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「マルチ・カンユーの父君だ。彼には学校の運営にあたって、多額の援助をいただいている」


 ホームレス校長がそう説明した。

 要するに息子が暴力を振るわれたって怒鳴り込んできたヤツが、学校にとって大事なパトロンだったから無視できなかったみたいな?

 おいおい金かぁ?

 ホームレス校長のクセしてカネカネ言うんじゃねーよ。


「おい貴様! どうするつもりかと聞いているんだ! なんとか言ったらどうだ!」


 カンユーパパがヒートアップしている。

 悪徳商人みたいな見た目をしているので、小物感がすごい。


「まぁ落ち着いてくださいよ。見たところ商売を生業としている方ですよね? あなたは卸業者の話だけを聞いて仕入れを決めますか?」


「ぬっ……。では暴力を振るうに相当する理由が貴様にはあったとでも言うのか?」


「もちろんあります」


 実際はない。

 というか、彼のことがカンに障ったのでってさっき言ったし。

 ただムシャクシャしてるタイミングだったので殴っただけだ。

 あまりに自信マンマンに理由があるなんて言ったもんだから、校長とカンユーくんとカンユーパパがめっちゃコッチ見て俺が何か言うのを待っている。


「そういえば、ヘルケン先生はいらっしゃいますか?」


「……なぜ今ヘルケンが出てくるのだ?」


 そんなことよりとっとと理由を言えと言わんばかりに校長が威圧感たっぷりに言ってくる。

 余裕のない大人ってダサイと思う。


「例えばですが、ヘルケン先生に命令されて彼を殴ったと言ったらどう思います?」


「ヤツのことは昔から知っておる。そういったことをする者ではない」


「そうですよね。もちろんそんなことは無いんですが、それと同じくらい現実味のない話なんですよ」


「……どういうことだ?」


「今ここで僕から理由を語ったとしても、とても信じて貰えないような内容なんです。せめてヘルケン先生からの口添えぐらいはないとね。真実を語ったのに、デマカセ扱いされて鼻で笑われるようなことはされたくないですから」


 実際は真実なんてない。

 ただの時間稼ぎである。

 なんか「思ったより深い話なのか……?」って困惑しているマルチ・カンユーくんとカンユーパパを見ていると「嘘ぴょーん!」って言ってバカにしたくなる衝動にかられる。

 しかし、ここは我慢だ。


 まぁ時間を稼いだところで何かアテがあるわけでは無いんだけども。

 余計に怒られる未来しか見えない。

 それでも、都合の悪い事は先送りにする。

 それがこの俺、モウ・レッツだ。

 oh〜! モーレツ!


 ホームレス校長は少しの間無言で俺のことを睨みつけたあと、おもむろにビジネスフォンみたいな魔道具を操作しだした。

 見た目からめっちゃビジネスフォン。


「ワシだ。ヘルケンを部屋に呼べ。……来ていない? この時間でまだ来ていないのか?」


 おいおいウン漏ら先生まだ来てないの〜?

 俺としては都合いいけども、もしかしてまだあそこで寝てんのかな?


 校長はまたしばらく黙って考え込んでいた。

 このジジイはマジで人と会話をすることを覚えた方がいいよ。

 自分の世界に入り込むばっかりのヤツにロクなヤツいねぇんだから。

 もっとコミュニケーション能力を磨きなー?


「……どうやら不測の事態のようだな。すまぬがカンユー親子は退室願えるか。今回のことは後日必ず説明させてもらう」


「むぅ……。まぁいいでしょう。必ず納得のいく説明をお願いしますよ」


 そう言ってカンユー親子は去った。

 マジでただカンに障って殴っただけなのにかわいそう。


「昨日のことは勇者から報告を受けておる。今回のことはそれと関係あるのか?」


「まぁそんなところです」


「ワシにも話せぬことか?」


「僕だけでは判断に迷うところでして。今の段階では、情報を知っている人数は少ないほどいいですから」


「ヘルケンの行方は?」


「僕にもわかりません。先生は、僕達にも何か隠していたようでしたし」


 特に何かを隠された記憶はない。

 こうやってウソを積み重ねていくとドキドキしちゃうなっ!

