開始だ!
愛する人を守るためには
犠牲になる必要がある。
瞼が軽くてハッキリと目が覚めた。時刻は午後4時10分だった。久々に爆睡出来て完璧に寝られた。
お陰でエネルギー満タンだし、頭がすっきりしすぎていた。久し振りのフルパワー状態だった。
あとは起きて腹を満たせば完璧だ。僕はベッドで体を伸ばした。
ジョンとミッシェルが動き回っていた。
「あらっ、起きてたの?」と僕は言ってベッドから降りるとジョンとミッシェルを抱っこした。
「クーン、クーン」と2匹とも甘えた声を出した。
床を見るとミルクと子犬用のドッグフードが置いてあった。たぶん、母、幸子が持ってきてくれたんだと思う。
「今晩はね、和雄爺ちゃんの所で、寝んねしなちゃいよ。騒がちくなるからねぇ~。和雄爺ちゃんの所は防音設備がバッチリだからねぇ。わかりまちたか?」
「わん、わん、わん!」とジョンとミッシェル同時に鳴いた。
僕はジョンとミッシェルを抱き抱えたまま茶の間に行った。
僕はのけ反った。茶の間にいたのは身長が170センチくらいの男が1人と、190センチはある筋肉男が1人いた。
小柄な男は坊主頭で徳の高い人に見えた。お坊さんの雰囲気はあったが、どこかヨレて見える部分もあったので、男の独特な眼差しが怪しくて仕方なかった。
心が読み取りにくいし、何を話して良いのか分からない感じの人に見えた。
となると、やはり、お坊さん関連なのかな? と感じながら僕は相手を観察していた。
筋肉男は無駄な筋肉ではなくて、研ぎ澄まされた、しなやかで質の良い筋肉をしていた。
何故か上半身が裸だった。僧帽筋が異様に発達していた。上腕二頭筋と外腹斜筋、大胸筋と三角筋がバランスよく鍛え上げられていた。僕は『バキバキだぜ!』と叫びたくなった。
スズ婆ちゃんと和雄爺ちゃんは談笑していた。母、幸子は夏奈子と美絵ちゃんと話していた。重苦しい雰囲気はなかった。
「いらっしゃい」と僕は男たちに言った。
「こんにちは」と男たちは言って僕に頭を下げた。
「お母様、こちらはどちら様ですか?」と僕はお上品にお母さんに聞いてみたのだが、答えがイマイチよく分からなかった。
「知らない人だよ」と言ったのだ。
「ふ〜ん……」と僕は返す言葉が見つからなかった。
「竣、なにも聞くな」とスズ婆ちゃんは言ってウインクをした。
「うん」とは言ってはみたものの、凄く気になる。
僕はベランダに行き、外の様子を見てみた。黒いスーツ姿の男たちが庭に2人いた。男たちの手には警棒のような物を持っていた。
庭の木に目を移すと、青い背広を着た1人の男が太い枝によじ登って双眼鏡で辺りを警戒していた。
庭先に出ている2人の男は、張り詰めた緊張感があった。
僕は玄関に行こうとしたら別のサングラスをした筋肉男が門番のように立っていて僕を見た。
「外に出たいのですが」と言って靴を履こうとしたら「すみませんが待ってください」と男は僕を制止して引き留めた。
男の左耳にはイヤホンがしてあって、何やら右手に持っている小さな送信器に向かって話し出した。
「外に出たいと言っています。はい、はい、分かりました。伝えます」
「すぐに家に戻ってきてください。5分だけです」とサングラス筋肉男は言った。
「分かりました。気分転換に1周りするだけですので」と言って僕は外に出た。
『スズ婆ちゃん!? あんたは一体何者なんだい?』と思いながら僕は家の周りをゆっくりと歩いた。
辺りは人気がなく静まり返っていた。
裏庭の横にある、通り抜けができるの扉の前に、ボディーガードの車が置かれていた。
侵入者が入れないようにするためだ。
ラインが届いた。
詩音だ。
『今日から1週間、発掘の旅に出るけど、昨日、ある人に連絡をしておいたから大丈夫。夕方の5時くらいには竣の家に着くみたいだよ。待っててくれ。夏奈子ちゃんに宜しく!』
『詩音、ある人って誰なんだい? ある人に宜しく伝えてよ』
『ある人はある人だよ。分かった、伝えとく!』
人の気配がしたので慌てて振り返ると短髪の男がいた。サングラスに黒のスーツ姿。身長が185センチくらいあった。
