだろう。
◯
無事に入学式はお開きとなって、教室に戻ってきた。
クラス中、担任になるヘルケン先生の噂でもちきりである。
本当に教師なのか、ヤバいクスリでもキメてるんじゃないか、本当に生きた人間なのか。
実はマッドサイエンティストで、噂になっているテーマパークで子供を誘拐している犯人じゃないのか。
噂って怖い。
しばらく待っていると、教室の扉が開いてヘルケン先生が入ってきた。
なんかもう、いつ倒れてもおかしくないレベルでフラフラしながら教卓のところまで歩いてる。
「ハァ……しんどいねぇ。Fクラスは職員室から一番遠いからさぁ……。1年間も勤め上げられるか不安だよねぇ……」
クソ薄気味悪い笑顔でヘラヘラしながら話すヘルケン先生。
どうみても薬物中毒者だ。
みんな黙ってドン引きしている。
これから1年、この人から授業を受けることになるのか。
なにを教わるんだ、アンパンのキメ方でも教わるんか。
「まずはみんなの自己紹介といきたいところなんだけどねぇ……、まぁとりあえずはボクの話を聞いてくれるかなぁ……」
そう言って自分語りを始めだした。
死ぬほどスローペースで話すので要約すると、元々ヘルケン先生はこんな感じじゃなくて、さわやかスポーツマンタイプだったらしい。
生徒たちの青春の1ページを共に刻むべく、情熱を注いで熱血指導にあたっていたそうだ。
そんな先生は正義感も強く、学校上層部の腐敗に心を痛めていた。
ワイロなんかは当たり前、イジメなどの問題は隠蔽するし、国との癒着もあったとか。
そんな現状を変えるべく、先生は動き出す。
すべては大事な生徒を守るため。
職員会議では改善案を積極的に発言し、行動し、そうして実際に若い先生方の支持を集めていった。
この学校は変えられる、変わっていっている。
そう思った。
そしたらある日、目が覚めたら地下室に監禁されていた。
見知らぬ男たちに囲まれ、時には拷問まがいのことまでされた。
「教頭に頼まれたのか! クソ、卑怯だぞ!」
それでも先生の心は折れず、抵抗しつづけた。
そしたら、なんかクスリを打たれた。
それでアヘアヘなってクスリのことしか考えられなくなったんだってさ。
「だからさぁ……、ボクはこの学校のこと恨んでるんだよねぇ……。それでさぁ、みんなでさぁ、この学校をブッ潰そうよって思うんだぁ……」
めっちゃ面白い先生じゃん……。