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02

 そんなこんななんやかんやで、王都に到着した。


 まさしくこれは都会シティである。

 高い建物が所狭しと建ち並び、多くの人々が行き交う。

 それになんかみんなオシャレ。

 普段おでんとか食べなさそう。

 おでんがオシャレじゃないみたいな言い方はやめろ!


「とりあえず騎士学校の受付にいくか」


 王都の中でもちょうど食べ物の露店とかがある場所にたどり着いていたため、おでんの具材探しをしたい衝動に駆られたが、本来の目的をまず果たさねばなるまい。

 道行く人々からブスを物色し始めたアルフの腕を引っ張りながら歩き出した。


「じゃあ私は、筋トレがてらウサギ跳びをしながら付いていくわ!」


 それからはもう地獄である。

 はたから見れば男二人が美少女にウサギ跳びを強要しているかのような状況であろう。

 人々の視線が痛い。

 実際に衛兵さんに呼び止められ、何をしているのかと問い詰められそうになった。

 だが弁解する前にルナが「止まるな! 筋肉が悲しむ!」とワケの分からないことを叫ぶため、衛兵さんも引いていた。


「ウサギ跳びはトレーニング効果がそこまで高くない上に、故障のリスクが高いんだ」


 とりあえず歩きながら衛兵さんに現状を説明すると、そんなアドバイスを貰った。

 衛兵さんも職務上、体を鍛える必要があるのだろう。

 筋肉の同志としてルナも素直にそのアドバイスに従った。


 代わりに手押し車が始まった。


 俺は地図を見つつ先頭を進む役割を担っているので、アルフがルナの足を抱えている。

 アルフはアルフで美少女ノットブスであるルナに興味はないので、道行くブスを見てヘラヘラしながらやってる。

 また立ち止まるとルナがキレるので、俺は地図で現在地を把握しつつルート選定に必死だ。


 先頭で必死に地図を見る俺。

 死ぬほど汗だくで手押し車をするルナ。

 ヘラヘラするアルフ。


 騎士学校に着くまで、別々の衛兵さんに3回呼び止められた。



   ◯



 騎士学校に到着した。

 とは言っても、ここはまだ校門前の広場みたいになってる場所である。

 いくつかテントみたいなのが建っていて、そこで受付をしているらしい。

 おおまかにだが2つのグループに別れていて、片方は貴族用でもう片方は一般市民用の受付だそうだ。


 貴族に関しては家督を継ぐ長男以外は入学がほぼ義務付けられているような状況だが、一般市民は入学希望者の中から試験で選別される。

 将来的に国の正規軍であったり、そこまでいかずとも地方領主の私有兵とか都市の衛兵とか、なんせ公務員になれれば収入はそれなりである。

 ゆえに一般市民からの入学希望者も結構いる、というのが2回目の職質をしてきた衛兵さんに聞いた情報だ。

 倍率は高いらしいけど。


 とりあえず貴族用の受付の列に並んだ。

 そこそこの人数が並んでいるが、まぁ貴族は顔パスなのでそんなに待たないかな。

 一応試験も別日にあるらしいけど、どちらかと言えば入学後のクラス分けのためだとか。

 汗だくでハァハァ言いながら筋肉を撫でるルナと、同級生になるブスを物色しながらハァハァ言ってるアルフを見ながら、コイツらとは違うクラスだったらいいなと思った。


「マリア様だ!」

「マリア様がいらしたぞ!」


 そんな声が聞こえて、にわかにあたりがザワザワしだした。

 なんだなんだ。

 周囲を見回すと、全員が同じ方向を見ている。

 同じくソチラの方向を見れば、5,6人の取り巻きに囲まれてコチラに向かってくる女の子がいた。

 なんかもう、めちゃめちゃ貴族令嬢ってカンジの美少女だった。

 田舎で見たことないぐらい豪華なドレスを着て、顔付きから所作から「アタシ、貴族です!」っていうのがもう全面に出ている。

 取り巻きは男女混合だが、そちらもみんなキレイな顔してキレイな服を着ていた。

 めっちゃ貴族っぽかった。


 どっかの偉い貴族のご令嬢なんだろうなぁー、ぐらいの感じでボケっと見ていたら、列に並んでいた周りのみんながサァーッと左右に避けていった。

 当然、貴族用に並んでいたみんなも貴族の子供のハズなんだけど、それでもお先にドウゾするレベルで身分が高い女の子だということらしい。

 元日本人としては釈然としない気分ではあったが、元日本人としては右にならえである。

 アルフもやってきたのが美少女ノットブスだったので、顔がスンとして同じように道を空けた。

