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LIFE

思いやりの心が大事です。

 「しーっ!!」と来夢さんは唇に人差し指を当てた。 

 「しーっ…」と僕も人差し指を唇に当てながら頭を下げて詫びた。


 「竣くん、真剣な顔をして夢中で書いていたけど、何かしら? 気になるなぁ。何を書いていたの?」と、来夢さんは言って、首を左に傾げると輝いた瞳で僕を見つめた。


 「いやあ、秘密にさせてください」と僕は照れながら言った。


 「竣くん、そう言われると知りたくなるのよ。特に人間というのはね」と来夢さんは含み笑いを浮かべて僕を見た後に、勢いよくノートを奪い取ろうとした。


 僕は手に力を入れてノートを離さなかった。


 来夢さんも手に力を入れて取ろうと必死だった。


 僕は来夢さんの手を振りほどこうと体を後ろに回したら、来夢さんも釣られてノートを掴んだまま一緒に回ってきた。


 僕はノートを強く上に引っ張り上げて来夢さんが手を離すように仕向けた。来夢さんは両手を上げてノートを離さない。万歳の姿勢で僕に微笑みかけた。

 僕も来夢さんに微笑み返した。


 僕は真顔に戻すと、今度は振り落とすようにして強く手を下ろした。

 来夢さんはノートを鷲掴みして粘って離さない。


 僕はノートを上に上げたが来夢さんは離さない。

 ノートを強く下げてみても来夢さんは離さない。


 「しぶといね」と僕は苦笑いを浮かべて言った。


 「看護師ですからね」と来夢さんは笑顔で言った。

 僕は根気負けしたので、ノートを来夢さんに差し出した。

 

 「思うところがあって、詩を書いてみたんです」と僕は照れ笑いを浮かべて来夢さんに言った。

 

 「えー、スゴい!! 竣くんは詩人なの? 素敵だね!!」と予想外にも来夢さんは喜んでくれたので僕は顔が赤くなってきた。


 「読んでもいい?」と来夢さんは、いたずらっ子のような顔をして言った。


 「良いよ」と僕はベンチに座りながら言った。


 来夢さんはベンチに座ると静かに読み始めた。

 

 来夢さんは大人の女性の魅力があった。二重で澄んだ大きな瞳には力があり、唇が艶やかに輝き、形の良い鼻筋も素敵だった。

 張りのある白い肌には疲労の影は見当たらない。手入れの行き届いた美しい滑らかな肌だった。

 細い首筋にある2つ並んだ小さなほくろ。大人の女性の色気や魅力が来夢さんに存在していた。

 生きる努力をしてきた美しさがあった。

うつ向いた綺麗な瞳には優しさが溢れていた。


 僕は自分自身を顧みないで、人のために尽くす看護師という大変な職業に敬意を払いたくなった。

 看護師とは最後の砦、オアシスのようなものだ。

 来夢さんには素直な愛があるように感じた。

 

 来夢さんは詩を読み終えてノートを閉じると肩で深呼吸をした。


 「どうでしたか? 分かりにくいかな? 変かな?」と僕は感想を求めた。


 「すごいと思う! よく書けているね! 私も詩集を読むの。スムーズに読めたよ」と来夢さんは言うと立ち上がって、僕に青いノートを手渡した。


 「生きることを諦めていない。生きることに喜びを感じている詩だったわ」と来夢さんは腕を後ろに組んで話した。


 「竣くん、ここに来る患者さんは、皆、必死な思いで来ているのよ。場合によっては、病の発覚で入院、怪我と判断されての通院とを正確に見極めて選択をする厳粛な場所なの。


 私は患者さんの今後を思うと、医者や看護師やスタッフの方々によるケアによって、これからの人生を大きく左右するということに対しての、プレッシャーだったり、重大な責任を任されたと思うと怖くなる時もあるの。私達、看護師は患者さんと本気で真剣に向き合わなければならないの」と来夢さんは真剣な顔で、熱を帯びて話した。


 「もちろん、看護師はやれる範囲は決まってもいるわ。看護師はね、『早く治してあげたい。早く助けてあげたい』という思いですべての患者さんに寄り添っているの。

 治すために必要なのは、患者さんの『治したい』という強い意思が一番になってくる。その気持ちを、持続させようと働きかけることが看護師にとっての最大の務めなのよ。私の言いたいことが分かるかな?」と来夢さんは顎を触りながら言った。


 「分かります」と僕は頷いて言った。


 「竣くんの詩の中にも、あるように『戦い続けなきゃならない 価値のある戦いをだ』の詩の通り、私たち、皆、その気持ちを持たなければならないわよね。諦めずに生きなければならないのよね」と来夢さんは言って微笑んだ。


 「そうですね」と僕も微笑んだ。


 「どんな酷い状況に置かれた患者さんがいたとしても、私達、看護師は【絶対に諦めない!】という信念を持っているの。無事に家族の元や社会に帰してあげたい、という強すぎる思いがね。いや、激しい思いかもしれない」と来夢さんは少し涙ぐみながら言った。


 「はい」と僕は頷いた。


 「どんな人に対しても、差別も偏見も、全然、持っていないのが看護師なの。竣くん、差別も偏見もね、言ってもいいかい?」と急に来夢さんは声を潜めて話した。


 「どうそ」と僕も小声で話した。


 「クソッタレよ!」と来夢さんは言って笑った。


 「同感です」と僕は何度も頷いて言った。


 「あっ、もう行かなきゃ。竣くん、詩を見せてくれてありがとうね。とても素敵な詩だったよ。また見せてね」

 

 「来夢さん、読んでくれてありがとうございました。感想も嬉しかったです」と僕は頭を下げた。


 「それにしても、竣くんはとても話しやすいね。じゃあ、またね」と来夢さんは言うと早足でエレベーターに向かった。





つづく


いつもありがとう♪

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