midnight
真夜中を突っ走ろうよ♪
「竣、ありがとう。ご苦労さん。ところで、さっきから夏奈子の笑い声がよく響くねぇ。楽しそうだね」と母、幸子は冷や麦を水で冷たしてから丁寧に水気を切ると、大皿に移して言った。
「竣、あんた、自分の顔を見たのかい?」とお母さんは笑いながら言った。
「竣、鼻血を出して、なにやってんの?」とスズ婆ちゃんはオムライスの皿をテーブルに並べて言った。
「いや、これはね、青春の血潮だよ」と僕は両方の鼻の穴にティッシュペーパーを丸めて突っ込んだ。
「竣、妙に似合うねぇ。さすが元・ボクサーだけあるわ。美男子、ハンサムは何をしても似合うねぇ〜」とスズ婆ちゃんは笑いながら言った。
僕は皆から、よく『スズ婆ちゃんに顔つきがそっくりだね。似すぎだよ』と言われていた。
孫の僕から見ても若い頃のスズ婆ちゃんは本当にモデル、女優みたいで凄く綺麗だなぁと思っていた。
「竣、美絵ちゃんに卵のアレルギーは無いよね?」と母、幸子は言った。
「話していないから分からないなぁぁぁぁ。美絵ちゃんが風呂から上がったら聞いてごらんんんんんん」と僕は扇風機に向かって喋ったために、声が途切れ途切れになって聞こえた。
熱帯夜だ。暑すぎる。夏が燃えている。暑さに強いと自負する限り僕は笑顔で夏を乗り切りたい。
これから遅い晩御飯。冷や麦とオムライス。
美絵ちゃんの裸を何度も想像してしまう。見ていないから見てみたい。夏奈子め! 妹が羨ましいと思ったのはこれが初めてかもしれない。
夏奈子によると、美絵ちゃんのおっぱいは綺麗で乳首がピンク色をしていて、程よく大きいという情報だけは得ている。素晴らしい情報だ。
何時だったか、自転車にポメラニアンを乗せたオバサンの乳首は、茶色を越えてドス黒い色をしていて凄く怖かったのを不覚にも思い出してしまった。
僕も憲二も、しばらくオバサンの乳首の幻影に付きまとわれて苦しんだ苦い過去がある。オバサンの顔が乳首になっていた夢も見たことがある。夢では、もっと凄く恐ろしい色の乳首だった。
美絵ちゃんのおっぱいの情報を更に詳しく分析しなければならないと思う。
夏奈子から、それとなく話を引き出すのが得策だが「スケベ!!」と言われて弱味を握られる事になる可能性も否定できない。
なんとか上手く美絵ちゃんのおっぱいの情報を聞き出そうと思いながら先に晩御飯を食べていた。
もちろん、絵のためだ。裸婦を描くとき、胸を綺麗に描きたいと思うのは画家として当然の考えなんだ。
『好きな女の子、彼女の裸を見たいと思う健全な精神、気持ちを是非とも理解と尊重をして頂ければ幸いです』と僕は思春期特有のエロスに願をかけながら目を閉じた。
「あー、いい湯だった♪」と夏奈子が顔をピンクに染めて茶の間に来た。
「お風呂どうもありがとうございました! 良いお湯でしたぁ!」と美絵ちゃんも夏奈子の後から茶の間に入ってきて言った。美絵ちゃんも顔がピンクに染まっていた。綺麗だった。
「アハ、お兄ちゃん??、ティッシュを鼻に詰めて何やってんの?」と夏奈子はバスタオルで頭を拭きながら言った。
「エネルギッシュな情熱だよ」と僕は言って冷や麦を口に運んでいく。美味いね。冷や麦。
「美絵ちゃんも夏奈子も、シャンプーの匂いが良いねぇ。夏奈子、シャンプーは買い直したばかりだから、まだ中身はタップリあるよなぁ?」と僕は、さりげなく聞いてみた。
夏奈子はテレビを見ながらバスタオルで耳の穴を拭いていた。
「おい、夏奈子? 夏奈子? 聞いてるのか?」と僕は急き立てるように言った。
「お母さん、私も少しだけ何か食べたーい♪」と夏奈子は話を逸らして台所に行った。
「小さいオムライスがあるから、それを食べな。もう午後11時43分だから、軽い程度の夜食にしなさいよ。お菓子とか食べたら太るよ」と母、幸子は言ってオムライスを皿に移した。
「夏奈子、聞いてるのかよ?」と僕は言ってテレビを消した。
「ほら、夏奈子、お兄ちゃんが何か言っているよ」とスズ婆ちゃんは冷蔵から、沢庵漬けを取り出しながら言った。
「なに?」と夏奈子は僕と目を合わせないで言った。
「シャンプーはあるの?」
「あるよ」嘘こけ!! 怪しい返事だね。
「『容器があるよ』、とか言うんじゃないよ。シャンプー液だよ、中身の方を言っているんだよ?」
「ないよっ」と夏奈子はスプーンに向かって逆ギレ気味に言った。僕は麦茶を飲み干した。
「夏奈子! あんたねぇ〜、いい加減にしなさいよ! お兄ちゃんは、まだ、一度も使ってないんだよ! 水かさをしてないだろうね?」と僕は美絵ちゃんの前だから優しく、優しく怒った。
「水は入れていないけどリンスは入れたよ」
