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件のテーマパークに到着した。
まだ夜明け前の真っ暗な時間なので、当然ながら人っ子一人いない。
ましてや入口ですらない高い塀があるところに着いたので、あたりはシーンと静かだ。
ヘルケン先生がその塀に近づくと、物陰からヌッと黒い服を着たニンジャみたいなのが一人現れた。
どうやら先生の部下かなんからしく、先生に耳打ちしてどこかへ消えていった。
「うん……、やっぱり今日はアタリのようだねぇ……」
聞けばモノクル太郎は中にいるらしい。
おそらくアブナイ魔法の実験したり、今日の誘拐計画を立てたりしてるんじゃないかとのこと。
というか、子供を攫ってなんの実験してんだろうな。
「若いキミたちを連れて来といてなんだけどねぇ……、中を見て……何があっても取り乱しちゃいけないよぉ……」
暗い顔で言うヘルケン先生。
じゃあ連れてくんな。
少なくとも丸腰で連れてくんな。
「じゃあ行こうかぁ……」
そう言って先生は静かに魔力を練り、フッと短く息を吐くとフワッと体が浮いた。
風魔法で体を浮かせてるのか。
人間一人分の重さを浮かせる風を生み出しているハズなのに、恐ろしく静かだ。
そのままスーッと壁を越えていった。
それにならい、さわやか勇者先輩も同じようについていく。
その際、こちらをチラッと見てさわやかに笑った。
キミたちならこれくらい出来るだろ? と言わんばかりだ。
すいません、できません……。
アルフは風魔法を使えるが、あそこまで静かにできるかと言えば難しそうだったので、女風呂をのぞく要領で手足に粘着質の魔力を纏って壁を登り始めた。
まぁコイツはそれでいいや。
静かに侵入するっていう目的は達せられるしな。
問題はルナさんだよな。
少し考え込むような表情を見せたルナは、ウン、と一つ頷いて、壁に向かって剣を構えた。
待て待て待て。
バカヤロッ!
「どうせ皆殺しにするんでしょ? コッソリ行く意味がわからないわ」
違うんだよぉ、なんていうかこう、不意打ちにしないとさぁ。
騒ぎ起こして逃げられてもダメじゃぁん?
証拠隠滅とかされてもダメじゃぁん?
やむなく俺は、空飛ぶおでんを階段状に召喚した。
食べ物を足蹴にするのは憚られるが、やむをえまい。
そうして高い塀を全員静かに乗り越えた。
あたりを見回してみれば、どうやらここはひとつのアトラクションの裏側部分らしい。
大きい建物の裏側で、廃棄する備品とかが積まれてたりしている。
そして、その建物にはスタッフ用の出入口っぽいものがあった。
しかし先生はその出入口には目もくれず、積んである廃棄っぽい汚ねぇロッカーに目を付けた。
高校の男子運動部の部室にあるロッカーぐらい汚い。
どう見ても廃棄品である。
でも、どれだけ汚くても自分のロッカーがあるってだけで感動したあの頃。
「これだねぇ……」
先生はそういうとロッカーに手を掛けたが、どうも鍵がかかっているらしい。
そこでまた風魔法を発動し、小さな刃を作り出してロッカーの扉の隙間に差し込んだ。
するとどうでしょう、簡単に扉が開いちゃいました。
中を見れば、そこにはくっせぇ靴下とか何年前のだよっていう漫画雑誌とかもなく、奥へと空間が続いていた。
何代か前の先輩が残していったエロ本もないし、いつか使うんじゃないかって、OBの先輩がくれたけど結局使わずホコリを被ったまま置きっぱなしの0.01mmの箱もない。
あったのは階段だった。
ヘルケン先生を先頭に、慎重に階段を下っていく。
間に俺たち3人が入って、殿がさわやか先輩だ。
なんで「との」と「しんがり」が同じ漢字なんだろう。
階段を下り切れば廊下があって、いくつかの部屋の扉が見えた。
「さぁて……、ここからは細心の注意を払っていくよぉ……」
なんか、どうでもよくなってきちゃったな。
そもそもAクラスに上がれなかった腹いせで学校をブッ潰そうって言ってたワケで。
