COOLなCATS
竣は今日もデッサンをしています。格闘しながら、裸婦画、石膏デッサン、人物画を頑張って描いています。竣のある日の夏の1日。
静まり返った部屋の中、3日掛かって完成した木炭の裸婦画。目を細めながら眺めて近寄って遠ざかって30分間イーゼルの前に僕はいる。
「よし! 完成。しばらくは絵を描きたくないね」と言いつつも、「結局、すぐに描きたくなるんだけど」と僕は呟きながら新しいデッサンの準備をした。
ジョルジョの石膏像を押し入れから出すと、高い位置にある台(石膏像を描くために作った自作の台)の上に置いた。あと石膏像は「二人」いる。
「よし、準備完了。デッサンは明日から描こう」石膏デッサンは本当に時間が掛かる。マジで描くなら、14〜17時間は掛かる場合もあるし こだわりすぎて、もっと掛かる場合もある。
美大の試験なら8時間以内に完成させなければならない。自宅で描いた石膏デッサン、中学生時代の石膏デッサンが200枚以上はあるかな。現在の石膏デッサンを合わせたら300枚以上描いた事になる。
もう本当にうんざりしている。
血の通っていない石膏像は描きたくないね。
『分かりやすいし描くのに徹しているから練習で描いている』と割り切るしかない。
こんな話がある。本当かどうかは分からない。
ある美術予備校の学生が石膏像を取り憑かれたように描いていた。石膏像の名手と言われるほど上手に描ける生徒だったのだが、ある日、誰かが忍び込んで予備校にある全ての石膏像の首から上が砕けて無くなっていた。
残された石膏像の上半身や胸には紫色の乳首やデベソがペイントされていた。
名手と言われた生徒の仕業だった。(生徒によると憎しみを込めて石膏像を壊したとの事)
生徒は予備校の屋上で手首を切り、出血のために青ざめた顔のまま、地面に血で『このままじゃ…、ずっと始まらない』と何度も書きながら、気が狂ったのかもしれないが、ぶつぶつと独り言を言っていた所を先生方が見つけたが、生徒は屋上から飛び降り自殺を図った。3階建ての予備校で幸いにも木がクッション代わりになったので生徒は無事に保護されたが、運悪く枝にぶつかって右手の人差し指を切断したという怖い話。
石膏デッサンはある種の洗脳であり狂いそうになる時があるんだ。ポジティブに言えば試練なんだけど、苦悩する前に打破しなければ頭がマジでヤられるよ。
石膏像のために青春を無駄にするより、好きな女に時間を使った方が絶対に良いと言うのは本当に正しい選択で正論なんだよ。好きな女に夢中になった方が断然に良いね。
石膏デッサンは抽象だ。軽く考えて欲しいと言うのが僕の意見で考えだ。
単なる手を動かす訓練。慣れたら止めた方がいい。
それよりも裸婦画や人物画の方に早めに取り掛かる方が、かなり重要だと痛感しているのも事実なんだよ。
ピンポ〜ン
インターホンが鳴った。『誰か出るだろう』と思いながら僕はイーゼルの位置を直していた。
ピンポ〜ン
『誰か出ろよ』と思いながら部屋の扉を開けて通路を見た。
和雄爺ちゃん、スズ婆ちゃんの部屋からは全くの反応がなし。そう言えば出掛けるとか言っていたなぁ。 夏奈子の部屋から歌声が聞こえていた。
茶の間に行くとテレビが付いたままで、テーブルには湯気の立つ緑茶が置いてあった。
「誰か来たよ!」と大きな声で言ったらトイレから「竣、お母さん、今、トイレだから代わりに出てくれない? ちょっと、こりゃダメだ、腹が痛すぎるわ」と母、幸子は細い声で言った。
母はよく『5日前に期限が切れていたけど、味は熟成されているはずだよ』と勝手な理屈を言いながら期限切れの物でも平気で食べていたからね。これを機に今後は止めて頂きたいもんだ。後で母に注意しよう。
