1/9
あの子がしんだ日
やめて! お願いだから、連れて行かないで!
必死に手を伸ばすが、届かない。あの子の背中はどんどん遠ざかる。昨日までは手の届く距離にあったのに。あの子を膝に乗せて、白い綺麗な毛並みに触れることができたのに。
それはもう、許されない。
あの子を僕から取り上げた大人たちは、あの子の心臓に銃を突きつけた。
「よく覚えておきなさい、アイデルト」
母の両目が僕を捉えて、呪いを掛けた。
「私たちの一族は聖獣の力を借りて国を治める。けれど、人間の血を浴びた聖獣はもはや聖獣ではない。――ただ魔獣よ」
……天使みたいにふわふわでかわいいあの子が、魔獣?
そんなわけがない。だって、母様。あの子は悪くないんだよ。僕を守ろうとしてくれただけなんだよ。ねえ、聞いて!
「人を殺めた魔獣に同情を掛けるようなら、貴方に王子の資格はないわ」
やりなさい、と母がなんでもないことのように命じた。すると鳴ったのは、呆気ない乾いた破裂音。
向こうで、白いあの子が真っ赤な水溜りに溺れていた。