03
受付を済ませた俺たちは、とりあえずメシでも食おうぜってなった。
なにせ国の首長が住まう都、首都、王都である。
そりゃあもうウマイモンで溢れているに違いない。
素材の味を活かしました! の一本で勝負する田舎料理とは一線を画すハズだ。
俺はおでんが好きだが、あくまで”最強”という付加効果も含めて愛しているだけなのだ。
何が言いたいかと言えば、旅程の中でダシの味付けしか食べてないのでスパイシーなモノを食べたい。
せやけどウマイもんがぎょーさんある大阪でさえハズレの店はあったもんや。
あえて汚い店に入ってみたら、普通にマズイ店やったーなんて、なんぼでもあった。
せやから王都がなんぼのもんやっちゅー話でんがな。
結局のところ、ウマイモンは自分で探す、見つける。
これに尽きるで。
それが醍醐味でおます。
「ほないこか」
「でたよ、モウの謎訛り。どこの言葉なのそれ」
◯
結論から言えば、晩飯はおでんだった。
今度はアルフが一悶着を起こしたからである。
アルフがクッソほどイケメンであるにもかかわらず、めちゃくちゃブス専なのは以前に紹介した通り。
そんな彼が、メシ屋を探す道すがら、恋をしてしまったのだ。
「だめだよ、モウ。僕はこの気持ちを抑えられない」
そう言ってアルフは、人の顔みたいに見えるジャガイモみたいな顔をした女の子を口説きに行った。
ちなみに彼は普通に女好きである。
先程のセリフもすでに何百回と聞いたもので、経験人数も12歳にしてエゲつない数字だとか。
まぁその全てがブス相手なので、うらやましいかうらやましくないかで言えば、若干うらやましい。
とにかく、またいつものか、ってなもんで俺は特に反応することもなく見送った。
ルナはスクワットしてた。
しかし今夜の宿もまだ決めてないし、じゃあ何時にどこどこ集合な!って言えるような土地勘も無いので、結局のところ目が届く範囲から見届けるしかない地獄。
まぁアルフはクソイケメンだし、ブスは大概フリーなので決着は基本早い。
今回もそんなに時間はかかんないだろうな。
ルナはランジスクワットしてた。
そう考えて見届けていたら、どうにも相手は難色を示しているようだった。
もしかして人の顔みたいに見えるジャガイモみたいな顔の女の子のようなジャガイモだったのかな。
いやでも手足も付いてるし服も着てるしな……。
怪訝に思い、声が聞こえる距離まで近付いてみることにした。
「さっきから何度も言ってるけど、私には婚約者がいるの。ごめんなさいね」
衝撃だった。
田舎とはいえ地方領主の次男たる俺にも、婚約者など存在しない。
一時期、同い年ということでルナを充てがわれそうになったことはあるが、次男の女房にするより将軍とか斬り込み隊長にした方が領地のためになるという結論に落ち着いた。
ルナは空気椅子をしながら合掌(胸の前で手を合わせて力を込め、胸筋を鍛えるトレーニング)していた。
アルフはそれでも食い下がっているようである。
頭が良く、常識も持ち合わせているアルフだが、ことブス相手となれば倫理観が存在しない。
平気で横恋慕する男だった。
しかも恋多き男なので、基本ヤリ捨てなのだ。
今も困りジャガイモ顔の女の子に、土下座する勢いでワンナイトを願い出ている。
相手が満更でもないようなカンジであればそのまま見守るが、どうも本気で困ってるようだし、流石にアルフを回収するべきか。
そんなふうに悩んでいたら、ビックリするぐらいゴツゴツのジャガイモみたいな顔と体をしたコワモテのおっさんがヌッと出てきた。
「ウチの娘に何の用だ?」
服装からしても、明らかに”ヤ”のつく自由業の方だった。
なんかもう、額にジャガイモの芽みたいな青筋を浮かべてブチギレていらっしゃる。
アルフはアルフで倫理観がトんでるし、ルナ同様で魔物や盗賊の討伐も経験していて無駄に胆力がある。
だから急に出てきて恋路を邪魔するおっさんに対して死ぬほどケンカ腰になっていた。
ルナは釣込腰の練習をしていた。
俺はジャガイモの入ったおでんが大好きだ。
結局ジャガイモおじさんが引くほどキレてしまい、近くにいた部下っぽいチンピラがアルフを取り囲み始めてしまったので、これこそ芋づる式だなと俺は思った。
とりあえず仕方がないので死ぬほどグツグツのおでんを召喚し、湯気で煙幕を張ってアルフの首根っこをひっ掴み逃走した。
ケンカができそうでワクワクしていたルナと、闘ってでもジャガイモを手に入れようと思っていたアルフはめっちゃ不満顔だった。
コイツらマジでヤバイ。
逃げながら見つけた適当な宿にチェックインして、とりあえずメシ食おうかと思ったら提供は朝食のみで晩メシはしてないって言われた。
外にメシ食いに行ってヤクザ屋さんに見つかっても面倒なので、やむなく部屋でおでんを召喚して食べる。
「モウはさ、恋をしたことが無いんだよ。男には闘ってでも勝ち取らなきゃいけないモノがあるってのが、全然わかってない」
アルフがおでんを食べながら言う。
「ケンカを避ける意味がわからないわ。闘うことでしか共有できない気持ちだってあるのよ」
ルナがタマゴの黄身をダシで溶きながら言う。
王都到着の初日でそれぞれトラブルを起こし、そして責められるのがなぜ俺なのか。
俺にはサッパリわからないよ。
きっとこの世界が間違ってるんだ。
貴族だとか筋肉だとか、イケメンだとかブスだとか、そういうカテゴリ分けをするから争いが生まれるのさ。
福沢諭吉も言ってるだろ?
天は人の上に人をつくらず、人の下に人をつくらず。
でも実際は上下あるから、勉強して上を目指そうねっていう続きは一旦置いといてだな。
法の下に人は平等。
人類みな兄弟。
おでんの餅巾着に勝るものなし、つってね。
カチャンと、おでんを食べ切ったアルフが食器を置いた。
そうしておもむろに立ち上がり、両手足に魔力を纏い始める。
それから神妙な面持ちでコチラをじっと見つめて、口を開いた。
「女風呂をのぞいてくる」
コイツマジで終わってんな。