宿命
LOVE
来夢さんが行った後、売店付近を見ると母親らしい人が押す車イスに若い男性が乗っていた。
男性は20代後半くらいだろうか。鼻や口に管が入れられていて虚ろな眼差しをしていた。瞬きをしない瞳は一点を見つめていた。
男性は左腕を少し動かせるようだが、意識がまるで無いようにも見えた。脳性麻痺の患者さんなのかもしれないと僕は思った。
母親は楽しげに話し掛けながら売店まで車イスをゆっくりと押しいく。
話し掛けられていても、車椅子の男性は返事をしていないようだった。
母親は黄色いカゴを取ると、新聞や漫画、お菓子などを迷うこともなく次々とカゴに入れていく。
店員が母親の傍に寄ってきて、挨拶を交わしてから談笑をしていた。顔馴染みのようだった。
母親は笑いながら車椅子の男性の髪の毛を整えたり、頬を優しく撫でたりしていた。
店員は「今日ね、漫画が入ったんだよ」と言うと男性の足元に屈み込んで手に漫画を持たせようとした。
男の反応はなかった。母親が男性の手を支えて持たせる動作を試みた。店員は男性に一礼して微笑みかけた。
母親は「ありがとうございます」と代わりに店員に頭を下げた。母親は去り際にも店員に手を振った。 店員も笑顔で手を振っていた。
僕はしばらく真剣に考え込んでしまった。
男性の反応は薄かったが、母親らしき人は明るく振る舞っていて落ち込んだ風には見えなかった。
店員も普段通りの対応、笑顔で接客をしていた。立派なことだなと僕は思っていた。
健常者の中には、病人や障害者に対して目を逸らしたり、背けたり、見て見ぬフリをして、最初から関わらない傾向をしがちの人もいる。時には、いないように振る舞う事も無きにしも有らずだったり。
昔からみたら、だいぶ変わってはきた。物凄く分かり合いたい気持ちの方が強いし簡単に垣根や壁を取り壊せるのも事実だ。
もっと障害者が社会に出ていける環境が絶対に必要なんだと思う。
健常者も障害者も笑顔で肩を組んでいる現実が確かにあるからね。最近の大人も若い子も子供も進歩的な人が多いから頼もしい社会になりつつあるし。
ヨーロッパは福祉が進んでいて社会に浸透しまくっている。障害者に負い目を持たせない環境も、日本の50倍はあるし整っていると話に聞く。
何でも打破したいね。
ひょっとしたら、人間は健康だと気付かないことの方が多いんじゃないのか? と思うことがある。
失ってから初めて気付くという真実もあるから。
傲慢な感情に、いつの間にか支配されてはいやしないか? ハンディキャップの人によそよそしい態度や差別や偏見の感情を持ったりしてはいないだろうか?
いや、待てよ! じゃあ僕自身はどうだろうか?
あまり身近に障害者の方はいないので分からないけども、病人やハンディキャップの人を見たら、最初はやっぱり、怖い、とは思ってしまうかもしれない。
まぁ、僕の性格から言えば「色んな立場の人がいるんだよ。色々な人生を皆、頑張って生きているんだ。運命だと受け入れて『障害は仕方がないことなのさ。出来ることを楽しんで精一杯にやるだけさ』と前向きに捉えられる自分でありたいね」とシンプルに思える自分がいた。この考えは凄く意味のある考え方だ。
健常者も障害者も大差はない。同じ人間だ。人間は皆、心を活かして生きているのだから。人間は心で感じ合う生き物だから。心で繋がるのが人間の真実の姿だからね。
僕はジョン・レノンの事が頭に浮かんできた。ビートルズのライヴ中にこんな事がよくあったそうだ。
ポール・マッカートニーがステージの上で、曲の紹介や最近の出来事を面白おかしく喋っている時に、隣でジョン・レノンがハンディキャップの人をよく真似たりしていた。
ジョンは足を引きずったり、動けないフリや、よろめいたり、目が見えないフリや、耳が聞こえないフリもしたそうだ。
『不謹慎だ! 実にけしからん!』と周りの大人達や評論家は口々に非難をしていた。
ポールは異議を唱えた。「そうじゃない。その考えは間違っている」とジョンをフォローしたのだ。
ポールによると「病人や障害者を無視したり、ハンディキャップの人をいないように振る舞う社会の風潮に傷いて耐えられなくなったジョンの怒りの表明と気持ちだよ。それを表現しているのさ。『頭の硬い馬鹿はほざくな! 欺くな! 障害者を無視するなよ。同じ仲間なんだぜ。それを忘れるな。愛がすべてだと知るんだ』ってジョンは言っているのさ」と言っていた。
ああ、ビートルズ。僕はビートルズが好きだ。
僕は売店に行きペンとノートを買った。詩を書きたくなっていたのだ。
『よし、何か浮かびそうだぞ。書いてみよう。いつか、ジャン・アレックス・水詩に見せようかな?』と僕は考えながらノートを開きペンを取った。
タイトルは……「宿命」。
『宿命』
ギリギリの状態
気を保つので精一杯
心が張り裂けそうだ
変わり果てた姿は辛い
悲しみに耐えながら
気丈に振る舞う
君の姿は立派だったよ
涙を堪える君の顔を見て
この世に残された者の悲しい宿命を強く感じた
やるせない気持ち
ざわめく心の鼓動
焦りや火照りさえもある
生きるとは大変だ
本当に大変なことだ
悲しみも苦しみも伴う
時には絶望的になることもあるかもしれない
それでも
戦い続けなきゃならない 価値のある戦いをだ
永遠には生きられない
やがて自分の肉体も土に帰る時が必ず来るのだ
諦めるのではなく
生きるために
生きるということ
見据えて生きるということ
遥かな光を見つめて生きる
辿り着くのは深遠の愛
大事なのは愛と縁
人は一人では生きられない『人の助け』と支えがあって成り立つ僕らの社会
人の助けを感じないような心の貧しい人間になってはいけないよ
穏やかな心と
強い信念を持って
受け入れること
落ち着いて生きることが大事にもなってくる
目移りばかりする人間にはなってはいけないよ
気が多い無責任な人間にもなってはいけないよ
いつか再び必ず会える
今は辛くとも
約束を果たすためにも
会わなければならない
会えると信じるしかない
先に行って待っている心強さとして受け入れること
心の中で生き続けている
君を決して忘れたくない
瀬川 竣
まあ、照れるけどこんな感じかな。絵とは全然違う脳みその働きを感じたね。普段、頭を使わないから、珍しく使って疲れた。
「竣く〜ん。何を書いているの?」突然、来夢さんが後ろから覗き込んで言った。
「ぎょえーーっ!?☆¥」と僕は大声を出して驚き、腰を痛めるほどの海老反りで仰け反った。
つづく
LOVE




