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 モウ・レッツは激怒した。

 必ず、かの邪智暴虐の校長を除かなければならぬと決意した。


「じゃあね、モウ」


「Fクラスのみんなに迷惑かけちゃダメだよ」


 ルナとアルフはそう言って、Aクラスの教室へ向かっていった。

 この薄情さ。

 ヤツらはセリヌンティウスになりえない。

 なったとしても助けに行かない。


 アタシ勝ったんですけど!?

 勝ちましたよねぇ!?

 ここでーす!

 勇者の顔にアツアツのハンペンを貼り付けて負けを認めさせたモウ・レッツはここにいまーす!


 俺は泣いた。

 そして哭いた。

 慟哭、そして…


 なまじっか勇者になんか勝っちゃったもんだから、もう誰も俺と決闘はしてくれないだろう。

 いや、そうだよ、勝ったんだよ。

 勝ったのにFクラス残留はおかしいよなぁ!?


「助けてください!」


 俺は掲示板前で愛を叫んだ。



   ◯



「大変だったみたいだね。そういう時はホラ、この水を飲むといいよ。水素を多く含んでいるんだ」


 俺はマルチ・カンユーくんを殴った。

 彼は、なんていうか、こう、カンに障る。


 ただでさえ決闘の件で悪目立ちしたところに、Fクラス到着早々マルチくんを殴った俺をクラスメイトは怯えた目で見つめてきた。

 やめろ!

 俺をそんな目で見るな!


「あらぁ……、これは……何かあったのかぁい……?」


 そこへ、ヘルケン先生が教室に入ってきた。

 先生を見て思い出した。


 そうだよ、この学校は腐敗しているんだ。

 今回のことだって、きっと上層部のなんか陰謀というか、たぶんそういうアレがあったに違いない!

 そういう意味では俺も、そしてマルチ・カンユーくんも学校の被害者だ!


「先生! ブッ潰しましょうよ! こんな学校なんてさぁ!」


 俺は泣きながら先生に訴えた。

 この気持ちをわかってくれるのは先生だけだ。


「いい心意気だねぇ……。でも……、具体的にどうするんだぁい……?」


 そう言われて、確かに、学校ブッ潰すってどうすればいいんだろう。


「校長を泣くまで殴るとか?」


「この学校は腐ってるけど……、校長は無関係だよぉ……。なんなら味方と捉えてもいいくらいさぁ……」


 聞けばホームレス校長はマトモなので、逆にそういう腐敗を正したい立場らしい。

 質問に質問で返すウンコ野郎なのに。

 ただ、権力を振りかざすだけでは悪を根絶やしにはできない。

 相手もさるもので、なかなか尻尾を掴ませないそうだ。


「そう……、本当の敵は教頭さぁ……。ボクをこんなのにしたのも教頭だしねぇ……」


 当時、当然ながらヘルケン先生は教頭の凶行を訴えたが、実行役はそのへんのチンピラだったし、証拠不十分で処分も無かったとか。

 まぁ教員みんな察してはいるものの、それを口に出せば自分がどんな目に合うかもわからないので、結局どうにもならなかったんだって。


「でもねぇ……ボクは諦めてないよぉ……。だからさぁ……、次の休みの日に面白いイベントを考えてるんだけどさぁ……。キミもどうだぁい……?」



   ◯



 それから、数日を経て休みの日。


 ヘルケン先生から”面白いイベント”に誘われて、まだ夜も明けきらぬうちに校門前へ集合した。

 ちなみに詳細は何も聞いていない。

 とにかく当日を楽しみにしておいて、と言われた。

 そんなにもったいぶられると、否が応でも期待しちゃうな!


