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伝説のタクシードライバー

今回、僕の連載小説「サマンサ・レディオ・ゲルマニウム・リズムズ」にも、登場している人が出てきますので、よろしくね♪

 来夢さんは軽やかに歩み去った。僕はベンチに座ると再び森羅万象、人生や運命やロックンロールについて考えいると、スズ婆ちゃんがお母さんの腕を支えてこちらに歩いてきた。


 「竣、幸子の点滴が無事に終わったよ」とスズ婆ちゃんは僕の肩に手を置きながら言った。


 「お疲れ様です」と僕は立ち上がってお母さんに頭を下げて言った。


 「竣、悪かったね。もう2度と、賞味期限切れは食わんよ」とお母さんも僕に頭を下げて言った。


 「さて、皆の衆、帰りましょう」と僕は言って背伸びをすると、お母さんと腕を組んでタクシー乗り場まで歩いた。

 スズ婆ちゃんが手をあげるとタクシーの後部座席のドアが開いた。


 「お客様、どうもお疲れ様でございます。ささ、どうぞゆっくりとリラックスして寛ぐ形で御乗車してくださいね」と明るい運転手にホッとして僕らは乗り込んだ。

 運転手の年齢が、かなりイっているようなので僕は怪訝な顔を浮かべそうになっていた。


 「お客様どちらまで?」

 

 「10丁目まで」とスズ婆ちゃんは助手席に乗り込みながら言った。


「あれま!? 迷わず助手席とは珍しい。お客様、了解致しました。10丁目までレッツゴー。シートベルトを宜しくお願い致します」と人の良さそうな笑顔を浮かべて運転手は言った。


 「私、雅伽太蛇次(ががだだじ)と申します。運転歴30年になります。安全運転をモットーにこの仕事をさせて頂いております。何かありましたら遠慮しないで言ってくださいね」と運転手は被っていた帽子を取って会釈をした。

 

 「お客様がいて嬉しいなぁ」と運転手は言うとタクシーを走らせながら、あまりにも会釈を繰り返すので僕は心配になった。

 「運転手さん、前、前だよ。前をちゃんとしっかり見てね」と運転手の肩に手を置いて言った。


 気づくと運転手はシートベルトをしていなかった。


 「運転手さん、シートベルトをしていないよ! 大丈夫なのかい?」と僕は不安になりながら言った。


 「あーっ!! ごめんね。すみません! 車を停めますね。路肩に寄せます。一時停止します」と運転手はスピードを落としながら自分に言い聞かせるようにして言った。


 「では、シートベルトを装着致します。ハイ! 完全に装着を実行致しました。お客様、確認のほどを宜しくお願い致します」と雅伽太蛇次さんはハニカミながら言った。


 「ハイ。確認しました」と僕は運転手のシートベルトにたわみがないか手で押さえながら言った。


 「運転手さん、失礼ですがお歳は幾つですか?」と僕は静かに聞いた。


 「50以上、95未満歳です。還暦は過ぎております」と運転手は満面の笑顔を浮かべて言った。


 僕は助手席にある運転手の証明証の表示を読んだ。生年月日が1925年8月18日と表示されていた。

 

 『93歳だって!? これは何かの間違いだろう』と僕は慌てながら心で思った。 

 モディリアーニが亡くなってから5年後に生まれたタクシーの運転手がいるなんて……。高齢化社会に革命が起きつつあるのかな?

 

 「本当に大丈夫なんですよね?」と僕は念を押すように聞いた。

 

 「大丈夫、大丈夫。戦前の車にはシートベルトは無かったんですから、その名残がずっと残っていてましてね。A級ライセンスもありますし、飛行機の免許証もありますし。かつてコンコルドを操縦していたんですよ。大丈夫です」と雅伽太蛇次さんは得意満面で言った。


 「驚きました。 見た目が随分と若いですね。50代に見えますよ!!」とお母さんは目を丸くして言った。

 

 「そう言っていただけるとありがたいですね」と雅伽太蛇次さんは窓を少し開けて言った。


 「じゃあ、家に運んで」とスズ婆ちゃんは目を閉じながら言った。


 「レッツゴーです。こちらの女性は美人ですね」と運転手はスズ婆ちゃんにさりげなく言った。

 スズ婆ちゃんは目を閉じていた。

 「おいくつなんですか?38歳くらいかな?」と運転手はハンドルを回しながらスズ婆ちゃんに言った。 

 スズ婆ちゃんは目を閉じながらもニヤケた顔を浮かべた。


 「お兄さん、綺麗なお婆さんですね。華やかさがあります。素敵な方だと一目で分かりましたよ。結婚はされて旦那さんも健在ですか?」と運転手はスズ婆ちゃんを一瞬見て言った。

 スズ婆ちゃんは頷いてから目を擦った。


 「元気? ああ、それはなによりです。結婚はお互いを知ってからの方が断然良いですよ。私はかつて失敗した経験がありましてね。

 女性は慎重に選ばないとね。私が最初に結婚した女房とは40年前に離婚しましたが悪妻でしてね。本当に性悪の女で人生で一番大変でした。離婚してから、その後に、良い方と出逢いまして再婚しましてねぇ、今の女房は出来た女房でして本当に毎日幸せに暮らしています。私より29歳年下です」と雅伽太蛇次さんは車を走らせながら言った。

 

