悪役令嬢が、悪役令嬢向け超高層タワーダンジョン経営に乗り出されます。
会長直々のお触れが出されてもうひと月。御嬢様を満足させる提案は未だ現れません。予想どおりですが、困ったものです。
「ほう? オーサカロライナ百億ゼニーの夜景を楽しむラストバトル……まあまあのクソクソですわ! ロシアニドオクトパスボールでもお食べなさい! ジイ? タピおかわり」
お声がかかりました。すぐさま。
「ハイつぎの方、これへ――」
社長室は室長こと私以外は、社長のご趣味で見目麗しき少年少女ばかりです。その一人が小声で私に問いかけます。
「室長、今の、良案でしたよね」
「ですから一部採用です。まあまあの、と仰ったでしょ? 悪役令嬢は美しい風景とともに、ってトコでしょう」
「採用なのに毒殺? お嬢ヤバすぎます!」
その手にはタピオカハイと、青酸タコヤキ。
「これ、言葉を慎みなさい……タコヤキは結構。彼をこっそり企画部に雇用して、夜景の綺麗なコーベンハーゲンで再提案させなさい」
まあるくおさまるように、手を廻しておきましょうや。
おタピをお持ちしたらもう次の勇者が社長に提案をしかけていましたが、社長は砂時計を直されていました。
「ジイ、一緒に聞いて頂戴。そち、最初から」
「恐れ入ります。本日は社長様の塔内移動設備だけご提案に参りました。自律会話AI搭載昇降機、鏡くんです」
勇者の装備は紳士服の他社戦士。彼は三枚の姿見を持参しておりました。
「ここではAIのご紹介のみですが、運転は彼、いえカレシが空気を読んで自動制御します。どうぞこちらへお掛けを」
「ただのエレベータではなさそうなの。ジイ、代役よ」
そう仰る目はとても輝いておいでです……良い予感しかしません。
昇降機の提案なのに、三面鏡と椅子の佇まいは美容室のような……本当に美容師が来た……しかもカリスマ級美男。
『お待たせしましたお嬢……ハゲは帰って』
「何じゃと! 私はまだ……あれ?」
怒りあまって後ろに返ったら姿がありません!
『こっちです。鏡ですから』
元に戻ればやはり彼はそこに……なんと、鏡の中の人?!
『さっきはゴメンな……お・わ・び、フッ』
――ほわっ! バックハグ! 耳フーッ! 感触と温度まで再現っ!――
「ジイったら顔まっ赤! きゃーキモーい!」
「失礼しました室長様。社長様がぜひにと……」
勇者とラスボスがグルとは……大層お気に召されましたな?
「ダンジョン及び当社のシングル向けマンション全棟に採用します! ジイ、手配を!」
社長の平屋の大別荘にも手配してやろう。私の二階建にも。