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戴冠式
正午を告げる鐘の音は、今日に限っては特別な意味も併せ持つ。
数多の民が新たな王を一目見るため、仕事の手すら休めて城の前に集まった。
最上階のバルコニーに現れたのは、精悍な顔立ちの若き第一王子。その側には黄金の聖獣が影のように寄り添う。王子の背後には彼の弟妹たちが並んでいた。王家の血を引く王子、王女たちである。
その中には端麗な黒髪の男も佇んでいた。血染めの王子と畏怖される第二王子も、今日ばかりは式典用の白い衣装に身を包んでいる。
やがてそこに、老年の男がゆっくりと歩み寄ってきた。彼こそ、今日限りで退位する現国王である。
男は金色に輝く王冠をその手に運んでいた。第一王子の正面に立つ。親子は幾千もの瞳が惹きつけられる中でただ数秒、言葉なき言葉で語り合い、そして父の手から、冠は息子に譲られた。
父の手によって、王冠と共にこの国の全てを冠した王子――否、新国王。彼が民衆に向かって手を挙げた時、辺りは熱狂の渦に包まれた。皆が新国王の誕生を祝っていた。
正午の鐘は、今日に限っては祝福のために打ち鳴らされた。