花のサンフランシスコが聞こえる
夏本番!サマー・オブ・ラヴよ、再び!愛と自由と平和の季節です!
給食までの時間はあと10分だった。給食当番が用意している中で、3人の女子は美華のところに集まっていた。
「美華ちゃんは、部活やサークルは決めたの?」と井上梨香は言った。
「まだ、全然、決めていないけど気になるのは、美術部と文学部と映画研究会かな?」と美華は顔を輝かせて言った。
「私も亜美も映画研究会だよ。うちにおいでよ。楽しいよ~」梨香は右手で自分の胸元をノートで扇ぎながら左手で手招きをした。
払う仕草の手招きだと、外国では「シッ、シッ。来るなよ!」と侮辱するゼスチャーと同じ意味になるため、梨香は敢えて正しい見本を示した。
梨香は映画好きでマニアックな知識が豊富だけども、たまに所々抜けていたりするんだ。
例えば「「E.T」の監督のジョージ・ルーカスはスピルバーグと親友なのよ」とか、「アラン・ドロンの名作「太陽系がいっぱい」は本当にやりきれなくて、泣けてくるよねぇ」とか。
まず、念のために『E.T』はスピルバーグが監督で、アラン・ドロンの名作は『太陽がいっぱい』だ。
スピルバーグとルーカスは本当に親友で、『太陽がいっぱい』は確かに、見ているうちに、罪悪感が芽生えてきてしまい、胸がいっぱいになる。
梨香は微妙に外れる時がたまにはあるが、梨香から映画情報は豊富で勉強になることが多い。梨香の映画の知識は9割方は正しいと僕は思っている。梨香は自分の得意分野の映画となると凄いんだ。
「とても面白そうね。 後で様子を見に行っても良いかしら?」と美華は乗り気になっていた。
「良いよ。ぜひ、ぜひ」と梨香は満面の笑顔を浮かべて美華に抱きついた。
「美華ちゃんは、肌が白くて綺麗だよね」と亜美は食い入るように美絵の肌を見つめて言った。
「私は陽に焼けた肌が羨ましい。明るくて健康的に見えるし。私は肌がすぐに赤くなってしまうのよ」と美華は右腕を擦りながら言った。
「美華ちゃんも? 私もなんだぁ。すぐ赤くなるし、ヒリヒリもするのよ」と亜美は自分の頬っぺたを摘まんだ。
「映画の話しに戻りますが『男と女』を私は見たことがないのですが、面白そうだなぁ、と思いました」と佐都瀬都子は眼鏡を上げながら真剣な顔で言った。
「私、DVDがあるから貸してあげるよ。明日の終業式の帰りに渡すね」と美華は言った。
「あらまっ。それはありがとうございます。見てみたいと思います。美華さん、借りたものは、早めに確実に返しますので、心配はご無用になりますから」と佐都瀬都子は頭を丁寧に下げて言った。
「わかったよ」と美華は優しい声を出して笑っていた。
「ねえ、ねえ、美華ちゃんに聞きたいんだけどさ、北海道にある咲華って、一体、どんな所なのか教えてくれるかな?」と亜美は椅子に座り直して頬杖をついた。
「咲華はね、夏になると辺り一面に花が輝くように咲いていてね、夢の中にいるような綺麗な街になるのよ。花の都、咲華。みたいな場所なの。メルヘンみたいな雰囲気があるよ。
ライラック、紫陽花、薔薇、ひまわりが綺麗に溢れているのよ。
まだね、他にもたくさん美しい花が咲いているわ。
そうだ! 夏になると近所のお祭りや、街のお祭りなどでね、頻繁によく流れていた曲があってね、幼い頃から聞いているから体にすっかり染み付いたわ。
咲華のテーマソングみたいな感じになっているのよね。だから今でも完璧に歌えるわよ」と美華は言って懐かしむように窓の外に目を向けた。
「凄いね。一体、どんな曲なの?」と亜美は頬杖のまま顔を左右に揺らせた。
「その歌はね、『花のサンフランシスコ』という60年代の歌なのよ。確か、あっ! 思い出した! スコット・マッケンジーという人が歌った曲なの。私の父が教えてくれたわ」
「へぇ~、私は聞いたことがない歌だけどもさ、マジでヤバイよね!」と亜美は感心しながら言った。
「素敵ねぇ!」と梨香は瀬登子に向かって言った。
「そうなりますね」と瀬登子は頷きながら返した。
「聞いてみたいし、咲華に行ってみたくなっちゃったねぇ」と亜美は足をバタ付かせ、はしゃいでいた。
「咲華は夢が溢れた街ですねぇ」と梨香は両手を重ね合わせて言った。
「北海道はフロンティア精神がありますからね」と瀬登子は何度も頷きながら眼鏡を直して言った。
「美華ちゃん、左足の包帯だけどもね、大丈夫?」と梨香は美華の足元を見て言った。
「大丈夫、大丈夫。ありがとう。ぶつけただけだから。もうほぼ治っているわ。自転車のペダルに思いきっりぶつけたのよ。唇みたな形に腫れて赤くなってね、まだ赤くてさ、それが嫌で恥ずかしくて隠しているだけなの。心配してくれてどうもありがとうね!」と美華は左足を前に出した。一斉に3人は足元を見つめた。
「そっか、大したことがなくて良かったねぇ!」と亜美は言って笑った。
給食は和やかな雰囲気で食べた。明日は終業式。肩の力を抜いて、リラックスしたクラスメート達の笑い声が教室に溢れていた。
つづく
読者の皆さん「咲華」は架空の街です。よろしくね。読んでくれて本当にどうもありがとう!嬉しいよー!