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01


 おでんって最強なんじゃないかって、ある日の暮れ方、唐突に思った。


 ファンタジー世界で"勇者"なんて呼ばれちゃうヤツなんてのは、なんかもう死ぬじゃんレベルのケガを負っても立ち上がって魔王みたいな強敵を討ち果たしてしまうものである。

 バカな! なぜそのキズで動ける!

 俺達は負けない! これが絆の力だ!

 ドギャーン! グシャァ! グハァ!

 俺達の勝利だ!

 みたいな。

 タンスの角に足の小指をぶつけただけで身動きが取れなくなる我々とは違うのだ。


 いや待て、本当にそうか?

 ただ状況がそうさせているだけなんじゃないのか?

 なんかこう、負けたら世界が滅ぶとか、大事な人が死んじゃうとか、そういう状況がそうさせているだけなんじゃないのか。

 そんで脳内のなんか分泌がダバダバでウォォオオオオってなってるだけだと思う。

 そう考えれば、例えば殺人鬼に追われている状況でタンスの角に足の小指をぶつけても俺は走れると思うよたぶん。


 そんでまぁ要するに何が言いたいかっていうと、勇者でもアツアツのおでんはフーフーして食べるだろっていう。


 魔王が全攻撃絶対防御バリア張って「クックック、このバリアを解いて我を倒したくばこのアツアツのおでんを冷まさずに食してみるがよい!」って言ってグッツグツのおでん出してきたら勇者はどうすると思う?

 まず「は?」って言うだろ?

 そんで一旦おでんは置いといて色々な魔法とか剣とかの攻撃を試すんだけど、全攻撃絶対防御バリアは全攻撃絶対防御バリアだから全攻撃を絶対防御するバリアなわけよ。

 余裕の表情で不敵な笑みを浮かべて煮え煮えのおでんを魔王がまた差し出す。

 湯気で若干曇る全攻撃絶対防御バリア。

 そんな状況でも世界のためにとか言ってフーフーせずおでん食べだしたら、それはもう勇者じゃないよ。

 リアクション芸人だよ。


 そう考えればハンパな炎魔法よりも、おでんの方がよっぽど勇者を「熱ッ!」って言わせる自信があるね。


 そんなことを考えながら晩御飯のおでんを煮込んでいた時、近くのグランドから少年野球のホームランボールが飛んできて窓を突き破り、うまいこと壁をバウンドして俺の頭に命中した。

 そうして俺は死んだ。



   ◯



 気が付くと真っ白な空間にいた。


 なんか真っ白なジジィもいた。


 話を聞くとジジィは神様らしい。

 おおよそセオリー通りの展開ではあるが、自分のミスで死なせてしまったから好きな能力を得て異世界に転生させてあげるよって言われた。

 神様の間で野球賭博が流行っていて、肩入れしている少年の打球を伸ばしすぎたらしい。

 神様レベルになると産まれた瞬間から将来プロ野球選手になる人間がわかるらしいので、ペーパーオーナーゲーム的な感じで神様ドラフトが開催され、自身のひいきの球団に入れるために実際のドラフトで神様パワーを発揮させるそうだ。

 件の少年は基本的に筋肉バカらしく、変に思い悩むより自信持ってバット振った方が将来いいスラッガーになるだろうっていうので打球を伸ばしたんだとか。

 そのへんの詳細も神様パワーで見ようと思えば見えるらしいが、それを見ることとプロ野球の試合結果を操作するのは神様間で禁止しているとのこと。

 まぁ野球賭博だからね、リアルパワプロって感じ。


 それから小一時間ほど20年後のスタメンを神様と話し合った。

 なんかマジで神様としての格の上げ下げとかを賭けてるらしい。

 神話とかで最高神の怒りを買って人間界に堕とされたとか、そういう系統の話は実は当時のスポーツ賭博の結果なんだって。

 賭けすぎだろ。


「それで、転生はどうする?」


 話がひと段落したところで神様にそう言われて、自身の置かれている状況を思い出した。

 好きな能力を得て異世界に、かぁ。

 俺だって男の子なんだからね。

 最強の称号を手に入れて女の子とかにチヤホヤされて使い切れないほどの財産を築いて、最終的にひ孫ぐらいとかまで含めて100人ぐらいに囲まれて惜しまれて「いい人生だった」って笑って死にたい。

