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剣の国【戦争篇】

作者: 青丹彩

 望むはただ一つ。なによりも早く、誰よりも前へ。


 さっと肩を引いたバスカヴィルの耳を、鋭利な矢じりが掠めていった。耳朶が欠け、足元に鋼色の欠片が落ちる。剣の化身たちが住む島は、現在、《弓》と呼ばれる外敵に侵略されかけていた。

「きりがないよ、フランとボーは何してんの?」

 最前線で敵を食い止める筈の仲間を思い、バスカヴィルは弱音を吐いた。剣たちの中でも指折りのパワーファイターにかかれば、木と石で作られた矢などそよ風も同然である。そう思っていたバスカヴィルは、思いがけぬ敵の猛攻に心が折れかけていた。

「仕方ないよ。奴らは弱いけど数が多いもん」

「多いもん」

 二人で揃いの剣を扱う《双剣》のマルドゥックが緊張感のない声で言う。喋る間にも、二人の剣は互い違いに動き、寄ってきた《弓》の首を切り落とした。木片の散る亡骸を退かし、マルドゥックらは油断なく辺りを見回した。

「もしかしたら、」

「フランもボーもやられてるかも」


 戦場を、一陣の風が吹き抜けた。

「莫迦者、死に急ぐか!!」

「何とでも言えやい!」

 ヒースクリフが怒鳴るが、戦場に身を置く彼は聞かない。

 細身の剣を握るバスカヴィルは、履いていた靴を放り捨て、銃弾を弾いたばかりのソーンめがけて走り出した。

「こっちに来るなバカ!砕けたいのか!?」

 跳弾を気にして叫ぶ同胞の声を無視して、バスカヴィルは顎で空を指す。飛ぶために、ソーンの幅広い刀身が必要なのだ。そばかすの浮いた顔を渋面に変え、燃え立つような赤髪の戦士は地面に刺していた己の分身を引き抜いた。薄く延ばされたくろがねの、柄に茨が巻き付いた武骨な大剣。ソーンはその細腕で、巨大な剣を下から上へ振り上げる。

「サンキュッ」

 トンと軽い音を立てて飛び乗ったバスカヴィルは、次の瞬間、剣が振り抜かれる勢いに乗って中空へと身を投げた。逃げ場のない彼を目掛けて雨のように矢が放たれる。

「クソ!」

 蛇のようにのたうつ剣を構え、ヒースクリフは舌打ちした。

「貴様のカバーは大変なんだぞ!」

 ヒウン。空を切って鳴らす鋼の鞭が、生き物のように空中をうごめき、バスカヴィルに当たるはずだった矢を根こそぎ絡めて叩き落とす。遠く空の上で、バスカヴィルが元気に親指を立てた。

「さっすがヒース!やるぅっ」

「茶化すな!

 風に髪を靡かせ、自由の身となったバスカヴィルは空の上から目を凝らす。怪力自慢のフランチェスカと、百発百中の投擲剣を使うボーダレスは戦場でもよく目立つのだ。

「お、見つけた!」

 輝く六本のみつあみと、とさかのように立てられたビビッド・ピンクのモヒカンを見つけ、彼は二人が相対する敵を見る。

「何あれ!反則じゃないっ?」

 二人が苦戦するのも無理はない。剣の国の端、戦線の敷かれたその上空に、巨大な怪物に乗った《弓》たちが休むまもなく矢を射掛けていたのだ。怪物は空を飛ぶ翼を持ち、嘴は木で、翼は葉で出来ていた。《弓》たちと同じ素材ということは弓の国で育てられた化け物なのだ。

「バスカヴィル!?どうして君がここに!」

 フランチェスカが彼に気づいた。傍らにいるボーダレスも同じように。ピンク色のトサカを持つボーに殺人的な目つきで睨まれ、彼はやべっと舌を出した。瞳孔の小さな目が戻れと言っている。宙に放り出されている以上、戻りようもないのだが。

「君たちを!」 

 着地。空を飛ぶ化け物の上にいた《弓》を一体仕留める。

「助けに来たんだ!」

 更にもう二体。怪物の背に乗っていた《弓》たちは、全員額を貫かれ、二度と動かなくなった。

 

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