梨香なら知っている
記念の70話です!
わーいわーい!
(~▽~@)♪♪♪
ディーン・マックィーンが夕陽に溶けて消えていく後ろ姿を見ながら僕は詩音にラインを送った。
『詩音、ディーン・マックィーンを呼んでくれてありがとう!』と伝えた。
『奴は凄いだろうっ! 本物のカウボーイなんだ! アメリカ生まれの唐神育ちなんだよ』と詩音は送り返した。
唐神市は北にある小さな町だ。漁業が盛んで空気の綺麗な町。美人の産地とも言われている。現在25歳の絶世の美人女優である、紫咲恵恋の故郷としても有名な町だった。
僕は詩音に『発掘作業が終わったら、また会おう』と約束をしてスマホをポケットに仕舞った。
夕暮れの砂浜でボディーガード3人、スペース・J・戦隊から2人、筋肉男と坊主頭の男と、スズ婆ちゃん、和雄爺ちゃん、僕の計10人に囲まれて、記憶を消された田賀津吉容疑者の落ち着かない姿、定まらない視線を泳がせてるのを見ていて憐れで苦しかった。
自分が誰だかすらも分かっていないように見えた。記憶を完全に消されたのだった。
坊主頭の男は、にこやかに微笑みを浮かべていた。『坊主頭の男は色々と事情があって名前は出せない』とスズ婆ちゃんが後に言っていた。筋肉男も同様にだ。
スペース・J・戦隊、警察は田賀津吉容疑者を、一先ず、今は引き取らずに、坊主頭の男と筋肉男に連れられてボディーガードが運転する車に乗って北へと走り去っていった。
(何処に連れさられたのかは誰にも分からない)
――――――――――――
3日後。既に夏奈子は元気を取り戻して、次のライヴに向けての猛練習を開始していた。
3日間のあいだ、ボディーガード10人ほどが夏奈子を囲むようにして守っていた。上空には対空ミサイルを装備した攻撃可能のヘリコプターが1台飛んで夏奈子を警護していた。
パトカーが2台、スペース・J・戦隊の武装警備隊員が2人「不死鳥」という秘密組織のメンバーが、『何処かに紛れて夏奈子を見守っている』という話をスズ婆ちゃんが夏奈子に話していた。
「不死鳥」。実に格好いい名前の組織だ。不死鳥とは、警察の更に上にある高度で攻撃力の高いプロフェッショナルな秘密組織だそうだ。
スペース・J・戦隊はもっと上のレベルらしい。
僕はテレビで見た南弐梦山で目撃されたという『青い天使』がずっと気にかかっていた。いつか見てみたい。
夕方。
夏奈子は、あまりの過剰な護衛っぷりに、ほとほと困り果てていた。
夏奈子はスズ婆ちゃんに直談判をした。
「スズ婆ちゃん、お願いだからさ、止めさせてよ! 目立ちすぎるから今すぐに止めさせてーっ!! 」と夏奈子がスズ婆ちゃんに言った事で警護は完全に止める事になった。
「スズ婆ちゃん、今までさぁ、一体何をしてきたのよ?」
「何もしていないよ」
「そんなわけないでしょうが。ボディーガードやヘリコプターや催眠術師がいたり、マッチョな男にと、得体の知れない方ばかりがいたよ」
「夏奈子、長生きしているとね、色々と経験をするんだよ。たくさんの人との出逢い、関わりが生まれるんだよ。あんまり質問しなさんな」
「教えてよ〜っ!」
「いずれな」
「チェッ! 仕方ない。分かったよ。私はもう大丈夫だからねぇ。スズ婆ちゃん、万が一のために、私もお兄ちゃんみたいに武術か護身術を習ってみたい」
「そんなことせんでもいいよ。ギターを弾いているんだから、指や腕を怪我したら困るし、悪影響になりかねんよ」
「お願い! 何か私に合っている武術があれば習いたいの!」
「しなくていいんだよ」 スズ婆ちゃんは腕を組んで悩んだ。
「ブー!」
「ブー垂れ娘の夏奈子ちゃんよ、よくお聞き。音楽に専念して1つの事に取り組みなさい。あれもこれもと欲張って、目移りばかりしては、結局、何も自分に身に付かなくて良くないんだよ。後悔はしたくないでしょう?」
「うっ…。そ、そっか。そうだよね。分かったよ。これから、真美と渚ちゃんと銭湯に行ってくるわ。汗を流しに、お風呂に入りたいね。スズ婆ちゃんも行こうよ!!」と夏奈子は言った。
「良いね、行こう行こう」
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僕は久々に梨香と連絡を取ってから会いに行った。梨香なら何か知っているかも知れないと思ったからだった。
ディーン・マックィーンが「あれだよ、あれ」と言ったのは、おそらく、映画のワンシーン、漫画、本の中で描かれている何かを自分の姿に重ねたのだろう。『梨香なら絶対に何かを知っているはずだ』と僕は直ぐに閃いた。
僕は梨香の家に遊びに行った。梨香の家は7丁目にある。梨香の部屋に招き入れられると僕は詳しく事情を話した。