「心配ない。私は君のボディーガードだ」と言った。
「すみません。もう、家に戻ります」と僕は言って頭を下げた。
「そうした方が良い」
家に戻って茶の間に行くと人数が2人増えていた。2人は選び抜かれたスペシャリストの様で、スズ婆ちゃんの前の椅子に座っていた。話し掛けずらかった。
夏奈子と美絵ちゃんは座敷の畳を開けると地下に行ける部屋に移動したとのことだった。
父親の部屋とは、また別の地下の部屋だ。僕は地下の部屋の入り口を覗いてみたが、そこにも男が1人、門番をしていた。
合わせて計12人が家の周りや中にいた。ボディーガード、スペシャリスト、筋肉男、侍風な門番、背の低い坊主や、木の上にいる警護。後で、詩音が連絡をしたという『ある人』が来れば、13人か…。僕もボクシングの練習をして、奴等が来るのを待とうと考えた。
軽く食事を取って(おにぎり2個、お茶)、少し休んでから「爺ちゃん、爺ちゃんの部屋に行くよ。シャドーボクシングをしてくる」と僕は言った。
「良いよ」と和雄爺ちゃんは頷くとスズ婆ちゃんと話し出した。
母、幸子は鍋に熱湯、ポットに熱湯を沸かしていた。万が一のためにと熱湯を掛ける練習を繰り返していた。
時刻は午後4時44分。4は不吉な数字だが偉大な数字でもある。ここで、クイズです! 『4人揃わないと絶対に出来ない事とは、一体なーんだ?』チッチッチ……、ブッーブー! 正解はビートルズです。なーんて事を考えながら爺ちゃんの部屋でシャドーボクシングを繰り返していた。
「竣、奴等が来たぜ!!」と和雄爺ちゃんが部屋に入ってきて僕に言った。早い時間に来たので一気に緊張感が高まった。
茶の間に戻りベランダに行くと、自宅の門の前にライトバンが停車していた。中から大男が1人降りてきた。
門番の男が大男を留めていた。門番は手を出さないでいた。話をして説得を繰り返していた。
ベランダの側には僕とスズ婆ちゃんと和雄爺ちゃんが外の様子を見ていた。
母、幸子は、まだ、熱湯を掛ける練習をしていた。
庭にいる2人のボディーガードは待機して門番の様子を見ていた。敵は前からとは限らない。この場を離れたら、何処から来るのかは分からないため、庭にいて見ていた。
ライトバンに乗っていた大男が門番と話している間、ライトバンが動き出した。門番が慌てて車を止めようとした隙に大男は庭の中へと入ってきた。
庭にいるボディーガードの1人が大男の前に立ちはだかり身構えていた。
大男はニヤリと笑い癇癪玉を左のポケットから出して地面に叩き付けた。弾けた音が鳴り響く。
ボディーガードが頭を下げて足元を見た一瞬を大男は見逃さなかった。
右のポケットから取り出した砂をボディーガードの顔に掛けた。
「ぐわっ目が痛い!」とボディーガードは目を押さえて叫び、しゃがみこんだ所を大男は蹴りあげた。
ライトバンが凄い速度で門に近付いてくるのが見えた。門を突き破ろうとしているのだ。
門を警備していた男は、その場を離れて庭の中へと逃げてしまった。
「スズ、門の修理代は誰が出すの?」と和雄爺ちゃんは窓の外を見ながら言った。
「奴等に払わせるが、万が一の場合は和雄さんだよ」とスズ婆ちゃんは早口で言った。
「そうなるのは厄介だし御免だね……」と和雄爺ちゃんは肩を竦めて言った。
「奴等が私の花壇の花を踏みつけたら、ただじゃおかないよ!」とスズ婆ちゃんはキレながら外を見て言った。
願いも虚しく、ライトバンは、門、レンガ、花壇も壊して庭に突撃してきた。
助手席に笑いながら見ている青白い目付きの悪い優男がいた。相手にやらして、自分では犯罪に手を染めないのだ。ズル賢い奴だ。
僕は完全にブッ飛んでいた。シャドーボクシングをしながら外に出ようとしたら、スズ婆ちゃんも一緒にきた。
2人で庭に出ると、ライトバンから大男が2人降りてきたがボディーガードが1人だけで野球の帽子を被った大男を簡単にねじ伏せた。
もう1人の大男はニヤけながら僕の前に来た。
スズ婆ちゃんはゆっくりとライトバンの方に歩いていった。
つづく
ありがとうございました!




