竣&美華 デート9
竣は子供と遊ぶのが得意。竣は子供に好かれやすいんです。今回の内容は、ついてこれるかな?
「初めまして。私は柏木亜莉栖です。いつもお姉ちゃんが大変お世話になっています」と亜莉栖はスカートの腰辺りを両手で持つと腰を屈めて挨拶をした。お姫様みたいな可愛い仕草だった。
亜莉栖は青いGジャン、白のTシャツ、青いスカートを穿いていた。スカートは自分で作ったとのこと。素晴らしい出来映えだ。
「いえいえ、とんでもないです。亜莉栖ちゃん、本当にね、こちらこそ、お世話になりっぱなしなんですよ。あはははは」と僕は首を左右に激しく振りながら言ったら、頭が少しクラクラした。 若干、星が見えている。
「亜莉栖ちゃんが僕たちを尾行していたんだね?」と僕は右目でウインクをして言った。
「うん。お姉ちゃんがいつになく綺麗な感じだったので、これは、男だなと。『どんな彼氏かなぁ~?』と顔を見たくなったので、付いて来たんです。ごめんなさい」と亜莉栖は美華ちゃんの後ろに隠れて恥ずかしそうに僕の顔を見ていた。
「私、尾行されているのを、全然、全く気付かなかったわ。なんだかごめん。心配掛けちゃってさ。この娘は女の子なんだけども、シャーロック・ホームズの大ファンでね、探偵ごっことか尾行とかをよくしているみたいなの」と美華ちゃんは亜莉栖の肩に手を置きながら言った。
「えっ!? ホームズのファンなの? 僕もホームズの大ファンなんだよ!! 亜莉栖ちゃん、僕と気が合うねぇ~!! 亜莉栖ちゃんは何の小説が好きなんだい?」こんな身近に若いシャーロッキアンがいるなんて、なんたる幸運だろうか。こんな可愛くて若いファンがいるのは貴重だし実に微笑ましいよ。
「『赤毛連盟』と『まだらのひも』かな? まだまだいっぱいあるんだけど、今の気分はこの2つかな?」と亜莉栖はハキハキした話し方をして言った。まるでホームズのような口調だった。
「なるほど。僕は、ライヘンバッハの滝壺に行ってみたいんだよ。ワトスン」と僕も負けじとホームズを真似て話した。
「私はダートムア高原で犬を散歩させてみたいよ。ワトスン君」と亜莉栖ちゃんも、まだホームズの話しぶりを真似て僕に言った。
「いけないよ! 霧が深い時には要注意だよ。ワトスン君」と僕はエキセントリックなホームズの動作を正確に真似て言った。
「底なし沼……、のことだね。ワトスン君」と亜莉栖は、まだホームズごっこに乗ってきてくれた。話が分かる娘だ。
「その通りだよ。ハッハハ! ワトスン君」と僕はバイオリンを弾く真似をしながら、昔、テレビで流れたジェレミー・ブレッド版のホームズのオープニング曲を口ずさんだ。
亜莉栖も釣られて、目を閉じると、眉間に険しいシワを寄せ、バイオリンを弾く真似をして僕と一緒に同じ曲を口ずさんだ。
僕と亜莉栖はバイオリン振り回す真似をしながら、一通り口ずさみを終えた。
美華ちゃんと瀬都子は目を丸くして、呆気にとられキョトンとしていた。
「なんのことなのよ? 何の話しをしているの? さっぱり分からんわ」と瀬都子は困り顔をして言った。
「なんだか、凄く幸せで楽しそう。私はホームズには、全然、詳しくないからよくわからないけどね」と美華ちゃんは瀬都子に笑いながら言った。
「亜莉栖ちゃん、君は見所があるよ!! 伸びるね!」と僕は握手を求めた。
『亜莉栖ちゃんとは絶対に良好な関係になれそう。お互いにホームズのファンであるというのは非常に大きいしポイントが高い。亜莉栖ちゃんには感じ良くしないとね。誰でも、彼氏や彼女の家族、兄弟や姉妹には嫌われたくないからね』と僕は心の中で決意を強くして思った。
「私も同級生でホームズのファンが中々いなくて困っていたんだ。瀬川さん、ヨロシクね」と亜莉栖も手を差し出した。僕らは硬い握手をして頷いた。
僕は美華ちゃんに「記念に、この瞬間を写真に撮ってよ」とお願いをした。
「?? 慌ただしくて、状況がイマイチ分からんけども、ハイ、チ〜ズ♪」と美華ちゃんはスマホで僕と亜莉栖が笑顔で握手をする写真を快く撮ってくれた。
「美華ちゃん、瀬都子ちゃん、亜莉栖ちゃん。『ルーシー』に行くよ!」と僕は店の入り口の扉を開けて言った。
『ルーシー』は1970年4月10日にビートルズは解散したけれど、その1ヶ月後に小野洋司さんが作ったカフェレストランだ。
店内はビートルズに関連する物がたくさん展示されていた。もちろん、流れてくる曲はビートルズ。
60年代の音楽も、たまには流れてくるのだが、9割方はビートルズか、メンバーがソロになった曲がほとんどだった。
『ルーシー』は常にお客で混雑していて人気のあるお店だ。今日はたまたま入れたが、並んでいる時も頻繁にあるからタイミングが必要なんだ。
ある人(ある人とは近所に住んでいたフランス語教師のアラン・バスキンさんのこと。現在は奥さんが赤ちゃんが生まれそうとの連絡がありフランスに帰国している。アランさんは陽気な方なんだ)が言っていたんだけど『美味しいお店を選ぶコツ、大事な事は、活気のあるお店が一番だということ。人がたくさん集まるお店は絶対に美味しいんだよ』と言っていた。(何処かの店とは大違いだね)
『ルーシー』は、お洒落な外装に内装、スウィンギング・ロンドンが、この店の空間には存在している。
常に自分達の力で行動を起こして文化を生み出してきた世界が本当に羨ましいよ。色褪せない本物が確かにあるのだからね。
『真剣に考えてきた』ということなんだろうね。
僕は本物の文化を歴史を体験したいよ。追体験が切ないけれどもね。偽物に騙されて無駄な時間を、本当にもう過ごしたくはない。本物に触れなきゃ意味はないよ。
ビートルズは今も成長している気がする。ビートルズ以外の音楽は聞く価値すらないと思ってしまう。
いや、思う。
ああ、ビートルズ。
ああ、ビートルズ。
「竣〜っ、久しぶりだ! ドンレッミダァウン。まったく頼むぜ、ベイビー」と小野洋司さんが笑いながら僕の傍にやって来た。
つづく
ありがとうございました♪次回、デート編はおしまいです。




