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04

 3日経ち、入学試験当日を迎えた。


 トラブった到着初日の晩はおでんを食べたが、翌日以降はもうめんどくさくなって普通に外へ食べに出た。

 なんならめっちゃ観光した。

 子供向けのテーマパークみたいなのまであって、田舎にはそんなもの無かったからテンションがブチ上がってしまい、騒ぎすぎてスタッフの人から怒られた。

 体を動かす系のアクティビティでは、ルナが本気の身体強化で挑むので施設が壊れた。

 ちゃんと怒られた。

 アルフはブスを口説いていて怒られた。

 あんまり怒られるもんだから、このテーマパークは魔法実験のために子供を誘拐しているっていう根も葉もない噂を吹聴してから帰った。


 俺達は3人揃って割と終わっているのである。

 とりあえず3日間でヤクザ屋さんに見つかってケジメどうこうとかは無かったよっていう事が言いたかった。


 だから、そんなことよりも入学試験当日ですよって。

 こういう異世界学園モノではここが一番大事なんだから。

 ここで最初の仲間だったり、ヒロインだったり、終生のライバルだったり、そういうのと出会うのが王道じゃないか。

 無名の主人公がスゴイ力を見せつけて「な、なんだアイツは!?」みたいなのとかさ。

 ここの舵取り如何で、この作品の伸び具合が決まるんだよ。


 この作品ってなんだ……?


