07 ゴーストのユウさん
これは、貯金ゼロの独身アラフィフおじさんが異世界ファミレスで働くお話。
私は丑三つ時に目が覚めて、皆さんの朝ごはんの準備をはじめます。
私の名前はユウ。ゴースト種です。ここの店舗と上のお家、そして土地の所有者で、つまり大家さんです。
基本的には家事やお店のお手伝いとかをして、余生──いや死んでるんですけど、そういう長い長い時間を暇つぶししてます。
皆さんはだいたい毎朝7時頃に起床するので、それまでにひと通りやっておきます。
フェリシアの2階と3階は共同宿舎になっていて、2階にはリビング、ダイニング等の共有スペース。3階が各々の部屋となっているのです。普段私はリビングのソファで寝てます。
ここら一体はその昔、大魔界決戦の激戦区となったところなので、私はその時代からの幽霊です。同期、その時期に一緒に死んだ子達はもうとっくに成仏しました。5世紀も前の話ですから。
でも私には夢があって、どうしても成仏できなかったんです。
──それは、結婚すること。
私、もう500年近く死んでますが、その間ずっとパートナーがいないんです。
まあ、そもそも視える種族と視えない種族がいますし、触れる種族と触れない種族もいますから、難しい話ではあります。
でも、心は17歳で死んだあの時のまま。私はずっと誰かを待ち続けているんです。
という話を昔オーナーにしたところ、ここにフェリシアを作るという提案をしてくれました。たくさんの人が集まる場所を作れば、きっと私に見合う人が見つかるでしょって。
この土地はうちが代々大切にしてきた土地だったのですが、オーナーの優しさに打たれ、貸すことにしました。社会不適合者ですが、優しい人なのです。
けれど中々運命の人は現れず……。そろそろ潮時かしらと最近は思っています。
「あ、ユウさん。おはようございます」
びくんと私の身体が跳ねた。幽体だから身体とかないけど!
振り向くとそこに、最近入ってきたおじさんがいた。そういえば、この人視えるんだった……。心臓に悪いよう!
「お、おは、おはよう!」
言うとおじさんは慈母の如き優しい笑顔で配膳を手伝ってくれた。
はれ……。なにこれぇ……。
無いはずの心臓が、バクバクドクドク言ってる。なにこれぇぇ。
「あ、あの。変なこと言ってもいいですか?」
新聞を広げようとしたおじさんに声をかける。おじさんはふと止まって、いいですよととても優しい、低いバリトンの声で肯定してくれた。
私はそっと手を差し出す。
おじさんは少し迷いながら、私の手に触れる。
私は熱が伝導して、ぴゃっとなって離してしまう。
「!?!?!?」
「……ああ、すみません。こんなおっさんが……セクハラでしたよね……」
「ち、違うんです!!」
なんて言ったらいい?
人に触れてもらったのなんてもう覚えてないくらい遠い昔だ。
嬉しい。嬉しい、嬉しいな。
ありのままを、伝えよう。
「私、幽霊ですから、人に触れられたの、数百年ぶりなんです。その、ずっと寒くて、冷たい世界に居たから、……温かくて」
するとおじさんは優しく、困ったように笑った。
「セクハラじゃなくて良かったです」
私はブンブン頭を振る。おじさんは私をまっすぐ見て、続けてくれる。
「その、もしも物に触れないことで困ったことがあれば、なんでも言ってくださいね。俺、おっさんだけど、できることがあればなんでもしますから」
今なんでもって……????
私はブンブン頭を振って邪念を払う。
「はい! 是非もっと触ってください」
言うと困ったように笑って、私の淹れたコーヒーを美味しいと言って飲んでくれた。
このポカポカをぎゅっと抱きしめて、私は昇天しないように気をつけようと思った。
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