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 バカにしてんのかこのゴリラ。

 フザケんなよこのゴリラ。

 シバくぞゴリラ。


「いや、もうですね、試験をした後なんですよね。そんで、合否を判断すべき受付嬢さんとかBランクさんの意識が無いのに僕は関係ないんですね。だって彼らがヤレっつったことを僕はやっただけなんですね。それでなんか、納得できんとか言われてもですね、僕はですね、もうですね、ンハァッ……」


 努めて平静に現状を説明しようと頑張ったが、途中でストレスがマックスになって変な声が出た。


「フンモッホ、ホッホッ、ウホウホ」


 そしてゴリラになった。


「なんだコイツ。バカにしてんのか?」


「バカにしてんのはどっちだコルァッ! ハァッ!?」


 俺は引くほどキレた。

 最近なんか引くほどよくキレてんな俺。


「ギルドマスターかなんか知らんがなぁ、テメェが納得してるかどうかなんか知らねぇんだよ! テメェが納得する必要があるなら、テメェが納得するための仕組みを作っとけボケ!」


「あぁ?」


 ゴリラが完全にキレ顔になった。

 そして威圧感たっぷりにコチラへ無言で一歩踏み出してくる。


「なんだぁ!? ケンカかぁ!? 言われたことに言い返しもせず暴力かぁ!? えっ、ギルドっていうそれなりの組織の長がですかー!? 長がコレとかマジかよ! 大丈夫なんか!?」


 そしてゴリラはグーパンを構えた。

 完全に殴る気だ。

 まぁ、それならそれで全攻撃絶対防御バリア張りますけどね?


 そしてゴリラが拳を振りかぶる瞬間、俺たちの間に躍り出るさわやかな影が一つ。


「ギルドマスター、落ち着いてください」


 さわやか勇者先輩がギルドマスターの拳を受け止めていた。

 なんかよくわからん真っ白い魔力を纏っている。

 コレが勇者の力かな。


「モウくんも、なんでキミはそんなに相手を煽るんだい」


「いいですか、僕はね、停止線を越えて横断歩道に食い込みながら赤信号待ちをする車がいれば、ワザと車スレスレを歩きながら横断歩道を渡ります。満員電車で扉口付近のヤツが降りる人間の邪魔をしていたら、ワザと軽くタックルしながら降ります。横断歩道で対面のヤツが信号無視をして渡ってきたら、そいつの顔をガン見します。そんな僕が思うことは、世の中がもっと住みやすくなればいいな、という事です」


