人間図鑑
光が漏れていた。僕はタンスの襖から見ていた。
なにを?
一家団欒でちゃぶ台を囲んでいる食事の風景を。
今日はエビフライがご飯だ。持っているものは持たざるものへと分け与える。これが愛情じゃなくてなんだろうか。
僕はコンビニ弁当の乾いたご飯をにちゃりと噛む。味がしない。エビフライは乗っていない。
お父さんとお母さんが笑っていた。お兄ちゃんとお姉ちゃんも笑っていた。
僕は目を開いてそれを見ながら、にちゃりとご飯を噛む。やっぱり味はしない。エビフライが乗っていない僕はいらない子。
お父さんと目があった。
お父さん。
ねえなんでふすまを閉じるの?
これじゃあ何も見えないよ。
……うん、そうだね、じゃあ、またね。ごめんね。
目覚ましのアラームが聞こえて来た。今日も一日が始まる。
学校の時間だ。
はやく準備して学校行かなきゃ。ふすまからでて僕はご飯と梅干しを食べる。お母さんがなんか言っている。ぼーっとするなー。
登校途中にクラスメートが僕を追い越していく。キラキラした笑顔で太陽の下にいる。僕は塀の影の間を歩く。僕のランドセルは日に焼けてしまって太陽はもういいんだ。
「あっアユムだ。人殺しのアユムだ」
僕を見て笑う友達たち。僕は誰も殺したことない人殺しだ。前髪を目元まで覆っていて無理やり額まで髪をあげられた時、そう決まったんだ。僕は嬉しい。だって僕に役割が与えられたんだ。僕はいつか立派な人殺しになるんだ。気一列に電線に止まってるハトや、塀の上を退屈そうに歩く猫をいっぱい殺して、人間もたくさん殺すんだ。でも、ゴミ捨て場にいるカラスはやめてあげよう。可哀想だ。あれは僕と同じめをしているから。
教室に入ると僕の机はなかった。椅子だけが剥き出しで、ランドセルは床に置くことにした。先生と目があったけど嫌われているからなにもいわれなかった。
先生はなんでボクが嫌いなのかなぁ。
暇だから指で時間を数えてみる。それだけだと頭が余っちゃうからありがとうと神様に何回もいってみる。すごく気持ちがいい。給食時間になった。ご飯が食べられる。
食器を手にして、スプーンは渡されなかったから手掴みで食べる。クリームシチュを掴むのは難しいけどすごく美味しい。ボクの席は一人離れてたけど、みんなが見える食事はとってもおいしいね。
ねえ、そんなに牛乳嫌いならボクのとこに持ってきていいよ。諦めて飲まなくてもいいのに。
帰り道の途中、子犬を見つけた。段ボール箱に入っている。
犬は殺すんだっけ?
考えてなかったから、お互い大きくなったら殺すことにしよう。ふわふわ気持ちいいから今だけだよ。
えへへ。ボクのあたらしい友達。
家に帰って靴を脱いで、居間のふすまを開ける。
「ただいま」
暗い場所でシャツでつつんだ子犬をだす。
ボクはふすまをぎりぎりまで閉める。足音がする。おとうさんとおかあさんたちが帰ってきた。水色の作業服の人も四人くらい入ってきて、テレビや洋服ダンスを運んでいる。おかあさんは段ボールにガムテープを貼っている。
お父さんがボクを見る。
ふすまが閉じられた。
そうだね、お父さん、今大変なんだね。邪魔してごめん。
暗いなか子犬がボクの頬を舐めてじゃれあった。家族の一人がいなくなって物音が静かになるまで