 そう考えると、どうしても直近の思考が頭を埋め尽くしてしまう。


「おでんを自由自在に操れる能力が欲しいです」



   ◯



 そんなことがあったのも、もう12年も前の話である。


 俺は地方のクソ田舎の小っちゃい領地を持つクソザコ貴族の次男として誕生した。

 そして現在、12歳で入学しなければならない騎士学校を目指して王都へ移動中である。


「横暴だよね。いくら魔王が復活したからって、家督を継ぐ長男以外は騎士学校出て戦働きしてこいってさ」


 野営地点での夜、俺が召喚したおでんを食べながら、アルフが愚痴った。


「しょうがないじゃない、基本的に貴族の方が魔力が多いんだから。それに魔王と戦うなんてワクワクしない?」


 おでんのタマゴの黄身をダシで溶きながら、ルナが応えた。


 この二人は領主である俺の親父殿の家臣の子供であり、幼馴染である。

 全員が今年で12歳のため、共に騎士学校へ入学するため一緒に行動していた。


 アルフレッド・アルバトロス、通称アルフ。

 恐ろしいほどのイケメンであり、かつブス専。

 眉目秀麗、文武両道、温厚篤実。

 幼少期から神童ともてはやされ、スポーツでも領内で右に出るものなし。

 えげつないレベルでモテるが、なぜか信じられないほどにブス専。

 ブスの風呂をのぞくために、魔力を粘着質にして手足にまとって壁を登るのが得意。

 普通の魔法も高いレベルで扱えるが、ブスの心を射止めるのに役立つぐらいの価値しか見出していない。


 ルナ・マーブルローズ。

 恐ろしいほどの美少女であり、かつ脳筋。

 いくら美少女でも正直引くレベルで脳筋。

 剣を振ることしか考えておらず、魔法も身体強化しか使えない。

 ただ田舎とは言え領内ですでに一番強い。

 頭脳はからっきしで筋肉しか詰まっていないため、難しいことを言われるとすぐ手が出る。

 あるとき友人二人のケンカを仲裁しようとした際には、まず殴って止め、殴られた二人はアゴが粉砕されてしばらく流動食しか食べられなくなった。


 そして俺がモウ・レッツ。

 恐ろしいほどにフツメンで、かつ配牌見てメンタンピン目指すぐらい普通。

 とくに由緒とか全然ないレッツ領とかいうクソ田舎領主の次男。

 使える魔法は”おでん召喚魔法”のみ。

 魔力だけはやたらある。

 召喚したおでんは基本的に土鍋と出てくるが、より魔力を込めるとカセットコンロと一緒に出せたりする。

 さらに召喚したおでんに魔力を纏わせると、いくらフーフーしても冷めなくなる。

 普通の魔法は使えない。

 身体強化もできないけど、おでんは強化できる。


 以上三名、田舎領地の生んだ麒麟児達が王都を目指して進行中である。

 なんだこのメンツ。


「王都まで、あとどれぐらいかなぁ」


「あと3日ぐらいかな」


 俺の呟きに、アルフが応えた。


「あと3日も三食おでんは嫌だわ」


 心底イヤそうな顔でルナが言った。

 そもそも俺をアテにして食料を減らし、荷物を少なくしようと提案してきたのはコイツである。

 馬車の空いたスペースで筋トレを始めたルナを見たとき、コイツ頭おかしいと思った。

 あと三食おでんの何がイヤなのか理解できない。

 これだから脳筋は。


 アルフはアルフで、道行く旅人からブスを見つけるたびにテンション上げていて気持ち悪かった。

 マジでコイツ頭おかしいと思った。


 そんな旅路に疲れ果てた自分を癒すため、道中で見つけた珍しい食材をおでんの具材にして楽しんでいたら「モウって、頭おかしいよね」って言われた。


 心外である。

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