 あとルナとアルフも一緒にいる。

 先生が「せっかくなら、あの二人も」ってんで、わざわざAクラスまで声を掛けにいったのだ。


 ルナははじめ、休みの日に丸一日トレーニングジムに籠もるという予定を立てていたらしく渋ったが、実戦したいでしょ? って聞いたら飛び付いてきた。

 今日に実戦があるかは知らんけど。

 でもまぁ、あるだろ、たぶん。

 知らんけど。


 アルフはAクラスのブスとデートを取り付けていたので断固拒否だった。

 なのでやむなくヘルケン先生に相談し、入学試験でアルフを担当した試験官ブスの連絡先を入手して取引した。

 もちろん試験官ブスさんの了承も得ている。

 独身で、すでに行き遅れと言われる年齢に達しているため、試験のときに口説かれて内心はドキドキしていたそうだ。

 でも試験だからマジメに、っていう実直な人だった。

 そういう反応も含め、脈はあるぞっていう情報も伝えて、ようやくアルフは取引に応じたのである。


「やぁ、キミたちか。おはよう!」


 校門前に3人で待っていると、さわやかな声が聞こえた。

 見れば、さわやか勇者先輩がさわやかな笑顔でさわやかしていた。


「今日は元々、ボクとヘルケン先生の二人だけの予定だったんだけどね。キミたちもいるなら心強いよ」


「僕ら今日なにするか聞いてないんですけど」


「おや、そうなのかい? なら、ヘルケン先生に説明してもらうのがいいかな」


 よく見れば、さわやか先輩の隣にヘルケン先生がいた。

 さわやか先輩がさわやかすぎて、その対極である先生の姿が見えていなかった。

 まだ夜といって差し支えない時間なので、かなりホラーな絵面だ。


「いいねぇ……。やっぱりキミたちは……、学生と呼ぶにはだいぶ仕上ってるよぉ……」


 さわやか勇者先輩、ルナ、アルフと順番に見て呟くヘルケン先生。


「キミは……、今でもよくわかんないけどねぇ……」


 うるせぇ。



   ◯



 目的地までの道すがら、先生から今日の”面白いイベント”の概要を聞くこととなった。


「ちかごろ噂になっているだろう……? テーマパークで魔法実験のために子供を誘拐してるってさぁ……」


 それを聞いて俺たち3人はビクッとなった。

 今日のイベントの概要を聞くにあたっての、最初の言葉がコレなのだ。

 つまり、その関係のことが今日のイベントに関わってくるということだろう。

 でも……それって僕たちが流した根も葉もない噂なんですよ……。


「それが噂じゃなくてさぁ……、実際に……教頭派の教員が関わっているんだよねぇ……」


 は?

 え、いや、マジなの?

 ヘルケン先生の顔を見ると、マジの顔をしていた。


「正直……、噂になるまでは気付きもしなかったけどねぇ……。調べてみたらさぁ……、学校の教員が関わってたもんだからさぁ……」


 でっち上げの噂を流したらマジだった挙句、それキッカケでヘルケン先生の知るところとなったらしい。

 その後も話を聞いていくと、その関わっている教員っていうのが、入学式で各クラスの担任を紹介していたモノクル太郎だそうだ。

 ああいうタイプは禁忌の魔法とかを研究してそうとか思ったけど、そこもマジだったのか。

 自分が恐ろしい。


 そんで今日がどういうイベントかって言えば、その現場を急襲するっていうイベントですって。

 モノクル太郎先生の行動パターンで言うと、今日が怪しいそうだ。

 休みの日でテーマパークも子供が増えるし。


 いや、おかしくない?

 当日までナイショだよ? ってする内容じゃなくない?


「いやぁ……、ビックリするかなってさぁ……」


 エヘヘェ、って先生がはにかみながら言った。

 この先生はダメだ、たぶん脳ミソが溶けてきている。

 改めてさわやか勇者先輩を見れば、ガチガチに戦う恰好をしていた。

 それにひきかえ、俺はメチャ普段着である。

 ルナには戦闘があるって言って来させたから戦う服装で来てるが、俺とアルフはメチャ普段着だ。

 丸腰も丸腰だ。


「戦い方は前に見せてもらったからねぇ……。ちゃんと武器は持ってきてるよぉ……」


 そう言ってアルフは盾と片手剣を渡された。

 ルナは自前のを持ってたから特に何も渡されなかった。

 俺にも何も渡してくれなかった。

 なんで?


「キミは……、なに渡せばいいかわかんなかったからさぁ……、持ってきてないねぇ……」


 そんなワケなくない?

 え、今から悪いコトしてるヤツらをブチのめしに行くって話だよね?

 でも丸腰で行けと?


「ホラ……、なんていうかさぁ……、キミはよくわかんないからねぇ……」


 うるせぇ。

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