そんで今日まで”面白いイベント”の中身をナイショにされてたからテンションを保てたワケであって。
別に正義感とかそんな持ってないので、悪いヤツらをブッ倒そう! っていうガラでもないし。
ルナは戦えればいいので気配を隠す気はなさそうだ。
アルフは乗り気で今日を迎えたワケではないので、どう見てもやる気がない。
どうすっかな。
そんなことを考えていると、ヘルケン先生は手近な部屋から調べ始めた。
最初は、ただの寝泊まり用の部屋だった。
そこからも何部屋か同じような部屋が続く。
大した物も置いてなかった。
その次はなんか資料室みたいな部屋があって、そこでは実験の資料とかがあったらしく、先生とさわやか先輩はテンションが上がっている。
戦いが無いのでルナはテンションが下がっていく。
先生たちは資料の中身を確認しだした。
俺は手持無沙汰なのでテキトーな資料を手に取ってから、タテ読みとかナナメ読みで「うんこ」が無いか探し始めた。
アルフもテキトーな資料をパラパラめくっている。
ルナは筋トレを始めた。
少し経って、俺はついに「うんこ」を見つけた。
感動した。
なんかよくわからんことがイッパイ書いてあるクソ小難しい資料から「うんこ」を見つけたのだ。
この感動を誰かに伝えたくて顔を上げると、とても「うんこ」って言える雰囲気じゃなかった。
ヘルケン先生とさわやか先輩はもちろん、アルフまで深刻な顔をしている。
ルナは筋トレしている。
「思ったより……、エゲつないことしてるねぇ……」
俺は迷った。
空気を読んで「うんこ」って言わないか、逆に暗い雰囲気を払拭するために「うんこ」って言うか。
「予定通りやりましょう、ヘルケン先生。ボクは勇者として、この状況を放置はできませんよ」
逆に深刻そうな顔して「うんこ」って言うのもアリか?
俺も「とんでもないもの見つけちゃいました」みたいな顔して、この「うんこ」資料を見せるっていうのも一つの選択肢としてあり得る。
「たしかに、放置してたら状況は悪くなる一方でしょう。ただ、僕らだけでどうにかなりますか?」
アルフに問われ、難しい顔で考え込むヘルケン先生。
若干だが冷や汗をかいて目が泳いでいるので、小難しい状況になってクスリが切れてきたらしい。
頭を使うとエネルギー食うからね、仕方ないね。
「おやおや、いけませんねぇ、ヘルケン先生。断りもなく他人の領域に侵入するのは、教師としていかがなものかと思いますねぇ」
「うんこ」
声の方向を見れば、モノクル太郎が部屋の入口に薄ら笑いを浮かべて立っていた。
そのそばには、人間ドックとかで着せられるような服を着た子供が3人いる。
3人とも、顔には生気がない。
実験に使われた子供とか、そういうのかな。
「キミはさぁ……、人のことは言えないんじゃないかねぇ……。その子らは……もしかしてココに書いてあるような存在なのかぁい……?」
資料をトントンと指差しながら問いかけるヘルケン先生。
それに対して、クックックッと悪役らしい笑いで応えるモノクル太郎。
「気になりますか? ちょうど研究の成果を試す相手を探していたところなんですよ」
そう言いながら、モノクル太郎は懐から一枚の紙を取り出した。
なにやら魔法陣のようなものが描かれている。
「やめろ!!」
さわやか先輩がさわやかさゼロでブチ切れていた。
「流石、お優しいですねぇ勇者サマは。ご安心なさい。どちらにせよ、この子たちはもう人間には戻れないのだから」
そう吐き捨ててからモノクル太郎が何事か呟くと、持っていた魔法陣が淡く輝きはじめる。
その途端、3人の子供の体にも似たような模様が浮かび、苦しそうに悶えだした。
そして、みるみるうちに人間とは違う生き物に変わっていく。
「魔王との戦争で、我々のような貴族が庶民のために命を張る必要があるかと思うんですよねぇ」
ものの数十秒のうちに、子供たちは異形の姿へと変貌した。
「だから、庶民のガキが戦力になるなら、それにこしたことはないでしょう?」
「うんこ」




