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母親

読んで戴けましたら、倖せです。

 自宅に帰った聖流(さとる)はリビングのドアを開けた。


 ドアの傍にある電話台に凭れ、九歳年下の弟、聖詞(さとし)が膝を抱えまた眠り込んでいた。


 聖詞とは母親が異なる。


 聖流の母愛子は、聖流が三歳の時に乳癌で亡くなっていた。


 父の藤岡真聖(ふじおかまさと)は、愛子が亡くなって八年後に十歳年下の美菜子と再婚し一年後に聖詞が生まれた。


 だが、真聖は根っからの仕事人間で、家庭を顧みない。


 妻のあれこれを聞き入れるタイプでも無く、仕事をして経済的に不満が無ければ万事問題など起こり得ないと思っているような男だった。


 美菜子は、思い描いた結婚生活のあまりの相違に苦しみ、三歳になった聖詞を置いて失踪してしまった。


 聖詞は今年から小学校に通い始めた。


 聖流は眠りこける聖詞を見詰めながら、美菜子が出て行った時のことを思い出していた。


 三歳の聖詞と十二歳になった聖流を並べて美菜子はかがんで抱き締め言った。


「ごめんね

 お母さん本当の愛が欲しいの

 聖流と聖詞のお母さんにも、お父さんが望む妻にも、どうしてもなれないの

 二人共許してね、ごめんね

 我慢できなくて、ごめんね」


 美菜子は立ち上がると、小さなバッグを持って玄関へ向かった。


「お母さん、お出かけ?

 ぼくも行く」


 幼い聖詞が言うと、美菜子は立ち止まった。


 美菜子は振り返らずに言った。


「ごめんね、聖詞

 許してね」


 聖流は美菜子を追おうとする聖詞の腕を掴んでいた。


 子供心に美菜子の限界を理解していたからだ。


 毎晩の様に子供が寝静まったリビングで声を殺して泣いている美菜子の姿を何度も見掛けていた。


「お母さん、ぼくも行くう」


 美菜子は靴を履くと、逃げる様に出て行った。


「聖流、お母さん行っちゃうよ

 お母さん!

 お母さん!

 ぼくも行く!

 お母さん! 」


「駄目なんだ、聖詞

 駄目なんだよ」


「どうして、ダメなの?

 ぼくも行く」


「駄目なんだよ、聖詞

 お母さんはこの家に居ても倖せじゃないんだ」


「お母さん、ぼくと聖流のことキライになっちゃった? 」


 聖流は涙を流し叫んだ。


「そうだよ‼ 」


 一瞬、聖詞は黙ったが、直ぐに玄関のドアに向かって喚き出した。


「いやだ!

 お母さん!

 お母さん!

 お母さん!

 お母さん........! 」


 聖流は必死にもがく聖詞を両腕で抱き締め、聖詞の背中に頭を押し付け、幼い聖詞の為に泣いていた。


 あれから三年経った。


 六ヶ月前に無言電話が来た。


 その電話を取ったのは聖詞だった。


「もしもし、だれですか? 」


 応答が無い。


「もしもし.......?

 もしもし? 」


 長い沈黙の後、受話器の向こう側で「聖詞......」と一言だけ言い残して切れた。


 それ以来、聖詞は学校が終わると、ピアノのレッスンが無い日はこうして電話の傍で電話が来るのを毎日待っていた。


『放って置いてくれれば良かったのに』


 と、聖流は思った。


 聖流は眠る聖詞を抱きかかえると二階の聖詞の部屋まで運びベッドに寝かせた。


 毛布を掛けてやると聖流は自分の部屋に籠った。






 読んで戴き有り難うございます。

 このシーン、自分の子供の頃のこと思い出します。


 再婚した母とこの街を離れて都会の方にいきました。

 母は男運が悪い人で、再婚した相手は前から付き合っていた女性と駆け落ちしてしまい、アパートに残され母は夜の蝶になりました。


 私はまだ五歳になるかならないかで、母の居ないアパートで一人、晩ご飯を食べて時間になると帰って来た母の為に手紙を書いて一人で布団に入って寝ました。


 寝ていると、急に寝ている背中が落ちる感覚になって起きる事がよくありました。

 子供心に不安だったのでしょうね。


 思えばその男、やな奴でしたね。

 母の親の家では、気持ち悪いくらい優しくて、家に帰ると少でも大きな声出すと「うるさい!」と怒鳴られましたから。


 うーー、いやな事思い出しました。

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― 新着の感想 ―
[一言] これから兄弟はどうなるのでしょう。
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