ありえない話
私達の出逢いは...
あれは高校二年の始業式の次の日でした。
私は寝坊して、嘘みたいなんですけど、トースト咥えて走ってたんです。通学路を。
―笑わないでください。
ホントなんですよ?
でね、転校生だった彼とぶつかったんです。
口から飛ぶトースト、ぶつかった拍子に着いた尻もちの痛み、彼の唖然とした顔。
教室に入って来た時は「ああっ?」ってなりましたよ?
己、私の朝食を奪ったヤツ!
...えっ、そこじゃない?
まぁ、確かにそうなんですけど、あの頃って<色気より食い気>でしょ?
それで、暫くは牽制のしあいですよね。
睨み合い。
それが段々、ね...。
<単純接触効果>かもしれないけど、気になってきちゃって。
転校生ってミステリアスだし、彼はこのとおり、美人だし...。
女性は照れたようにうふふ、と笑う。
一方、男性の方は...
まぁ、出逢いは、ホント、そんな感じです。
僕もね、まさか、緊張して歩いてる角から、トースト咥えた女の子が来るなんて、思ってませんでしたから...。
で、なーんか視線感じる。ジト目で彼女がこちらを見てる。
正直、どうしたらいいのか、わからなくて。
だから、まぁ、不本意ながら睨み合い、みたいな形に...。
アイスティーを飲んでから、女性が話し出す。
だから、あの事件の時は「なんじゃこりゃー」って内心叫びましたね、えぇ。だって誰も、異性と二人きりで体育用具室に閉じ込められる、なんて、漫画みたいな事に巻き込まれるなんて思わないでしょ?
しかも、仲良くもない、喋った事もない奴と。
でも、無言でいるのは気詰まりだったんで、「しゃーない」って、あの『トースト激突事件』―あっ、はい、そう呼んでるんです。
何となく、フィーリング?で。
同じように、アイスティーを飲み、男性が話し出す。
あの時は参りました。
薄暗い用具室、空気はこもってかび臭い気すらする。
おまけに女子と二人きり。
鍵を掛けた間抜けを恨みましたよ...。―えっ?いや、いまは許してますよ。むしろ感謝してます。
彼女から話しかけてきてくれたんで、色々話しましたね。
あの日、ぶつかって、びっくりした事。視線を感じていた事。閉じ込めた奴への罵詈雑言...なんかで、気付いたら盛り上がってて。
夕方に見回りの先生が開けてくれた時は、嬉しかったけど、名残惜しい気持ちが、少し、あったんです。
告白は僕からしました。
学校の帰り道に待ってたんです。―あの曲がり角で。
僕が勇気を振り絞ったのに、彼女は「はぇっ?」って、なんか変な声出したんですよ。
なんですか?「はぇっ?」って。
男性が思い出し笑いに流れてきた涙を指で拭う。
女性がその背中をバシンとはたいた。
恥ずかしいなぁ...もう...。
まぁ、概ねそんな感じなんですが...「はぇっ?」の意味?...訊きます?
まず「はっ?」です。「えぇっ!」です。「なんですって?」です。この三つが合体した結果です。―ほらー、笑うじゃないですかー。
付き合いはじめてからも色々あったなぁ...。でもまぁ、私としては、全部良い思い出です。はい。
女性は頬を赤くし、でも幸せそうに言った。
確かに付き合いはじめてからも、色々...。でも振り返ってみると、とても楽しかったし、無駄なんてひとつもありません。
男性は照れる様子はなく、言い切った。
だから、結婚を決めたんです。
それから、挙式の日取り、ウェディングドレスをどうするか、チャペルの見学、料理の試食、などをし、二人は帰っていった。
帰りは指輪を―結婚指輪だ―見に行くそうだ。
ウェディングプランナーは、良い式にするぞ。と。
心の中で自分にはっぱをかけた。
再現ドラマを作るのに、キャストさん、手配しなきゃ...。
帰り道。婚約中の二人は、宝飾店に寄っていた。カタログを見せて貰ったり、試しに指輪をはめてみたり...充実した時間を過ごした。
車に乗り込む。
「夕飯、どうする?どっか寄ってく?」
「うーん、そうだなぁ...」彼女は考える素振り。
「あの、さ」
実は言ってなかった事があるんだ、と彼女は言い出した。
次の言葉に、彼は目を丸くした。
数ヶ月後の、大安吉日。
二人の結婚式が厳かに執り行われた。
披露宴では、再現ドラマに会場は湧き、
友人達からの挨拶など、恙無く進行した。
最後にマイクを握った新郎の挨拶
「えー、今日はお忙しい中、お運びくださり、ありがとうございます。もうお気づきの方もいらっしゃるかもしれませんが、もうすぐ僕達は<三人家族>になります。これからもよろしくお願いします」
会場は拍手に包まれた。
妊娠四ヶ月目だというお腹をさすって、新婦も幸せそうだった。
<ありえない話>で出逢った二人は、こうして、結ばれたのだった。
その後、ウェディングプランナーの元に写真が入った、お礼の手紙が届いた。
素敵な式になった事への礼と、産まれた赤ちゃんの写真。にこにこ顔の家族三人。
プランナーは、今日も、素敵な式を提案すべく、話を聴きにいく。
どんな<ありえない話>だって、二人の歴史だ。
関われる事に誇りを持っている...。