 全員が左右にはけていった様子を見て、御一行の先頭を歩いていた取り巻きの男の子は勝ち誇ったような顔をして肩で風切るように進んでくる。

 が、急にその表情が訝しげなものに変わった。


「おい、邪魔だぞそこの女!」


 今度は怒ったような表情になって、そう叫んだ。

 おい、邪魔だぞそこの女! って言われる女に心当たりがありすぎて、その視線の先を確認するのが怖かった。

 意を決しておそるおそる確認すると、案の定ルナが、左右に開けた人々のど真ん中で空気椅子をしていた。


 ああー……途中で手押し車に変わったから足の追い込みが足りてなかったんだね……。

 すでにルナさんの精神は筋肉の世界へ旅立っていらっしゃる。

 周りの状況は何も見えておるまい。


「おい、邪魔だと言っているだろう!」


 先頭の取り巻き1号はルナの至近距離まで到達し、そう恫喝する。

 それでもルナの目は一点の曇りもなく虚空を見つめ、心は筋肉にあり、ここではないどこかに魂を飛ばしていることを証明していた。

 というかちょっと横に避けて進めば十分に通れるだけの道はできてるのに。

 プライド高いと生きづらそうよね。


 取り巻き1号は「聞いているのか!」と激おこでルナの体を突き飛ばそうとした。


「固ッ!?」


 しかしルナの体はビクともせず、1号君は驚愕の表情を見せる。

 それでもルナは現世に帰ってきません。

 驚きの表情から、また満面の怒りを露わにする1号君。

 ついには両手を前に差し出し、魔力を溜めだした。

 怒りすぎ。


 先ほどまでは意に介するほどでも無かったが、本来は敵意に敏感なルナさん。

 ここでようやく筋肉世界からの帰還を果たし、見れば敵意ビンビンの1号君。

 状況はサッパリ理解していないだろうけど、とりあえず敵意ビンビン丸への対処はまずアレ。


 殺気。


 12歳にして領内に敵なしのルナは、すでに魔物や盗賊の討伐を経験している。

 田舎の人手不足の中で、わざわざ使える人材を遊ばせておく余裕なんてあるはずもない。

 脅しじゃない”殺意”を、向けられたり向けたりしているのである。


 まぁ要するに、都会のもやしっ子がそんなもん耐えられるかっていう話でしてね。

 腰の剣に手をやるでもなく、未だに空気椅子の体勢のままであるルナから発せられる殺気に、1号君は歯をガチガチ鳴らしだした。

 すでに両手には魔力を溜め切ったように見えるが、それをどうするでもなく体をガタガタ震わせている。

 チワワ。


「おやめなさい」


 短くも凛とした声が響き渡った。

 マリア様って呼ばれていた貴族令嬢からだった。

 先ほどまでと同じく淀みないキレイな所作で、気付けば1号君の前にまで歩み出ている。


「悪いのだけれど、そこを通らせていただけるかしら」


 あまりにも涼し気に、なんなら微笑みながら言うものだから、ルナも毒気を抜かれたようで殺気を収める。

 それから周りを見渡して、言われたことを理解したようだった。


「あら、邪魔になってたかしら。悪いわね」


 ルナはそう言って、普通に道を空けた。

 ルナを知らないギャラリーからすれば、たぶんマジで行動が意味不明すぎて怖いと思う。


 マリア様は何事も無かったかのように受付へと足を進め、取り巻き達は状況に困惑しながらも付いていき、1号君も取り巻きのうちの一人に肩を借りながらマリア様を追いかけていく。

 とりあえず、ケガ人とか死人が出なくて良かったなぁ。

 ルナとは別のクラスになるように全力を尽くそう。

 このあと同級生になる周囲の人々がルナのことを、危険物を見るような目になってるから。


 怖すぎて受付の列に戻らず様子見している周囲の人々を見て、ルナは普通にマリア様御一行の次に受付に向かっていった。

 それにアルフが普通に付いていった。

 置いていかれるのも癪だったので、俺も普通に付いていった。

 3人まとめて危ないものを見る目で見られた、ミスった。


 受付に着いたときも、まだ受付待ちしている取り巻きの子がこっちに気付いてギョッとしてた。

 傷つく。


 そこからは何事もなく少しの時間を待って、順番がきて受付を済ませた。

 名簿に名前書いて本人確認みたいなことだけだったので、時間はそんなにかからんかったです。

 1枚の名簿に何人も名前を書くので、上の方にマリア様の名前も見えたのでチラッと見る。


 若干文字が震えててキュンとした。

 気丈に振る舞う女の子っていいよね。

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