「それではこれより、実技試験を開始する」


 家名をひけらかすウンコ野郎に絡まれたのちのヒロインを救うため周囲に気を配っていたが、何事もなく試験が始まってしまった。

 それどころか「お前も田舎貴族の出身か? 俺もなんだよ。仲良くやろうぜ」みたいな親友登場エピソードも無かった。

 ましてや「レッツ領? 知らんな。恥をかく前に田舎へ帰った方がいいんじゃないか?」みたいなライバル登場すら無かった。


 ちなみにルナとアルフはいない。

 実技試験は騎士科と魔導士科に別れていて、ルナはもちろん、アルフも魔法よりどっちかと言えば剣の方が性に合ってるらしいので、魔導士科を受けているのは俺だけだった。

 ちなみに科はクラス分けに関係なく、入学後もクラスはごちゃ混ぜになって実技の授業だけ別れるカンジらしい。

 どっちも必要だから、同じクラスで協調性を学ぶとかなんとか。

 つまりヤツらと同じクラスになる可能性は潰えていないのだ。


「この位置から、あの的に向かって魔法を撃ってもらう。威力や精度など、総合的な判断でもって点数を決定する」


 ヒゲがモジャモジャの男がそう説明する。

 試験を担当する学校の先生らしい。

 ヒゲどころか髪もモジャモジャだし、魔法使いっぽいローブもボロボロなので見た目は浮浪者だ。


「それでは呼ばれた者は前へ出よ!」


 ホームレス先生は高らかに叫んで名前を呼び始めた。

 これだと自分が何番目になるかもわからないので、とりあえず試験を眺めることにする。


 的までは目測で20mくらい。

 的自体はだいたいA3ぐらいの白い板みたいなヤツだった。

 20人ほどが呼ばれて見学してみた限り、だいたい的には当たるけどキズは付けられないぐらいが平均っぽい。

 一番威力のあった受験生で、水魔法の水弾をブチ当ててうっすらヘコみを作っていた。

 それでも周囲は「おおー」と感嘆の声を上げていたし、ホームレス先生も「ほう……」と感心している。

 それだけあの的は固いってことなんだろう。


「次! マリア・ゼイルノート!」


「マリア様だ!」

「マリア様の番だぞ!」


 なんか周りがにわかにザワつきだした。

 最近見たぞこの感じ。


 案の定、受付のときに見た貴族令嬢が前に歩み出てきた。

 今日も相変わらず優雅な服装と佇まいを見せてくれる。


「”獄炎”の娘か。期待しておるぞ」


 ホームレス先生がマリア様に言う。

 それを聞いたマリア様は何も言わず、ただ微笑んで軽く会釈してから的に向かって両手を差し出した。

 さっきまでの受験生たちとは比べ物にならない魔力が練り上げられていく。

 しゅごい。

 あと"獄炎"ってなんだよそういうアダ名みたいなのすごくそそる。

 こういうのは長けりゃいいってもんじゃないよな。

 短くてカッコイイのが一番カッコイイ。

 俺の学生時代のアダ名は"ハンダゴテ"だった。


 そんなかつての青い時代を思い返していると、なんかめっちゃ暑くなってきた。

 今日ってこんな暑かったっけ。

 暑いっていうか熱い。

 みんなでハンダゴテ使う時は窓を開けろよ。


 いや違う、マリア様がなんかビーチボールとしては使えないぐらいのビーチボールの形したクソでっかいビーチボールと同じ大きさぐらいの火球を生み出している。

 あのビーチボールの使い道がデカさにハシャぐ以外は思いつかない。


 とりあえずデッカい火の玉を作り出したマリア様はハァッ! って叫びながら的に向かってそれを放った。

 ゴァァアアアアって感じで迫力がすごい。

 そんで的に当たった瞬間ズォォオオオオって火柱が立ってブァァアアアってなってる。

 それからたっぷり数十秒ぐらい経って炎が落ち着くと、焦げてボロボロになった的が見えた。

 まだ的の形は保ってるけど、端っこの方は炭化して崩れている。


「これほどとはな……」


 ホームレス先生が冷や汗を流しながら呟き、受験生たちに至っては声も出ない。

 でもちょっと溜めが長すぎるなぁと思った。

 火球の速度もそんなに速くないし、戦争で後方から固定砲台になるしか使い道が思いつかない。

 まぁもちろん他の魔法も使えるだろうし、試験の中身的に威力重視でいったんだろうけど。


「次! モウ・レッツ!」


 そんなことを考えていたら俺の名前が呼ばれた。

 あの威力の魔法を見せられた次とか勘弁してほしい。


 ここで改めて俺の魔法を説明しておこう。

 ”おでん召喚魔法”である。

 普通の魔法は使えない。

 つまり的に当ててダメージをどうこうなんていうのは、召喚したおでんの具を投げつける以外に手段がないのだ。

 しかしまだ説明していないことがある。

 有り体に言えば”おでんを主役にしてさえいれば、割となんでもできる”である。


 立ち位置に着いた俺は、不敵な笑みを浮かべて両手を的に向かって差し出す。

 そうして無駄に多い魔力を全力で込めていった。

 すると、みるみるうちにマリア様が出したものに匹敵する火球が形作られていく。


「バ、バカな!」


 ホームレス先生がビックリした表情で叫び、受験生たちも信じられないような目で俺を見つめている。

 キモチイイ。


「ハァッ!」


 裂帛の気合を込め、的へと火球を放つ。

 効果音をつけるならゴォォォオオオオである。

 それで的に当たってズォォオオオオって火柱が上がってブァァァアアアアアってなった。

 炎が落ち着くまでみんな固唾を飲んで的を見ている。

 ”獄炎”と呼ばれるたぶんすごい炎使いな大物貴族の娘、マリア様に匹敵するヤツが現れたのかと興味津々だ。


 それからマリア様と同じくたっぷり数十秒が経って、炎が落ち着いてきた。


 真っ白のまま無傷の的が現れた。

 そんで的が立ってる地面のとこに土鍋が置いてある。

 ”マリア様の炎魔法みたいな派手なエフェクトで、的のところにおでんを召喚する”が大成功だ!


「は?」


 ホームレス先生は困惑している。

 的のところまで近付いて行って、無傷の的とおでんをためつすがめつ見比べ始めた。

 的にはホントに何も起きてないのを確認してから、おでんをまじまじと見つめている。


「食べます?」


 そう問いかけたら、今度はおでんと俺を交互に見だした。

 まぁ困惑する気持ちもわかるので、とりあえず返事を待つ。


「何をした?」


 質問に質問で返すなよウンコ野郎。

 ホントのホームレスになってもおでんを恵んであげないぞ!


「僕って、おでん召喚魔法しか使えないんですよね」


 そう答えたら余計に困惑して黙ってしまった。

 人と会話もできねぇのかコイツ。

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