 「「あげまん」と「さげまん」がいるのは本当の事でしてね。男から生気を奪い取る女というのが間違いなくこの世には存在するんですよ。抗えない状態になっていく恐ろしさを経験した事がありますか? 滅多に無いでしょう? 起きている間も苛まれるんです。干からびていくんですな。


 ある有名な作家さんのエッセイの中にですね「あげまん」と「さげまん」について詳しく書いてます。


 私の最初の妻は、正真正銘の血統書付きの「さげまん」でした。結婚してから3日間で私はグッタリしましたからね。あまりにも理不尽過ぎて。


 今の女房と出逢ってから健康も仕事もお金も増えていきましたからね。5人の子供にも恵まれました。

 幸運にも2度目の妻は物凄い「あげまん」でした。

 

 今後の学校教育では「あげまん」と「さげまん」の見分け方と『あげちん』と『さげちん』の見分け方を教えることの方が有意義ですよ。女性に幸運を与える男性もいるんです」と雅伽太蛇次さんは早口で淀みなく丁寧に言った。


 「要点はなんだい?」とスズ婆ちゃんは目を開けて言った。


 「人の縁は不思議だということです。宇宙からの贈り物だと思います」と雅伽太蛇次さんは静かに微笑みながら言った。


 「人は人と関わる事でしか成り立たない。私は1人では決して幸せの意味を見出だせなかった。最初に結婚した妻は私がいながら、自分自身しか見えていなかったんですよ。結婚をしたというのにね。人の心や痛みを分かる人ではなかったし、思いやりが極端に欠落していた危険な女でしたよ。

 まあ最初の結婚ですけどね、教訓として得た事は、【狂暴で頭が変で病的なヤバイ女がいる】と知った事くらいですからね」と雅伽太蛇次さんはあくびを1つして、赤信号待ちながら目を細めて言った。


 「赤信号は止まれです。突っ走るのは止めましょうね、という事なんですな」

 

 「その最初の女房はどうなったんだい?」とスズ婆ちゃんは雅伽太蛇次さんに顔を向けて言った。


 「新聞に載りました。私も驚きましたがね。25年間掘りの中に。


 何か仕出かす不安が常にありましたからね、くじ運の無い私が見事に不安を的中させましたよ。まあね、納得はしましたよね。幸いなことに20年前にお陀仏になりました」と雅伽太蛇次さんは安堵の笑顔を浮かべて言った。


 「人生を狂わす人間に出逢ったら、直ぐに踵を返して立ち去るべきです。人を見極めましょう」と雅伽太蛇次さんは声に力を込めて言った。


 僕は窓の外を黙って見ながら考えていたら、自転車に乗ったオバサンの姿に気が付いた。 

 見覚えがある気がした。 

 

 『いい加減に古くなった茶色い靴はもう脱ごうぜ』とジョージが言っていたなぁ。ブラウンシュー、茶色、チョコレート、自転車、オバサン、乳首…茶色い乳首?』と連想していたら乳首が激烈に黒かった、あのオバサンの乳首が頭に浮かんできた。

 僕は怖くて、唇を噛み締めながら頭を振って雑念を祓った。


 「お客さん、色々なお客様を乗せていますがね、ある20代後半の若いカップルが乗車した時の話なんですがね、母親の腕には生まれたばかりの赤ちゃんがいまして、私はバックミラー越しにですが赤ちゃんの様子を見たんです。どうやら、健康なお子さんでは無いように見受けられましてね、後で聞いたらダウン症のお子様との事でした。


 私は何も言わずに、しばらく運転をしていたら、母親が子守唄を歌い出したんです。

 聞き覚えのある歌で、私も自分の子供に歌った記憶がある子守唄でした。


 優しくて愛情のある若い母親の歌声に聞き惚れていると、赤ちゃんの背中を擦りながら歌う母親が突然泣き出しだしたんですよ。


 私は声を掛けるのを躊躇いました。声を出そうと後ろを見ましたら、今まで静かにしていた若い旦那さんが代わりに子守唄を引き継いで歌い出したんです。母親は驚いて旦那さんを見ると、旦那さんは若い母親と子供に向けてニコニコしながら歌っていたんですよ」


 タクシーの中は静まり返っていた。スズ婆ちゃんは目を開けてフロントガラスの向こうに見える街並みを見つめていた。

 母、幸子は胃の辺りを擦りながら聞き入っていた。


 「旦那さんが歌を止めると、奥さんの肩を抱き寄せましてね、奥さんの頭を撫なでながら見つめると、奥さんが小さな声で『ごめんね』と言ったんです。


 旦那さんが不安がる奥さんを強く抱きしめると『心配はいらないよ。僕らに似て、この子は強いから大丈夫だよ。2人でしっかり育てていこう。

 キャッチボールやキャンプや、いつか酒を飲み交わす親子になりたいね。その日が待ち遠しいよ。希美子(きみこ)、僕の子供を生んでくれてありがとう。親子3人で頑張ろうな。これから楽しくなるぞ』と言ったんです。


 私は運転しながら泣きましたよ。旦那さんの器の大きさと男気に感服しましたね。素晴らしかったです。あの旦那さんの事を『いい男』と言うんですな。親の愛情は海よりも深い」と雅伽太蛇次さんは泣きながら鼻水を足らして言った。


 僕は愛の偉大さに胸が熱くなっていた。





つづく

ありがとうございました♪

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