「お母さん、また夏奈子がシャンプーを溢しましたよー!」と僕は堪えてお母さんに言った。
「お兄ちゃん、ゴメン! 大丈夫、大丈夫だって!『二度あることは三度ある』って昔から言うじゃないの! 次は溢さないからさ、大丈夫! 任せとけって!! あのシャンプーと私は波長が合わないんだよ」と夏奈子は僕の肩を叩きながら言った。
【二度あったことは、三度目も必ず起こるよ。繰り返しちゃうよ】と言う言葉の意味を夏奈子は知らずに使ったようだ。
「……」僕は言葉に詰まったので、怒る気力も消え失せた。
今は必死に怒りを抑えなくちゃならない。美絵ちゃんのおっぱいの情報を夏奈子から聞き出さなければならないのだからな。『夏奈子を追い詰めるのは、止しておこう』と自分に厳しい崇高な判断をした。
美絵ちゃんのおっぱいのために忍ぶしかない。
「しょうがない」と僕は言って話を終わらせることにした。
夏奈子は肩透かしを食らったような顔をしていた。
「風呂上がりの美絵ちゃんも綺麗だねぇ〜。ほれ、冷や麦とオムライスを食べなさいな」とスズ婆ちゃんは言って美絵ちゃんをテーブルに座らせた。
「どうもありがとうございます。いただきます」と美絵ちゃんは手を合わせて言った。
廊下を走る音がする。
「竣、コーラスを入れるのを手伝ってくれよ! 後はコーラスを録音すればバッチ・グーだからさ。夏奈子も参加してほしい」と和雄爺ちゃんは少年のように瞳を輝かせて、ギターを右手に持ちながら茶の間にやって来て言った。
「あはっ!! 美人の美絵ちゃんがいる! いらっしゃ〜いっ!!」と和雄爺ちゃんはデレデレしながら頭を下げて言った。
「お邪魔しています!」と美絵ちゃんは笑って頭を下げた。
「よし! 燃えてきた!! スズ、幸子、2人ともコーラスに参加しておくれよ! 美絵ちゃんもね」
「何を歌うの?」と僕は聞いた。
「『ヘイ・ジュード』だよ。ヘイ・ジュード〜♪」と和雄爺ちゃんはポール・マッカートニーを真似て軽く歌った。
「深夜に大声で歌うのは近所迷惑だよ」とスズ婆ちゃんは注意をした。
「いいじゃんかよ〜っ!!竣たちだってさぁ、深夜なのにさぁ、飯を食っているじゃんかよ〜!!」と和雄爺ちゃんは地団駄を踏んで言った。
「爺ちゃん、それとこれとは話が別だよっ! 私は夜更けに歌いたくなんかないのよ!」とスズ婆ちゃんは仁王立ちをして和雄爺ちゃんを諭した。
「防音設備は完備しているだろうがよ! ビートルズのレコーディングは深夜に多く行こなわれていたんだよう!」と和雄爺ちゃんは粘って言った。
「それはビートルズだからでしょう? 皆、疲れているのがわからないの!? 明日にしなさいよ! 明日なら構わないから」とスズ婆ちゃんは一歩も引かずに言った。
「いいじゃんかよ!! 今、波みに乗っているんだよ! 波がいつ来るのか、次は分からないんだよ」と和雄爺ちゃんは声を荒げて言った。
「デモテープを作ってどうするの?」
「送るんだよ」
「何処に? 女にかい?」
「女はお前だけだよ!!」
「何処に送るの?」
「オーディションだよ」
「あんたね、いい加減にしなさいよ!!」
「ミュージシャンになるんだからさ、止めるなよ!!」
「はぁ〜っ」
「スズ、ため息なんかついてどうしたの?」
「これは、あんたに対してのため息だよっ! たく…」
「夏奈子、どう思う? 同じミュージシャンとして何か一言だけ言ってくれよ」
「私…」と美絵ちゃんが話を遮った。皆、一斉に美絵ちゃんを見た。
「私、いくつになっても夢を持ち続けている人って、素敵だと思います! 私はコーラスに参加したいです! でも、スズ婆ちゃんの言う通りに明日にしてはいかがでしょうか? それだったらスズ婆ちゃんもコーラスに参加しますよね? 大丈夫ですよね?」と美絵ちゃんはスズ婆ちゃんに向かって言った。
「そうだね」とスズ婆ちゃんは頷いた。
「私もその方がいいと思うよ。父さんの情熱は十分に伝わったからさ」と母、幸子は言った。
「明日なら良いよ!!」と夏奈子も腕を上げて大きく丸を作って言った。
「そうだな…。深夜に嫌々歌うのは良くないよな。誰かが嫌がったりするのは見たくないしな。深夜に家に訪ねてくるほど迷惑な話はないというのと同一されたら敵わんからな」と和雄爺ちゃんは言って納得をした。
「分かってくれたなら、それでよろしいよ。明日なら私も参加するよ」とスズ婆ちゃんは深く頷いて言った。
「ヨロシク! 頼むな」と爺ちゃんはスズ婆ちゃんに言った後にギター弾こうとした。
ピンポーン!
インターフォンが鳴った。深夜に誰かが来た。
つづく
ありがとうございました♪




