05 佐藤さんの事情
これは、貯金ゼロの独身アラフィフおじさんが異世界ファミレスで働くお話。
おじさん、お昼休憩中。
「え? ナコさんって未成年だったんですか?」
そう言うとヴァンパイアの佐藤店長はこくりと頷いた。コーヒーゼリーを食べながら。ちなみに店長はコーヒーゼリーが好き。
「見た目の通りだよ。アホなとことか」
見た目にアホが滲んでると思われてるナコ。しかしおじさんからするとナコは頼れる先輩だし、何より命の恩人であった。
「確かにお皿を舐めるのは二度手間になるのでやめて欲しいですが、基本的には素晴らしい先輩ですよ」
げぇみたいな顔をする佐藤。
「アレのことそんなふうに言うのオーナーとおじさんくらいだよな」
「あ、そういえばオーナーさんにまだご挨拶出来てないですけど、いつもどこにいらっしゃるんですか?」
「あー、挨拶ねぇ。大丈夫大丈夫。あの人社会不適合者だから、そういう堅苦しいの嫌いなんだ」
オーナーがメタメタに言われてる店。
そもそもの佐藤の性格だが基本的に口が悪くドSである。でもおじさんはそれを追求したら何となく怒られそうな気がして口を閉ざした。
「ですが、今回拾っていただいた恩もありますし……」
「あれ、おっさんじゃん。まかない出来てるけど食う?」
「あ、料理長さん。おはようございます」
休憩室に来たサラマンダーのサラはコキコキと首を鳴らしている。おじさんは首を鳴らして新入社員をビビらせた件で呼び出され怒られた過去を思い出し落ち込む。
「あれ、なんでそんな落ち込んでんの」
「いえ……思い出し落ち込みです……」
あはははと笑いながら背中をバシバシ叩かれる。サラは「ネガティブだねぇ」と笑い飛ばしてくれるのでいっそ清々しい。
「なあサラ。おじさんにあんまちょっかいかけんなよ。この人オーナーと違ってちゃんとした人なんだから」
「あー? いーだろ別に。普通にもう仲間なんだから。後輩だし」
「いや、人生の先輩だろうが」
「チッ。いっつもいっつもぐちぐちぐちぐち……」
「(気まずい……)」
店長と料理長はいつも一緒にいるとこんな感じである。まさに水と油。犬と猿。口喧嘩ならまだいいが、火炎放射とヴァンパイアパンチが出るのでは無いかとおじさんはヒヤヒヤしている。
「あ、あの、僕はなんでも大丈夫ですから……」
「こいつを甘やかすとつけ上がるからダメだよおじさん」
「いや、あんただってタメ口じゃん!」
睨み合うふたり。胃がキリキリしてきたおじさん。
「(ふたりは同級生だとふんわりナコさんから聞いたことはあるけれど、ここまで仲が悪いと心配になるなぁ)」
するとサラが呟く。
「……もういいよ。アレで決める」
──アレ……? アレって何?
「だな。俺らの喧嘩はアレでしか収まらない──」
ふたりは異様な雰囲気を醸し出し、拳を構える。おじさんは心の中で叫ぶ。やめて〜!
「恨みっこなしだぞ。かけるのはいつものメシ代」
「吠え面かかせてやるよ」
──ん、メシ代?
「ぽん!」
「ぽん!」
「ぽん???」
「はい勝ったー! 今日の飲みあんたの奢りね」
「ああ、ド畜生め! ちくしょうめぇえええ!!」
ジャンケン……。なんて平和なんだ。王直騎士領であの雰囲気なら確実に決闘だった……。と思いおじさんはほっとした。
まかない皿に盛って昼飯持ってくると勝ち誇ったサラはルンルンと廊下を歩いてゆく。佐藤さんはまだ落ち込んでいる。
そこに交代でやってくるナコ。こっちはサボりである。
「あ、またジャンケンに負けたポーズしてる」
「よくあることなんですか?」
「サラさんとてんちょーって喧嘩ばっかするから、オーナーが血の掟を結ばせたんだよ。ほら、悪魔のお店に行ってやる本物のやつ」
──破ったら死ぬと噂の!?
「勝ち負けを決める時は絶対ジャンケンっていうルールでね。負けるとてんちょー、灰になったボクサーみたいになんの」
複雑である。
「ごめんおじさん……騒がせた……」
「ああ、いえいえ。タメ口とかはなんでもいいんです。皆さん先輩ですし、そっちの方が僕としても心地よいです」
「人格者だなぁ……」
しおれながらしょぼしょぼと鼻をすする佐藤店長。おじさんはなんとなくわかった。サラさんに弱いんだなぁ、と。
「どうしたら、グスン、付き合えるかなぁ……」
あぁ、やっぱり……。
ナコがよしよしと頭を撫でて慰める。そしてその様子を動画に撮ってる。あとで脅しに使うつもりだ。
「てんちょーって勝気なのにヘタレなの」
「ヘタレって言うなぁ……」
そんな店長を見ながらおじさんは、若いっていいなと心がぽかぽかした。あとまかないを食べた。美味しいまかない。
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