 いつ積み木が崩れちゃうかなって!

 世の中には絶対にあとでバレるのに誰も得しないウソをつく人間っているけど、ちょっと気持ちがわかっちゃう。

 ウソつかれた側の人間はマジで意味不明すぎてクソほど腹立つんだけども。


 それから校長より一旦退室してよしとの許可をいただいたので、教室に戻ることにした。

 歩き始めようとして、これからまた30分かけて歩かねばならないことを思い出してしまう。

 めっちゃムカついてきた。

 何が退室してよしだよ。

 お前が歩けよ。

 校長室のドアノブは円筒状の握り玉ではなくレバータイプだったので、腹いせに召喚したおでんのちくわを刺しておいてから歩き始めた。


 歩き始めてすぐ、校長室からすぐ近くにある職員室から人が出てきたので、オザィアース(おはようございます)と挨拶した。

 それから改めて顔を確認すると、モノクル太郎だった。


「えっ、なんでいるんすか?」


「なんでって、私はここの教師だからですよ」


 と、至極まっとうなお答えをいただいた。

 いやそうなんだけれども。

 昨日あんな感じになったのに、普通の返事されても困っちゃう。


「もとより私が関与していることを知っている人間に現場を見られただけですから。これで姿をくらましたら、それを知らない人々が訝しむだけでしょう? 貴方がたには公表しがたい内容だったようですし」


 モノクル太郎の言う通り、こんなことしてましたよ! って公表すると余計に模倣者を増やしかねない。

 倫理的にはキツイことしてるけど、やっぱり量産できる強兵ってのは魅力的な存在だ。

 そもそも証拠隠滅されてたから、糾弾するための証拠が無い。


「心配せずとも、学校内で危害を加えるつもりはありませんよ。リスクを負ってまでそんなことをするメリットがありませんし」


 メッチャちゃんと社会人じゃんモノクル太郎。

 ロクに会話もできないホームレス校長や、クスリが切れて脱糞するヘルケン先生より常識人だ。

 そもそも、あの実験に対してもそんなに否定的じゃないし。

 あれが為れば俺みたいなおでん召喚するだけの木っ端貴族が戦争に行かなくて済むかもしれないし?


「それでは、授業がありますので私はこれで。ああ、あとあまりヘルケンに入れ込み過ぎない方が身のためですよ。理想のためだったら周囲を顧みないタイプなので」


 確かに、それはそう。


「あっ、ヘルケン先生が来てないらしいんですけど何か知ってます?」


「さぁ、どうでしょうね?」


 意味深な微笑を見せてモノクル太郎は去っていった。

 うーん、昨日のことでまた教頭に目を付けられて監禁されてるとかかなぁ?

 まぁそれならそれで一旦ほっとくか……。

 お腹すいてきたし……。

 教室に戻るよりも、このまま食堂いこっかなぁ。



   ◯




 結局、食欲に負けて食堂へやって来た。

 まだ昼前なので人は少ない。

 というか、少ないとはいえ逆に今いるヤツらは何しに学校来てんだ。

 授業中だぞ。

 プンプン。


 そんなけしからんヤツばらの中にさわやか勇者先輩がいた。

 テメェ!

 勇者だったら授業サボってええのんか!

 いや、良いはずがない(反語)。


「おや、奇遇だね。授業はどうしたんだい?」


 こちらに気付いたさわやか勇者先輩が話しかけてきてくれた。

 お前が言うな。


「先輩こそ何してんすか」


「3年生になると普通の授業はなくなるからね。早めに昼食を摂って、ダンジョンにでも行こうかと思ってさ」


 ダンジョン。

 そういうのもあるのか。


「良かったら一緒に行くかい?」


 ダンジョンか、ええやんけ。

 セオリー通りなら色んなモンスターと戦ったりして、そこからお宝を手に入れたりなんかがあって、ワクワクドキドキスペクタクルワンダーランド大冒険が待ってるんだろ?

 いいじゃん、行こうぜダンジョン。

 みんなで目指そう一攫千金。

 俺達ダンジョン穴兄弟。


「ゆこう」

「ゆこう」


 そういうことになった。

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