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ありえない話

作者: 桐原まどか
掲載日:2023/06/19



私達の出逢いは...

あれは高校二年の始業式の次の日でした。

私は寝坊して、嘘みたいなんですけど、トースト咥えて走ってたんです。通学路を。

―笑わないでください。

ホントなんですよ?


でね、転校生だった彼とぶつかったんです。

口から飛ぶトースト、ぶつかった拍子に着いた尻もちの痛み、彼の唖然とした顔。

教室に入って来た時は「ああっ?」ってなりましたよ?

己、私の朝食を奪ったヤツ!

...えっ、そこじゃない?

まぁ、確かにそうなんですけど、あの頃って<色気より食い気>でしょ?


それで、暫くは牽制のしあいですよね。

睨み合い。

それが段々、ね...。

<単純接触効果>かもしれないけど、気になってきちゃって。

転校生ってミステリアスだし、彼はこのとおり、美人だし...。


女性は照れたようにうふふ、と笑う。

一方、男性の方は...


まぁ、出逢いは、ホント、そんな感じです。

僕もね、まさか、緊張して歩いてる角から、トースト咥えた女の子が来るなんて、思ってませんでしたから...。

で、なーんか視線感じる。ジト目で彼女がこちらを見てる。

正直、どうしたらいいのか、わからなくて。

だから、まぁ、不本意ながら睨み合い、みたいな形に...。


アイスティーを飲んでから、女性が話し出す。


だから、あの事件の時は「なんじゃこりゃー」って内心叫びましたね、えぇ。だって誰も、異性と二人きりで体育用具室に閉じ込められる、なんて、漫画みたいな事に巻き込まれるなんて思わないでしょ?

しかも、仲良くもない、喋った事もない奴と。


でも、無言でいるのは気詰まりだったんで、「しゃーない」って、あの『トースト激突事件』―あっ、はい、そう呼んでるんです。

何となく、フィーリング?で。


同じように、アイスティーを飲み、男性が話し出す。


あの時は参りました。

薄暗い用具室、空気はこもってかび臭い気すらする。

おまけに女子と二人きり。

鍵を掛けた間抜けを恨みましたよ...。―えっ?いや、いまは許してますよ。むしろ感謝してます。

彼女から話しかけてきてくれたんで、色々話しましたね。

あの日、ぶつかって、びっくりした事。視線を感じていた事。閉じ込めた奴への罵詈雑言...なんかで、気付いたら盛り上がってて。

夕方に見回りの先生が開けてくれた時は、嬉しかったけど、名残惜しい気持ちが、少し、あったんです。


告白は僕からしました。

学校の帰り道に待ってたんです。―あの曲がり角で。

僕が勇気を振り絞ったのに、彼女は「はぇっ?」って、なんか変な声出したんですよ。

なんですか?「はぇっ?」って。

男性が思い出し笑いに流れてきた涙を指で拭う。

女性がその背中をバシンとはたいた。


恥ずかしいなぁ...もう...。

まぁ、概ねそんな感じなんですが...「はぇっ?」の意味?...訊きます?

まず「はっ?」です。「えぇっ!」です。「なんですって?」です。この三つが合体した結果です。―ほらー、笑うじゃないですかー。


付き合いはじめてからも色々あったなぁ...。でもまぁ、私としては、全部良い思い出です。はい。

女性は頬を赤くし、でも幸せそうに言った。


確かに付き合いはじめてからも、色々...。でも振り返ってみると、とても楽しかったし、無駄なんてひとつもありません。

男性は照れる様子はなく、言い切った。

だから、結婚を決めたんです。


それから、挙式の日取り、ウェディングドレスをどうするか、チャペルの見学、料理の試食、などをし、二人は帰っていった。

帰りは指輪を―結婚指輪だ―見に行くそうだ。


ウェディングプランナーは、良い式にするぞ。と。

心の中で自分にはっぱをかけた。

再現ドラマを作るのに、キャストさん、手配しなきゃ...。


帰り道。婚約中の二人は、宝飾店に寄っていた。カタログを見せて貰ったり、試しに指輪をはめてみたり...充実した時間を過ごした。


車に乗り込む。

「夕飯、どうする?どっか寄ってく?」

「うーん、そうだなぁ...」彼女は考える素振り。

「あの、さ」

実は言ってなかった事があるんだ、と彼女は言い出した。

次の言葉に、彼は目を丸くした。


数ヶ月後の、大安吉日。

二人の結婚式が厳かに執り行われた。

披露宴では、再現ドラマに会場は湧き、

友人達からの挨拶など、恙無く進行した。

最後にマイクを握った新郎の挨拶

「えー、今日はお忙しい中、お運びくださり、ありがとうございます。もうお気づきの方もいらっしゃるかもしれませんが、もうすぐ僕達は<三人家族>になります。これからもよろしくお願いします」

会場は拍手に包まれた。


妊娠四ヶ月目だというお腹をさすって、新婦も幸せそうだった。

<ありえない話>で出逢った二人は、こうして、結ばれたのだった。


その後、ウェディングプランナーの元に写真が入った、お礼の手紙が届いた。

素敵な式になった事への礼と、産まれた赤ちゃんの写真。にこにこ顔の家族三人。

プランナーは、今日も、素敵な式を提案すべく、話を聴きにいく。

どんな<ありえない話>だって、二人の歴史だ。

関われる事に誇りを持っている...。



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