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寝言姫  作者: まえのめり
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1話

エレノア・ジョーンズは夢を見る。

夢で見たことが現実でも起こることに気づいたのは5歳のころのことだった。

夢で未来予知をしていることに気づいたエレノアが、友人たちの手を借りて、いろいろな事件を解決したり、いろいろするお話し。


<エレノア>

 「スプーン落ちちゃったねー」

 これはエレノア・ジョーンズが初めて言ったとされる寝言。当時3歳。

 寝ているエレノアの様子を見に来た母親が聞いて、翌朝に教えてくれたのだ。夢の中で食事中にスプーンを落としたエレノアに、母が「スプーン落としちゃって」と言ったというのだ。

 そして、その二日後。エレノアは遊び疲れて夕食の際に食べながら寝てしまい、スプーンを落とした。その際に母が言ったのが、

 「まぁ、スプーン落としちゃって」


 子供のころはどうだったか不明だが、十五歳以降からの寝言は多く確認されるようになった。

 本人は寝ているので、寝言の内容はその寝言で自分が起きてしまうか、寝言で起きてしまった同居人からの報告で知ることになるのだ。部屋に一人で寝ていた子供のころにはわからなくて当然のことだっただろう。そして、夢の内容を詳しく覚えている子供だった。


 「小さい方がオトクだよ」とささやくように言った寝言は、買い物の際に大きい方と小さい方、どちらを買おうか迷っている誰かに、「お得な情報をコッソリ教えてあげる」、という夢だ。

 これは『近いうち』『私の周りで起こる』出来事だな、と感覚でわかった。

 夢で、まだ起こっていない出来事を見ている、つまり予知をしているということだ。

 夢の見え方はさまざまで、高いところから覗き見ているようなときや、その場で一緒に体験しているようなときもある。自分が別の人として行動しているときもあれば、その場に自分として参加しているときもある。ただ、寝言に関しては、『エレノアの言葉』だ。

ささやくようにお買い物アドバイスをした寝言は、お使いに来たゾーイが何を買おうか迷っていたので、同じ重さでも、大きい塊肉と小さい塊肉いくつか買うのでは、小さい塊肉をいくつか買った方が実はオトクという情報をコッソリ教えてやったのだ。肉屋の息子のエイダンが父親から値段の付け方について習っているのを「見て」いたから知ったことだ。

この寝言を発したときに見ていた夢は、エレノアにとって、楽しいものではなかったが、母親にとっては有益でうれしい情報となった。


初めに気付いたのは母親だった。

アメリアは朝食の用意をしながら、「こんな夢をみたの」という3歳になったばかりの娘エレノアの話を聞くのが楽しかった。ただ、お花畑に行く話やお城の話、川遊びの話に混じり、山火事や馬車の事故、近所のおばさんが亡くなる話など、あまり子供らしくない話がでることがあるのが気になった。「怖い夢を見たのね」と、慰めようにも、本人は特に怖いと思っていない様子で、いつもの「お友達と遊んだ、お隣の犬が子犬を産んだ」という夢の話と同じ調子で話をしてくれた。

エレノアから夢の話を聞いた数日後、近所で有名な世話焼きのジーンおばさんが亡くなった。特に病気ということでもなく、事故だった。おそらく高いところのものを取ろうとしたのだろう、椅子から落ちた際に頭を打ったようで、自宅のキッチンで倒れているのが見つかったらしい。亡くなる前日に、約束をしていたという友人が自宅を訪ねて見つかった。キッチンには、その友人をもてなすためだろうか、たくさんの食材とお茶の葉があり、床には大きなバスケットと、砕けた大きなパイ皿がおちていた。

おそらく、友人へのお土産にパイを焼いてやろうと思っていたのだろう、というのが彼女を知る人たちの言葉だった。

また、エレノアが楽しそうに話していた隣の家の子犬は夢の話では全部で4匹。オスが3匹、真っ白いメスが1匹だった。そして実際に産まれたのも、オスが3匹、そして白いメスが1匹だった。