「分かったよ」と僕は言って仕方なく玄関に向かった。出たくないなぁ、と嫌々考えて玄関に行った。
その訳はね……。実は……。
以前、見知らぬおばさんが2人家に来て『あなたは信じますか? 私達は信じています』と言いながら勧誘で来たんだよ。よくある、その手の類い話だと思っていたら、おばさん方の手には自作の同人誌の本があったんだ。
『何だか様子が違うなぁ』と思いながら同人誌の表紙を見ると、ヘタクソな妖怪の姿の絵と『警鐘!! 妖怪は絶対にいます! 既に貴方の隣にいるのです!』と書いてあったんだ。
しかも、おばさん方は同人誌の警鐘と一致しない話を、ずっーと僕にしていたんだよ。和食の素晴らしさについて語っていたんだ。
余計なお世話だし、うるさいので追い返そうとしたら、おばさんの1人がドアに足を挟んで防ぐんだよ。「私たちと共に今から一緒に偉大な『ババンヂ・コカンセツ・ビンビンギュン様』(よくわからんけども、おばはん方の信仰の対象か、架空の対象か?)に尽くしましょう」と訳の分からないことをほざいてきたんだよ。その行動かなり頭にきてさ、余計に腹立ってきて、僕も「あなたは髪を信じますか?」と言ってやり返してやったよ。
「髪は長い友達です。リンスも使用しましょうね。育毛も、白髪染めも散髪もしましょう。どうです? これから僕と一緒にチョンマゲを結いませんか?」と言ったら、おばさん方2人はビビったみたいでさ、僕に一礼してからスタコラサッサと去っていったんだよ。
「チョンマゲが嫌でしら剃り込みのリーゼントは、どうでしょうか? 芝刈機で坊主頭にするのもお薦めですよ!」とそそくさと帰宅するおばさん方に向かって大声で言ったけどおばさん2人は僕の声を無視して帰っていったんだ。
誰も救ってくれたり、助けてはくれないのだから、『自分自身に尽くせ!』と言うことなのさ。自分を救えるのは自分しかいないんだよ。僕は自分を信じているんだ。何でも出来ると言うことをね。
自分の頭で考えて行動する事が大事なんだ。
あれ以来、人が訪ねて来ても出たくないんだよねぇ。
僕は渋々「はぁい……、どちら様でしょうか?」と言って覗き穴を見たが外に誰もいなかった。
『何処かのガキのイタズラだな』と扉を開けると猫が1匹座っていた。
「君が押したのかい?」と僕は猫に話し掛けたら猫が「ごはぁ〜ん」鳴いたではないか!
「えっ!! ご飯!?」と僕は驚いて言った。
猫は「ニャーン」とあどけない鳴き声を出してアクビをした。
「な、なんだ。ビックリした! 聞き間違いかよ」と僕は言って猫の頭を撫でた。
「ごはぁ〜ん」と今度は確実に鳴いた。
「すごいじゃん。君は日本語が上手なんだねぇ。煮干しで良い?」
「ニャオ〜」と猫は僕の足に顔を擦り付けて鳴いた。
僕は猫のご飯はどんな物が良いのか悩んだが、台所から煮干しの袋を持って玄関に行った。
「ほれ、食べなさいな」と口元に煮干しを差し出すと猫は美味しそうに食べ始めた。
「インターホンを鳴らしのは誰だい?」と僕は夢中で食べている猫に話し掛けた。
猫は食べ終えるとお代わりをせがむことなくアクビをして眠る体勢に入った。
「ちょい、ちょい、君。ここで寝ると困るんだよ。人の出入りがあるからね。悪いけどもね、庭に行ってくれないかな?」と僕は庭を指を差しながら言った。
猫は「ニャーン」と鳴いて、庭に向かって悠然と歩いていった。
僕は猫の優雅な後ろ姿を『カッコいい姿をしているなぁ』と見とれていた。
砂利を蹴る音がした。
「うんっ!?」僕は気配を感じて顔を上げると門の所に人がいた。
6〜8才くらいの女の子が顔だけを出してこちらを覗いていた。
つづく
ありがとうございました♪




