美少女
「では自己紹介をお願いします」と先生は言った。
「柏木美華です。よろしくお願いいたします」と美華は頭を下げた。
「イェーイ! こちらこそどうぞよろしくー!」と男子達が一斉に騒ぐ。
「皆、柏木さんに何か質問はありますか?」と先生が言った。
「はい! はい! はい!」と我先にと男子達が手を挙げている。
「じゃあ、田村」
と先生が田村を指差した。
「好きな男子、理想の男性のタイプはどういった感じなんでございましょうか?」と田村は明るく突き抜けたバカ面を見せて美華に聞いた。男子達がアピールしながら騒ぐ。
「はい、次の質問」と先生が言った。美華は苦笑してうつ向いた。田村は黙って額の汗を拭うと静かに席に座った。
「あのう、何処から来たんですか?」と亜美が質問をした。
「北海道の咲華から来ました。スゴく大きな街なんです」
「へぇ~、なるほどねぇ〜。 それは確実に良いところだなっ」と誰かが言った。全員、咲華が何処にあるかは全く分かっていないが感心した声を挙げていた。
「だから肌が白くて綺麗なんだぁ。透明感があるもんね」と亜美が美華の肌を見つめながら言った。
「趣味は何ですか?」とまた田村が聞いた。
「絵画、映画鑑賞、読書です」と生き生きとした声で美華は言った。
興味、好奇心、愛着。自分の好きなこと、好きなものに対して、誰しも内面から感情や情熱が溢れ出てくるもの。
美華は力の入った面持ちを崩した。ようやく緊張感から解放されたのだった。
「好きな画家はたくさんいますが、最近だと……そうですね、モディリアーニとフェルメールが好きです」それを聞いた僕は胸が熱くなった。
「好きな映画はなんですか?」手を挙げ指先を綺麗にピンと伸ばした佐登瀬都子は言った。
「好きな映画は、たくさんありすぎて選べないのですが、今の気分だと……昨年デジタルリマスター化もされて映画館でも再上映されました、クロード・ルルーシュ監督の名作『男と女』が気に入っています」と美華は映画内容を思い出したのか、顔を赤らめて嬉しそうな声で言った。
僕はバイトで貯めたお小遣いで1週間前に『男と女』の最新版のDVDを買って持っていた。もちろん僕もお気に入りの映画だった。僕は嬉しさのあまり堪えきれなくなっていた。
「ダ〜バ〜ダ♪
ダバダバダァ♪
ダバダバダァ♪」と気づくと僕は歌い出していた。
皆の視線が一斉に僕に向けられた。
美華は僕を見てニコッと笑いかけてくれた。
「竣、少しキーが低いんじゃないか? もうちょっと上げてみなさい」と先生が言うと皆が爆笑をした。
「竣、あははは! それさぁ、凄くおもしろ〜いっ! もう1回歌ってよ〜!」と亜美が僕の肩を目が回るほど強く揺すった。
「やめろよっ!」と言う僕の声を亜美は完全に無視をして更に強く揺すり続けた。
「亜美、目が回るって!」と僕は言った。
憲二は僕に訝るような視線を投げかけていた。僕はその視線の意味が痛いほどよく分かっていた。
「それでは…、う〜ん。あっ、そうだな。2つ空いた席があるが窓際の空いている席の方が良いな。
柏木さん、これからは、あの席が柏木さん貴方の席になりますからね。これから宜しくお願い致します」と先生は笑顔を浮かべて丁寧に美華に話した。
「はい、先生。こちらこそ、どうぞよろしくお願いします」と美華は一礼をすると僕から斜め前にある風が心地良く入る窓際の席へと着いた。
見とれてしまうとは本当にこの事だ。美華の、その美しさに男子が全員釘付けな状態にあるのだ。
僕は美華が髪を肩まで切っていた事に気付いていた。昨日とはまるで違って可憐な印象を受けていた。
「美華ちゃん、私は亜美です。よろしくねっ!」と亜美は言って持っていたノートをうちわ代わりに的な……、全然届いていないんだけども美華に向かって強く扇いた。大半の風は僕に当たっている。僕の目が乾く。とても乾く。僕のヘアスタイルも七三分けになりつつある。
「亜美、わかったから、もうやめなさいよ! ヘアセットが大変なんだよ」と僕は言った。
「亜美ちゃん、こちらこそよろしくね!」と美華は亜美に手を振った。
憲二は黙って美華を見つめていた。
憲二はノートを取り出して何かを書き始めた。小さく千切ると迷わずに僕に手渡した。
「なんだい?」
僕は紙を広げて読んだ。
『さっきの竣が描いた絵、モデルはあの娘だろう?』と書いてあった。
僕はバツが悪そうな顔をして頭を掻くと、黙って憲二に頷いた。
つづく
読んでくれてありがとうね!またよろしくお願いします!