ご馳走はうなぎですか?
タイトル落ちシリーズ第5弾です。
いつにも増して蘊蓄まみれでスマソ(・ω・;)
最後、キャラの設定上から右翼的暴言があります。
右翼が嫌いな人は読まないでください。
「暑いなぁ〜。晩飯はスタミナ丼にしようかな?」
「あっ!? 右京先輩、明日は土用の丑の日ッスよ?」
日之下右京が、ふと晩飯のことを考えてつい口に漏らしたら、独り言に須加言葉が反応した。
木場都留学園大学部のRPG研究会において、右京の言葉に須加が反応するのは日常の一コマである。
「今日じゃなくて明日かよ?
……じゃあ、今日は土用の子の日だな」
「何スか、それ?」
「今の七曜になったのは明治時代からで、江戸時代までは六曜と十二支だぞ」
と、右京が返す。
右京を始めとして、RPG研究会の会長の左藤自由、右京の相棒の月見里無雲の3人は、雑学と蘊蓄の塊なのであった。
3人が1年生たちに蘊蓄を垂れるのは平常運転である。
もっとも今日は会長も月見里も居ないので、右京の独壇場であったが。
「十二支は分かるけど、ロクヨーって何スか?」
「大安とか仏滅とか言うだろ? あれが六曜だよ。
昔は、今日は大安の日とか、明日は赤口とか、明後日は先勝とか言ってたんだ。
先勝・友引・先負・仏滅・大安・赤口の6つで六曜だな。
俗説だけど、諸葛孔明が考えたって説もある。『赤壁の戦い』で、孔明が占い師の真似事をして風を吹かせる儀式をしたのは知ってるだろ? 孔明が占いのために六曜を生み出したって説だな。
まぁ、中国の書物で六曜が登場するのは7世紀からだから、3世紀の孔明が考えったってのは学者が否定してるけどな」
「へー、俗説だけど大安吉日って三国志と関係あるんスね」
孔明の名前が出て、須加が素直に感心した。
「ちなみに土用は年に4回ある」
「えっ!? 土用って年に1回だけじゃないんスか?」
「土用は、季節と季節の『境目の季節』のことだ。つまり一年は、春・春の土用・夏・夏の土用・秋・秋の土用・冬・冬の土用……って、季節が分かれてることになる。
これじゃ、四季じゃなくて八季だな。
まぁ、二十四節気とか七十二候とか言うしな」
「……で、なんで土用が4回あるかって言うと、五行思想から来ている」
「ごぎょーしそうッスか?」
「そうだ。古代中国の五行思想だ。火水木金土のことだな。西洋ファンタジーで言うところの四大だ。地水火風の中国版だな。
火は文字通り火のことで、季節は夏を象徴する。
水もそのまま水で、季節は冬。
木は植物のことで、季節は春。
金は金属や鉱物のことで、季節は秋。
そして土は土もしくは大地のことで、季節の変わり目だ。春でも夏でも秋でも冬でもなく、その間ってことだ」
「土用だけ4つでズルくないスか?」
「そうだな。五行において土は特別扱いされてる。
四獣は知ってるだろ? 朱雀・玄武・青竜・白虎ってヤツだ。
朱雀が火で夏と南を象徴する。
玄武が水で冬と北。
青竜が木で春と東」
「えっ!? 青竜って水じゃないんスか?」
と、須加が疑問を口にした。
「青葉って言葉があるだろ? 古代中国では青は緑の一種だと思われてたんだ。例えば、新緑を『青々と生い茂る』なんて表現するしな。だから青は水の色じゃなくて木の色なんだろうな。
で、白虎が金で秋と西。
春夏秋冬と東西南北が取られた土は、特別扱いで『季節の間』と『中央』になる。四獣で言うと黄竜、または麒麟だ。
ちなみに黄竜は『黄色の竜』ではなく『黄金の竜』で、皇帝の象徴だ。
麒麟は、動物園のキリンじゃなくて、ビールでお馴染みの方な。聖人の象徴とされる聖獣だ。俺と無雲は混同を避けるために、動物のキリンを英語で『ジラフ』、聖獣の麒麟を中国語で『チーリン』と呼んだりするな」
「……で、いわゆる土用の丑の日は、夏の土用、すなわち夏と秋の間、立秋の前の18日間のことだ」
「18日スか?」
「年によって、土用の丑の日が2回あったりするだろ?