それまでも「あら?」と思うことはあったが、ジーンおばさんの件が決定打となり、母親にとりエレノアの夢のお話しは、ただのかわいらしい「夢の話」ではなくなった。

数日考え、これまでのことを夫に話すと、夫は「ははは、そんなまさか」と笑った。


「まぁ、私も最初はそう思ったわよ、そんなまさかって」

「他にどんなことがあったの?」

「隣の子犬の数と、性別と色を…」

「他には?」

「3週間ほど前の、橋で起こった馬車の横転事故」

「うーん」

「他にも私が覚えてないことや、私がしらないけど実際に起こっていた出来事もあるかもしれない」

「子供の夢だよ? …でも気になるんだよね?」

「気になる」

「わかった。明日からエリーの夢の話を記録しよう。何もなかったとしても、かわいい娘が話してくれる『夢のお話し』だ。いい思い出になるかもしれないしね」


こんな話の翌日のエレノアの「夢のお話し」に両親は驚愕した。

「おとうさん、あのね、夢を見たの」

「どんな夢?」

「弟と一緒に雪を見た夢だよ」

「!」

「!」

「生まれたばかりで一緒に遊べないから、小さな雪だるまを作って見せてあげたの」

「お! おとう、と!か!」

「おかあさんは、はー疲れたーって言ってた」

「待って!待って!ちょっと待って」

「心当たりがあるのか!」

「確かに!今回、遅れてる…」

「病院だ!今日病院に!」

 大慌ての両親は、エレノアの「おかあさん、おなかすいた」で一旦落ち着きを取り戻した。

 昨晩までは妻の話を半信半疑、ちょっと信じてもいいかもな、と軽い印象で聞いていた夫も、今朝聞いた「夢のお話し」は信じたいらしく、結局仕事を休んで病院に付き添いにいくほどであった。


 病院から帰り、2人は新しいノートを広げた。

 父親は「ふぅ」と大きくため息をついてから、表紙に「夢の記録」と書いた。

 1ページ目には今朝聞いた「エリーの弟の話」を、そのあと数ページを使い、それまでに聞いていた話をまとめて書いた。現実に起こった出来事との一致については、起こった日だけを記載し、被害状況などの詳しい内容はあえて書かなかった。ジーンおばさんの事故やその他の出来事について、エレノアが原因ではないにしても、万が一にも気にしないでほしかったから。

 両親は、できればこの「夢の記録」が楽しいお話しで溢れますように、と思いながらノートを閉じた。


 両親が「夢の記録」を書き始めてから数か月後、雪の降る寒い日にエレノアの弟が産まれた。

 アメリアは「はー、つかれたー」とこぼした。すると「ほんとに言った!」とアルフレッドが笑い、アメリアは「言わないつもりだったのに、つい…」と言った。

 エレノアは、小さな雪だるまを作り「来年は一緒に雪遊びをしようね!」と、ベビーベッドに眠る弟に話しかけた。

 その日の夜、アルフレッドは、エレノアを寝かしつけたあと、妻と新しい家族・ライアンが眠るベッドのそばのテーブルで、「夢の記録」の1ページ目に追記した。

 「妻が本当に『はー、つかれたー』と言った」と。


 幼いころは夢の内容をうまく説明できず支離滅裂だった「夢のおはなし」だったが、言葉が増えるにしたがい、さらに詳しく説明できるようになった。

 朝食を食べながら、「夢のおはなし」をするのは今でも一緒。両親に話していると、起きた直後には忘れていた細かい部分まで次第に思い出せる。

 楽しい話ばかりではなかったが、両親はどんな内容でもしっかり聞いてくれた。


 5歳になり、初級学校に通うようになると行動範囲がグンと広がり、夢で見たことと同じことや同じ会話が起きているな、とエレノア自身も思うようになった。

 初めは、「あれ、こんなこと前にもなかったかな?前にも会話を聞いたことがあるな?」という疑問だった。

 「あー、そうだ。夢で見たんだ。」と気付いてから、それが何度か続いたので、起き抜けに夢を記録することが日課になった。思いがけず、両親と同じ行動をしていたのだ。

 毎朝話す夢について、両親からはそれが実際に起こった、ということは言われていない。5歳のエレノアにとって、夢を話すことはただの習慣だったので、両親が夢と現実との関連に気付いていることは、思いもよらないことだった。

