01 猫獣人ナコさん
これは、貯金ゼロの独身アラフィフおじさんが異世界ファミレスで働くお話。
45歳、バツイチ独身。エリート輸送ギルドに就職して25年が経ったが、つい先日、リストラの憂き目に遭う。
やけ酒を飲んでぐでぐでの所を怖いお兄さんに見つかり、壺を買わされる。貯金はゼロ。今は、死のうと思っている。
主人公、おじさん。
「おじさん、ねえ、おじさんってば!」
──そうか、僕もおじさんと呼ばれる歳になったか。死のう。
おじさんはひたすらにネガティブであった。
「そこの幸薄そうなおじさんってば!」
幸が薄いのは事実だが、そんな風に言われると傷つくおじさん。
何度も声をかけられたので振り向くと、そこには若い女の獣人がいた。猫系だ。スコティッシュフォールドっぽい。可愛い系。
「おじさんだいじょうぶ? なんか嫌なことあった?」
「……まあ、嫌なことしかないかな、はは」
笑い事じゃないのである。
「じゃあさ、ご飯食べてかない? うちの料理って、まじで元気出るんだよ!」
──なんだ? 今度は悪い女の子からのお誘いか?
おじさんは人を信じる心を失っていた。
「いや……。あいにくだけど貯金も手持ちも無いんだ。ごめんよ。若い子もこの不景気じゃ厳しいんだろう?」
「ちーがーうって! お金とかいーから。こっち!」
引っ張られぎゅむっと当たる何か。若い頃なら飛んで喜んだが、彼女はおじさんにとって娘ほどの年齢だ。どうということはない、という事実にすら落ち込む。
おじさんはふと思う。どうせ人生の最期だ。食い逃げでもしてやろうと思い、とぼとぼ彼女についていくことにした。
***
──美味い!? 美味すぎる!!!
「へへっ。美味しいっしょ~」
猫獣人のナコと名乗った少女は軽やかに笑った。
おじさんが連れてこられたのはファミリーレストラン「フェリシア」。
家族連れやダンジョン帰りの冒険者、学校終わりの学生も多く、人間含めた多数の異種族で賑わう店だった。
──しっかし……美味いな。
「これ、なんて料理なんですか?」
「んとね『ガパオライス』だったかな」
「こんなの食べたことない……」
「ここらじゃ、うちでしか出してないからねー」
おじさんは息をするのも忘れて食にのめりこんだ。頬に米粒が付こうが気にしない。
──食うと思い出す。思い出しちまう。新人でまだ若い時も、こうやって飯をかっ込んだよな。
「げっ! なんでおじさん泣いてんの?」
「泣いてな……ぅうううあああああああああ」
おじさんが机に突っ伏し泣きじゃくるとナコが背を撫でてくれる。
「まぁまぁ、元気出しなよ。これからもここに来ればもっといろんな料理食べられるからさ!」
「……でも僕は死のうと思ってたんだ。食い逃げしようとか考えてたし……最低だ。僕に未来なんて──」
かくかくしかじか状況を伝えるおじさん。
「リストラ……。え、じゃあマジのマジでお金ないの?」
「ないです……」
「あわ、あわわわわわわわわ……」
唐突に震えだすナコ。おじさんが何事だろうと思った矢先、ガシッと、ナコさんのさらさら茶髪を鷲掴みにする青年。
「おい、猫。またなんか拾ってきてタダ飯食わせたんかワレ」
「しゅみましぇん」
「今月何度目だ?」
「……7回目れす」
すっごい見た目さわやかな好青年なのにバチ切れている。
「はぁ。おじさん、お金は?」
「えっとあの、ないです」
にっこり笑った青年は、満面の笑みでナコのうなじをひっつかむ。
「給料からァ……轢くけぇのぅ……」
引くの字が物騒である。泣いているナコ。おじさんは肩身狭く、なんか申し訳ないなと思っていた。
──僕は、死ぬところを救われたのに。
そしておじさんは決意した。
「あの、美味しいご飯の代金に値するかはわかりませんが、何かお店のお手伝いをさせていただけませんか? なんでもやります」
すると青年は「おや」と驚いた顔をする。ふむと考えた青年はこくりと頷いた。
「今、何でもって言ったね?」
こうしてアラフィフおじさんは、異世界ファミレス「フェリシア」の世界に、一歩を踏み入れたのだった。
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