04 料理長のサラさん
これは、貯金ゼロの独身アラフィフおじさんが異世界ファミレスで働くお話。
「いらっしゃいませ、フェリシアへようこそ」
最近ホールに入ったおじさんがめちゃくちゃシブい声で接客してやがる。お姉様なお客も増えた気がする……。あのおじさんの効果か……。
あたしはサラ。火焔龍の血族、サラマンダー。角としっぽがあるぞ。火も吹ける。ガス代が浮くぞ。
で、厨房では料理長をやってる。他にも厨房メンバーはいるが、どいつもこいつも変なやつなので、消去法であたしがリーダーになった。
「おい、ナコ」
「どしたの? サラちゃん」
「あのサービスのおっさん。ナニモンだ?」
「ああ、おじさん? おじさんはおじさんだよ!」
アホ猫よ、あたしはお前が好きだけど、そのアホさはどうにかしてくれないか。
「いや、おっさんなのは知ってるが、ほら名前とか」
「え? 知らないけど」
えぇ……。あのおっさん、ナコが連れてきたんじゃないっけ?? 佐藤がそう言ってたから──いや佐藤もおじさんとしか言ってなかったな。
ま、名前なんて名札見りゃわかるか。素性はしれないけどな。
正直なことを言うと、あたしはこの店が結構ちゃんと好きだ。店のヤツらがいくらお人好しとはいえ、経歴もよくわかんねぇ、名前も知られてないようなやつは仲間として認められねぇ。
「おい、おっさん。これ3番テーブル」
「あ、料理長おはようございます。わかりました」
すたたー。
あれ? あいつ、名札してないな……。
「なあ、ナコ」
「んー?」
「おっさん、なんで名札してないの?」
「あんなにおじさんなの、この店でおじさんしか居ないから、名札はいいやっててんちょーが言ってたよ」
おい、佐藤。お前ナコには厳しいくせに自分には変なとこで甘いよな……。
そう思っていたところ、さっき3番テーブルにチャーハンを持っていったおっさんが戻ってきた。なんだ?
「なんだ、冷めちまうだろ」
「いえ、あの、これネギ抜きってオーダーでしたから」
「好き嫌いだろ? 抜いてあるぞ」
「おかしいな……ネギの香りが──あ、もしかしてこの米ってオニオラ産ですか?」
あたしはゾッとした。そのチャーハンに使われている米はまさにオニオラ地方産の米だった。オニオラの特産品は米とネギ。その米には時期によって稀に、確かにネギの風味がつくことがあるという特性があった。
──しまった。
「そうだったオニオラの米は……。あたしとしたことが──。お前、ほんとに匂いで気づいたのか?」
「その、以前オニオラには営業でよく行ってまして、よく公爵にお歳暮でオニオラ米を頂いていたんです」
公爵から米貰う関係って何……???
しかもオニオラ米なんて一級目利きのオーナーがやっとのことで見つけた穴場の珍米だぞ……。それをこのおっさん一撃で看破しやがった。
「あの、料理長……?」
「いや、すまん。直ぐに別の米をとってくる。お客様のフォローを頼んでもいいか」
「ええ、お任せください!」
すたたと歩いていくおっさん。動作は紛れも無くおっさんだが、頭のキレが段違いだ──。あいつの経歴気になるな……あとで見せてもらおっと。
「ね、おじさん、すごいおじさんでしょ」
「……そだな。それに、客のことを一番に考えられるやつに、悪いやつはいねぇよ」
ナコはるるると喉を鳴らして喜んだ。
あたしはこの店が好きだ。
だから、良い奴が入ってくるのは嬉しい。あとでまかないでも作ってやるか。
「よし、午後もバリバリ働くぞ!」
「にゃー!」
そこに現れるおっさん。
「あの、ナコさん」
「ん?」
「先月割ったお皿のことで店長が……」
「にゃー……」
あたしは思った。この店好きだけど、変なやつしか居ねぇなと。
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