 お茶を零す、見たことないはずのお芝居の結末、近所の事故、隣の街の火事、近くの山の土砂崩れ…

毎日ではない。けど、大きなものから小さなものまで、楽しいものから怖いものまで、いろいろな出来事を夢で見るようになり、夢の記録は増えていった。

 増えていくにつれ、目覚めたときの感覚で、実際に起こることなのか、ただの夢なのか、近い将来か遠い将来か、また自分に関するものか他人に関するものかがなんとなくわかるようになっていった。


 エレノアが「夢の日記」を付け始めて1年たったある日、記録のことを両親に打ち明けた。

両親はエレノアから渡された「夢の日記」を開くと、少し笑って、棚から3冊のノートを取り出した。「読んでみなさい」と。

 自分の見る不思議な夢のことを、子供のいうことだからとばかにせず両親がしっかり聞いてくれていたことが、エレノアはうれしかった。

 話を聞き終わった両親は「夢のことはお父さんかお母さんにだけお話ししてね」と言った。「悲しい夢のお話しは、みんなも悲しくなってしまうかもしれないからね」、と。


 両親はエレノアから聞いた夢の内容を、夢の出来事の当事者に伝えることもあれば、あえて伝えなかったこともあった。

 エレノア自身も夢で多くの事故や事件を見、その後の大人たちの反応を見て来たので、子供ながらに、言っていいこと、悪いことというものがあるのだろうということを理解していたので、自分から当事者に話すことはなかった。

 中には大きな事故もあったはずだが、そういうものは「あえて伝えない」判断をされていた。いくら親として子供の言葉を信じていても、さすがに「夢でみたから」という話で世間を騒がせたくなかったということだろう。警告することで事故が防げたり、被害が小さくなることもあっただろう。できる範囲で、なるべく被害が小さくなるように働きかけはしてはいたが、個人でできることは小さい。

 それに「あたる」といっても、しょせんは夢の話。もし口にして、それが起こらなかったら?気にはなるが、あえて口にしないことでエレノアの両親は家族を守るという選択をした。何も言わないという選択は、両親にとっても辛いものだったに違いない。


 成長するにつれ、その時の両親の判断は正しいとは思いつつ、警告すれば防げた事故や事件があったのではないか、エレノアはそう思うようになった。もちろん両親は気にするなと言ったが、気になるのが人情だ。

 夢という不確かな情報だから、事故や事件に対し、自分ではどうにもならないこととは理解してはいるけど納得はできない、そんな思いを抱えたエレノアは、同年代の子供たちよりも少し冷めた目をした子供だったと自己分析をしていた。そしてそんな娘を、両親は、自分が望まないのに辛いものを見せられ可哀そうだ、と思っていた。楽しい夢だけ見て、子供らしく笑っていてほしいと思うのが、親としての正直な気持ちなのだ。

 周囲の人の不幸を少しだけ小さくしたい、もっといえば本当は、わかっている不幸は無くなってほしい。でも、小さなエレノアにできることは、とても少なかった。

 農作業中にするはずだった怪我を小さくできたらいい、仕事中に倒れるはずだったインク壺が倒れなければいい、そう思って、両親に夢の話をする毎日だった。


初めて書いてみました。

読んでいただけるとうれしいです。

7話で第一部完で、軽く読めると思います。

今、第二部を書いてます。ひー

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