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Felicia Felicia!!  作者: Ztarou
3/10

03 飛ばない天使

これは、貯金ゼロの独身アラフィフおじさんが異世界ファミレスで働くお話。

「お疲れさん~!」


 ブチ切れヴァンパイアこと佐藤店長は閉店作業を終えると洗い場の方まで来ておじさんの肩をポンと叩いた。


 おじさんは涙がぽろぽろとこぼす。


「えっ、ちょ、おじさんなんで泣いてんの!?」

「泣いてな……ぅうううあああああああああ」

「泣いてしかないけど!?」

「いや、ずびばぜん……。この世には『お疲れ様』という言葉があったんだなって──」

「どんなブラック企業だったんだよ……」


 するとこちらも閉店作業を終えたのか、猫獣人のナコが布巾を持って洗い場にやってきた。


「おつかりでーす! あれ!? おじさんなんで泣いてるの!?」

「泣いてな……ぅうううあああああああああ」

「あ、それがトリガーなんだ……」


 ナコには鬼畜な一面を見せる佐藤店長はおじさんの肩をぽんぽんしてくれる。


「はぁ、すみません取り乱して。でももう大丈夫です。お世話になりました。ちょっとしか恩返しできなかったけど、ガパオライス最高に美味しかったことは生涯忘れません。あ、というかもう死ぬんですけどねアハハハ」


 場が凍る。おじさんは、身を切ったこのジョークがウケると思ったらしい。


「しっかし、うちに余裕さえありゃ雇ってやれるんだけどな。住み込みもやってるし……」

「えっ! それがいいよ! てんちょーそーしよーよ!」

「んー、でもなぁ、新人も入れたばっかだし、オーナーに訊いてみるか?」


 おじさんは驚いた。捨てる神あればなんとやらとはよく言うが、まさかご飯まで食べさせてもらって、そんな有難いことまで考えてもらえるなんて、と。


 ──僕はなんて幸せ者なんだ。


 静かに決意し、おじさんはエプロンを脱いだ。


「……いいんです。僕はもう充分生きたし、最期にこんな幸せ受け取って、胸がいっぱいになっちゃいました」


 するとナコが、おじさんの手をそっと取る。


「──駄目だよ、死ぬなんて」


 少女の真っ直ぐな瞳が、心の奥底を見つめているようで、おじさんは不思議な感覚がした。彼がまだ小さい時に死んだ母親みたいな、そんな温かみのある微笑みで。


「ナコね、あんなに美味しそうにご飯食べる人初めて見たよ。そんな綺麗な心持ってる人が、不幸せでいいわけないもん」


 ふっと佐藤も笑う。


「死ぬとかは駄目だ。ガリガリなんだしもっと食え。てかうちの店はガパオライスよりもっとうめぇもんあるんだからな!」


 加勢する佐藤店長。ヴァンパイアは冷血なんて嘘だ。あたたかくて、心が熔けそうだ。おじさんはまた泣きそうになる。


 ナコが布巾でおじさんの涙を拭いてくれる。多分思いっきり閉店作業で使った後の布巾だけど、めっちゃ汚れてるけど。それでもおじさんはその優しさが嬉しかった。


 ──なんか、頑張れそうだ。


「僕、なんだかもう少し生きようかなって思いました」


 ぽつりと本心がこぼれると、ふたりはニカっと笑う。


「なんだ、ちゃんと生きてんじゃん!」

「うひひ! いー顔だね! おじさん!」


 ──エリート輸送ギルドからリストラがなんだ。45歳がなんだ。貯金がなくても独身でも関係ない。僕はもっかい最初からやるぞ! 決めた、僕は──生きる!


「あれ? そういえば昨日入ったインキュバスは? まだ閉め作業やってんの?」

「あ、そーだ、なんか手紙預かってるよ!」


 ナコは裏の事務所に置かれている手紙を取りに行く。しばらくして戻ってくるとそれを佐藤店長に渡す。


 佐藤店長の顔が段々と渋くなる。


「『ホストでアホほど稼いでた時代がやっぱ忘れられないのでやめます。諸々の引継ぎは幸薄そうなおじさんにちゃんとしておきました(ピース)』って……」

「草」

「ああ、だからあの人色々教えてくれたんですね」


 ヴァンパイア佐藤は崩れた。「人材育成コスト……」と呟きながら泣きそうな顔をしている。


 そこで、ナコがピコンと折れた耳を立て、何か思いついたような顔をした。


「ねね、その穴埋めるの、おじさんにやってもらったら?」


 うなだれる佐藤店長は顔を上げた。


「引継ぎって……どの程度受けたの?」

「あ、はい。開店作業から締めまではひととおり。あとまかないの作り方とか……パフェも一通り──」

「雇った!!!!!!!!」


 佐藤店長が叫んでナコがびくっとした。おじさんは今の言葉が聞き間違えでないのか聞き返す。


「あの、えっと、僕、おっさんですよ? 雇って、もらえるんですか? 正直あのインキュバスのお兄さんほど若々しくないし……老化も始まってるし……」

「いい! すぐ飛ぶ若者より、絶対飛ばないおっさん!」


 おじさんはちょっと同意した。


 こうして、45歳無職のおじさんは、45歳フリーターのおじさんへとジョブチェンジした。おじさんはファミレス「フェリシア」に最高の恩返しができるように、働く決意を固めた!

お読みいただきありがとうございます!!!


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毎日投稿もしていますので、是非ブックマークを!


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