「ということなんだよ。梨香、夏奈子がさ、付きまとわれて凄く怯えていたから、偶然、ニタシで会った詩音が事情を察してね、助っ人に連絡をしてくれてさ、来てくれる事になって助けてくれたんだよ」
「竣、ちょっと、その前にさ、夏奈子ちゃんは何ともないの? 大丈夫?」と梨香はココアを入れながら言った。
「ああ、すっかり落ち着いて次のライヴの準備や練習に明け暮れているよ」
「無事で良かったねぇ」と梨香は言って僕にココアを渡した。
「でさぁ、梨香、助っ人のディーン・マックィーンというカウボーイが現れてね、暴れまくって夕陽に消えていったんだよ」
「ジミー・ディーンとスティーヴ・マックィーンの名前を合わせたんだねぇ」と映画通の梨香は素早く理解して答えた。さすがだ。
「ご名答」と僕は言って拍手をした。
「梨香に聞きたいんだけどさぁ。ディーン・マックィーンが馬に乗り、夕陽に向かって走り去っていく時に、僕は思わず、『ディーン・マックィーン、早く戻ってこいよ〜!』と叫んだら、直ぐに戻って来たんだよ。『あれっ? どうしたんだろう?』と思っていたらさ、『今の別れの言葉をさ、もう一度、言ってほしいんだよ』とか言うわけ。よく分からなくてさ、言わなかったんだけども、梨香は思い当たる事は何かあるかい? 他に気付いた事なら何でも良いんだけどもさ」と僕はココアを飲みながら言った。
「『シェーン』だね」迷わずに梨香は自信満々に言った。
「『シェーン』?」
「アラン・ラッド演じるシェーンは流れ者のガンマンなの。ある一家が悪者に「土地を手放して消えろ」と脅されていたのよ。その事情を聞いたシェーンが悪者と対決していくまでの繊細で緻密でリアルな西部劇の映画なのよ」映画通の梨香は淀みなく話した。
梨香は立ち上がって、机に行くと引き出しを開けて青色のノートを取り出してページを開いた。
「私が書いた映画情報の極秘ノートよ。えへへへ。『シェーン』の監督はジョージ・スティーヴンスがしていてね、後にジェームス・ディーンの『ジャイアンツ』の監督をやる人なんだよ」梨香はノートのページを捲りながら言った。
「知らなかった」
「『シェーン』はね、1953年の映画でね、第26回アカデミー賞、撮影賞を受賞したのよ。アラン・ラッドは最高の演技を見せてくれたし本当に素晴らしい映画なのよ」
「へぇー。凄いんだね」
「アラン・ラッドがね、少年ジョーイ役のブランドン・デ・ウィルデの前で射撃を見せるシーンがあってね、119テイクも撮影して、どうにかやっと完成させたという逸話が残っているのよ」
「へぇー」
「『シェーン』は派手なタイプの西部劇ではないんだけどもね、心に残る西部劇ではこれが1番ね。映画見たい?」
「へぇー。面白そうだ。見たいね」
「最初の方で、酒場で決闘のシーンがあるのよ。生々しくてさ、リアルでさ、見ていて胸が痛くなるような戦いなのよ。映画見たい?」
「見たい」
「私『シェーン』のDVDを持っているよ。私さぁ、本棚をDVDの置き場にしているのよ。ちょっと待ってね」と梨香は言って本棚に行くと、DVDを取り出し、部屋にあるテレビとDVDデッキをセットして『シェーン』のDVDを入れながら梨香は話を続けた。本棚には500本を越えるDVDが並んでいた。
「クライマックスでの殺し屋との決闘シーンは凄いのよ。アラン・ラッドの早撃ちがめっちゃ早くてね、当時はね、『世界一早い射撃』と言われていたのよ。映画見たい?」
「見たい」と僕が言うと画面が映り出した。綺麗な山の景色が映った所で、梨香は一時停止をした。
「ウディ・アレンがね、『『シェーン』は素晴らしい映画で別格だ……。僕なら傑作アメリカ映画のリストを作ったら、絶対に『シェーン』を上位5本に入れるよ』と言っていたわよ。竣、どう? 『シェーン』をこの映画を見たい?」と梨香はとどめの一言を言った。
好奇心や興味を抱かせる梨香の見事な映画評論は無事に終えた。
「見たい」と僕は言った。
梨香はDVDを取り出すとケースに入れて僕に差し出した。
「貸してあげるから、自分の部屋で見なさいよ。感想をお待ちしています」と梨香は言った。
「ちょい、梨香。映画とディーン・マックィーンとは関係があるの?」と僕は焦って言った。
「もちろん。ディーン・マックィーンは確実に『シェーン』のファン」と梨香は頷いた。
僕は自宅に帰ると手を洗って、うがいをしてから茶の間に行って、メロンソーダとあんパンを手に持ち自分の部屋に行った。
2時間後、ジョーイがシェーンに何かを叫んだ。
僕は鼻水を出しながら泣いていた。
つづく
『シェーン』は名作です。ありがとうございました!