土用は18日あって、十二支は12個だから、その年によって組み合わせで土用の丑の日が1日だったり2日だったりするんだよ。
18日あるから十二支だと1周半だからな。十二支の半分が2回ずつで、残り半分が1回ずつだ」
「……ということで、昔は子・丑・寅・卯が曜日の代わりとして使われてたってことだ。
明日が丑の日なら、今日は子の日で、明後日は寅の日だな」
「だから『今日は土用の子の日』って言ったんスね」
「そーゆーこと。
じゃあ、ついでに蒲焼についても話すとするか」
須加はテレビゲームから入ったクチだがRPGが好きである。だからファンタジーの雑学や豆知識は好きな方だ。
しかし土用から六曜、五行に四獣と、右京が蘊蓄に蘊蓄を重ねて説明するため、須加の理解力は限界ギリギリである。
が、蒲焼の話なら、と右京に耳を向けた。
「江戸地口って分かるか?」
「いえ、ぜんぜん分からないッス」
「地口ってのは地元の口語、つまり話し言葉のことで、早い話が方言みたいなものだ。
江戸っ子は掛け言葉が好きだったから、江戸地口は江戸っ子の地元ジョークのことを指したりする。
例えば、『恐れ入谷の鬼子母神』って言葉が有名だが、『恐れ入る』と『入谷』を掛けたジョークだな。入谷のお寺に鬼子母神が祀られてるってのは、地元の江戸っ子じゃないと分からないから、地口のネタにされたんだ。話が通じれば都会っ子、通じない奴は田舎者ってな。
他には、恵比寿の大黒とかけて『恵比寿で大根を食う』とかだな」
「……あとは、江戸っ子じゃなくても分かるけど、『舌切り雀』で『着たきり娘』とか、『有難うなら芋虫二十歳』とかな。
とにかく江戸っ子はダジャレが好きだったということだ」
「……で、江戸時代はファーストフード店もファミレスもコンビニも存在しないから、飯を食うにも選択肢が少ない。
何を食べるか迷った江戸っ子は、いつの間にかダジャレで食べる物を決めるのが流行ったという。
例えば、
『今日は子の日だから『ね』の付くものでも食うか』
『おっ!? 粋だね! じゃあ葱たっぷりの蕎麦でも食うとするかな』
『なら、俺は葱マでも摘むとするか』
『俺はチクワで一杯やるとするわ』
って感じだな」
「……同じように丑の日も、うどん・梅干し・卯の花・瓜・潮汁なんかの『う』の付く物を食べた。
ただし、鰻は食べなかった」
「えっ!? 土用の丑の日に鰻を食べなかったんスか?」
丑の日に鰻を食べなかったと聞いて、須加が驚きの声を上げた。
「正確には『真夏には鰻を食べなかった』だな。
『てやんでぇ! この暑いのに鰻なんて脂っこい物を食ってられるか! べらぼうめ!』って感じで、真夏は鰻を食べなかったらしい。
鰻は、初夏に海から川を登って、秋に川を下って海へ帰るから、夏が一番捕りやすい。一番大量に鰻が手に入るシーズンに売れないから、鰻屋は困っていたという。
ところが、さっき言ったようにダジャレで食べる物を決めるのが流行ったから、平賀源内が『土用の丑の日は、うの付く鰻を食べるのが粋!』って流行らせたと言われている。
丑の日じゃなくて、土用の丑の日ってのがミソだな。
ただの丑の日、つまり12日ごとに鰻を食べろって言われたら『この暑いのに鰻なんて脂っこい物を何度も食ってられるか!』ってなるけど、ただの丑の日じゃなくて土用の丑の日って限定することで特別感を演出して成功したわけだ』
「あっ!? 平賀源内は聞いたことあるッス」
「まぁ、そういうことで『土用の丑の日は鰻』がブームになって定着し、現代の『土用の丑の日は鰻の蒲焼を食べる』に至るわけだ。
だから、声を大にして言いたい。
土用の丑の日は鰻を食う日だ! 断じて蒲焼を食う日じゃねえ! サンマの蒲焼とか食う日じゃねえんだよ!
土用の丑の日に鰻を食うのは江戸っ子の伝統だ! 県民が食ってるんじゃねーよ!」
「出たー!? 右京先輩のネトウヨ発言!」
「いつも言ってるが、俺はネトウヨじゃなくて原理主義者だ! 右翼だけどネトウヨと一緒にするな!」
「いやー、右京先輩と月見里先輩は立派なウヨですよ?」
「日本大好きなのは否定しない。がっ!ネトウヨじゃなくてリアル右翼だっちゅーの」
原理主義者の右京が蘊蓄を語ると、知識の根源に触れるために右翼発言に繋がるのもいつものことだった。
「……もういい! 一人で飯でも食ってくる。
せっかくだからご馳走でも食べるとするかな」
「右京先輩、そのご馳走はうなぎですか?」
「だーかーらー、土用の丑の日は明日だろ!」
【あとがき】
あれっ!? おかしいな? 美食ちゃんが鰻を食べに行く話じゃなかったの?
鰻の蒲焼を食べに吉川市に行って、ナマズの蒲焼を食べる落ちにするハズだったのに、何でこーなった?(@_@)
江戸時代の曜日概念ですが、十二支に十干(甲乙丙丁戊己庚辛壬癸)を合わせた六十干支もあります。
丙午とか耳にすることありますよね?
あとは戊辰戦争の『戊辰』も、六十干支の戊辰が由来です。
念のために記しておきますが『右京≠作者』です。
右京は、キャラ付けで右翼(原理主義者)です。
キャラ付けの一つとして、極論を言わせてます。
ご了承くださいm(_ _)m
一応、
左藤が左翼(リベラル)
月見里が右翼(伝統主義者)
須加がノンポリ(無関心)
です。
会長が左翼で会員2人が右翼と、バランスを取ってるつもりですが、どうでしょう?
機会があればRPG研究会がメインの連載(ファンタジーうんちく)をやりたいと考えてます。
その前に、普通に転移物で俺Tsueeeの連載やる予定ですがw
ちなみに今年は、
夏の土用が7月20日(水)〜8月6日(土)で
土用の丑の日は、7月23日(土)だそうです。