「……キミの例えはよくわからないけど、なんとなく気持ちはわかったよ」


 そうして、さわやか勇者先輩はまたひとつため息をついた。

 俺が駄々っ子みたいになるからやめて欲しい。


「ギルドマスター、彼は十分な実力を持っています。ダンジョンの探索にだって必ず役立つ人材となるでしょう。まずは登録を認めていただいてもよろしいですか?」


「もう登録とかは関係ねぇ。俺はそのガキに思い知らせる」


 なんでまだキレてんだよこのゴリラ。

 ホントに組織の長としてどうなんよ。


「落ち着けよ、短絡ゴリラ」


「殺す」


 そうしてゴリラは本気の殺気ゴリゴリゴリラで魔力を練り始めた。

 それに対して俺は、おでんを召喚する以外に能がない。

 能がないのだが、魔力だけはやたらとあるのである。

 なので、ゴリラよりちょい多めぐらいの魔力を練りながら体に纏った。


「ああ? ……おもしれぇじゃねぇか」


 仮にもギルドマスター。

 それも、おそらく経営能力じゃなくて実戦能力を買われて立場についたタイプのギルドマスターなんだろうな。

 それと匹敵する魔力量で対峙する俺。

 もう周りは戦々恐々といったカンジです。


「ストップ、ストップ! それ以上やったらギルドが全壊しちゃうよ!」


 さわやか勇者先輩が止めに入った。

 しかし、ゴリラはもう止めるつもりが無さそうだ。

 そして、いざケンカが始まろうとしたその時。


「ギルドマスター! 大変です、ダンジョンに異変が!」


 転がり込むように入ってきたギルドの職員っぽい人が、ギルドマスターに対してそう叫んだ。



   ◯



 アルフは疲弊していた。


 共にいるのはルナを含むAクラスのクラスメイト5名。

 本日のダンジョン実習で分けられた班員である。

 そして引率としてCランク冒険者が2名いた。


 いた、というのは文字通り過去の話で、今はいない。

 彼らは役目を果たそうと学生たちを守り、そして散った。

 そして、その役目を引き継いでいるのがアルフとルナだった。


 今も前から後ろから、モンスターが湯水のごとく湧いてくる。


「クソッ、キリがないな!」


 今日の本来の目的は、浅い階層を物見遊山する程度のことであった。

 実際、序盤は異常もなくそうなっていたし、危険があるようには思わなかった。

 ところが、そろそろ引き返そうかという段になって、どうにも様子が違ってきたのである。


 まず、異常にモンスターと出会うようになった。

 浅い階層なので強くはない。

 強くはないが、数が多い。

 どれほど倒しても数が減らず、なんなら増えていっているようだった。

 そのためできるだけ戦闘を避けて帰路を急いだものの、その途中でCランク冒険者2名が数に飲まれた。

 道を把握していたのもそのCランク冒険者だったので、そうなると帰り道もわからない。


 進むことも戻ることもままならず、そうして前から来るモンスターをアルフが、後ろからはルナが対応せざるを得なくなった。

 Aクラスの仲間は優秀な学生ではあるが、田舎生まれのアルフとルナに比べると実戦経験に乏しい。

 単体なら負けるようなモンスターではないが、戦い続けるだけの体力や経験がない。


 その仲間を守る戦いになっているのがつらい。

 ダンジョンの通路はおおよそ5メートルほどの幅があり、そこを所狭しとモンスターが押し込んでくる。

 その横を抜かせずに戦わなければならない。


 すでに1時間ほどは戦い続けている。


(見捨てるしかないか……)


 結構前に出していた結論ではあるが、なかなか実行に移せないのは、間断なく戦い続けているせいでルナにその意思表示ができないからだ。

 あと守っている仲間にブスがいるからだ。

 すごくブスだ。

 ふんぎりがつかない。


 ルナはただの殺戮マシーンと化しているだろうし、ルナから仲間を見捨ててどうこうという動きは期待できないだろう。

 生き残るためにはアルフ自身が動かねばならない。


(恨んでくれるなよ)


 一瞬の隙をついてアルフは踵を返した。

 その途中、怯えて中央に固まる仲間の中に、涙を浮かべるブスを見る。


(まだ抱いてないのになぁ……)


 背後に断末魔を聞きながら、アルフとルナは一旦その場を脱したのである。



   ◯



「バカな、スタンピードだと?」


 ゴリラが驚きながら言う。

 なんだろうスタンピードって。


「モンスターが急に増えて、ダンジョンから氾濫することだよ」


 となりにいたさわやか勇者先輩が教えてくれた。

 ほえー。

 なんか大変そうじゃん。


「記録に残ってる前回のスタンピードは300年くらい前らしいよ」


 ほえー、そんな前なんか。

 そんな急に起こるもんなんすかね?


「確かなのか? そんな前兆は無かったはずだ」


 ゴリラはなおも報告してきた職員を詰めている。

 普通は前兆があるらしい。


「とにかく確認からだ。この中で今すぐ動けるチームはいるか!?」


 そんな感じでゴリラが動き始めた。

 周りの冒険者もいそいそと動き始めて、確認のためにダンジョンへと向かうらしい。


 そういやAクラスって今ダンジョン行ってるんじゃなかったっけ?


「今、Aクラスの学生がダンジョンへ実習に行ってると思うんですけど、どうなりますかね?」


 慌ただしく動くゴリラに尋ねてみる。


「残念だが、本当にスタンピードが起きたなら生還は難しいな」


 それだけ答えてどこかに行ってしまった。


「どうするつもりだい?」


 さわやか勇者先輩が俺に聞く。


「どうしますかねぇ。そういえば、冒険者登録してない人間が勝手にダンジョンに潜ったらどうなるんです?」


「モグリは普通に罪に問われるね」


「そっかぁ。でも試験は受けたし、登録をしてないのはギルドの怠慢では?」


「まぁ、そう強弁できなくもないかな?」


 そうだよね。

 それで罪に問うて来たら逆に笑けてくるで。


「じゃあ、まぁ、行きますか」

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