貴都李の章 ドM
読んで戴けましたら、倖せです。
「また来てるよ」
放課後、学校祭間近の音楽室で、出し物のバンド演奏の練習をしている聖流に、ベース担当の同級生、津積が話し掛けて来た。
キーボードを弾いていた聖流が顔を上げると津積は目を出入口の方に向けて示した。
聖流は思い切り蔑んだ一瞥を出入口にくれてやると、直ぐに津積に視線を戻した。
一瞬見えたそいつは、相変わらず見るからにひ弱そうな細い肢体を戸口の柱に預け、羨望の眼差しでこちらを見詰めていた。
聖流は鬱陶しさを隠そうともせず、そいつを無視し続けていた。
聖流は密かにそいつをドMと呼んでいる。
同じ学年だが別のクラスなので、名前など解らない。
名前など知れば、そいつに興味を示したことになる。
聖流にとってそれは、屈辱以外の何物でもない。
『そんなご褒美、くれてやってたまるか』
聖流はそう思っていた。
だがドMはどれほど無視しようと、蔑んだ一瞥をくれてやろうと、懲りること無く、聖流の周囲に現れては遠くから聖流を見詰め続けた。
津積たちとの帰り、ドMが校庭の木陰からまた聖流を見ている。
伸ばし放題の髪を横分けにして、髪の間からキレイな二重を覗かせ、夢見る様にこちらを見ていた。
好意を持たれているのは解るが、それなら話し掛けてくればいい。
ドMのめめしい態度は聖流のS気質を刺激して尚のこと無視してやりたくなるのだ。
聖流は気付いていたが、気付かない振りをしてドMの前を通り過ぎた。
読んで戴き有り難うございます。
それほど人気があった作品では無いのですが、この作品を投稿した時は投稿の仕方があまりよく解っていなくて、四万五千字を越える作品なのに、たった三話で分けてしまったので、読みやすいようにしたいなと思いました。
このストーリーは、凄くお気に入りなのもあります。
「ラプンツェルの接吻」本編では、謎のままの聖流の死が明らかになります。
よろしければお付き合い戴けましたら、倖せです。
今日から、宜しくお願い致します。m(_ _)m