思わず別れの挨拶
本日は、『君が恋しくて-ブレッス・ユー』を聞きながら君の姿を描きたい-』祝・60話目です!!
長らくお待たせ致しました。楽しんでくださいね。
これからも宜しくお願い致します。
僕はソファーに座ってテレビを眺めた。ニュースキャスターが神妙な顔をしてニュースを読み上げた。
『今、入ってきたニュースです。鷹岡狩猟会の佐々木卓弥さん(56歳)とギブ・ピース研究所のリーダー佐登加未憂さんの2人が南弐梦山で行方不明になりました』
僕は思わず立ち上がった。
『南弐梦山の麓で警察隊200人、特殊部隊350人、陸軍550人、等が合わせて1000人以上が捜索、大規模な探索に出動していると言うことです。
これは前代未聞ですよね? 解説者で評論家の但野満(ただのみつる・58歳)さんにスタジオに御越し頂いております。
但野さん、これは、ちょっと考えられない規模になっていますけれども、どうお考えになりますか?
なぜ、これほどまでの人数が必要なのでしょうか? あとですね、現地に取材に行っている、川田さんによりますと厳戒態勢との事で、規制線が貼られているそうです。取材そのものも難しい状況とのことなんですよ。但野さんは、これについても、どう思いますか?』とアナウンサーが言った。
『今回の件について私は何も知らないね。本当に奇々怪々な出来事としか言えないですな。以上です』と但野満さんは短いコメントをした。
スタジオが一気に凍りつく。アナウンサーも黙って但野満さんの次の言葉を待っていた。
『私が逆に聞きたいのですよ。なぜ僅か2人の人間のために特殊部隊までを含めた大捜索をしているか?
これはただ事ではないと私の直感が働いています。色々と私の耳にも噂が入りますからね』と但野満さんは少し言葉に熱が帯びてきた。
『と言いますと?』とアナウンサーは話を促した。
『最近ね、山が地鳴りを繰り返して騒いでいるという話が現地の人の間で囁かれているのですよ。妙な光が空に明滅したり、または人の形をした奇妙な生き物が夜道に出没するなどの多数の目撃情報が私の方にも届けられています。
その件については、最近、始めました私のブログやツイッターに私個人の見解を、詳しく書いているので見てね。私のですね、ブログのタイトルはですね、『知らないふりして生きられないから、分かったふりして生きずらいけど、見て見ぬふりは結局自分に返るみたい』ですので、是非とも、よろしく頼みますね!』と但野満さんは神妙な顔をしながら画面に向かってピースを見せた。
国営放送NHJでだ。アナウンサーは困り果てた顔で但野さんの話を聞いていた。
僕は黙って画面を見ていた。気づくと、いつの間にか美華ちゃんが僕の傍にいた。
「瀬都子は大丈夫かな? 電話かメールをした方が良いかな?」と美華ちゃんは言った。
「今はよそう。何かあれば瀬都子の方から掛かってくるさ。そっとしておいてあげよう」と僕は美華ちゃんに連絡を控えるようにお願いして言った。
『ここで現場との中継が繋がっていますので。呼んでみたいと思います。現場の川田さ〜ん、今のところはどう言った状況が続いていますか?』
『はい、こちら川田です。そうですねぇ〜、現場は重苦しい雰囲気に包まれております。取材もあまり上手く言っていないのが率直な所ですね〜。
警察隊に何名かの怪我人が確認されていまして、救急車が30台ほど山道に並んでいる状態です。時折、近くで銃撃による乾いた発砲音も聞こえていますので、こちらとしましても、全く予断が許されない状況を感じています。
照明灯がですね、何台も設置されていましてね、非常に辺り一帯は明るいですね。例えるならば、ナイターの野球場を思い浮かべて頂きますと話が分かりやすいと思います。それとですね、写真や映像の許可が下りなかったのですが、先程ですね、今まで見たことのない部隊が現地に現れとの情報が入りました』と現場取材の川田さんは緊迫した顔をして話していた。
川田さんは左耳のイヤホンが取れたので慌ててイヤホンを耳に掛けた所でアナウンサーが話し出した。
『川田さん、《謎の部隊》とは一体、どんな印象に見受けられましたか?』
『それがですねぇ〜、ここの立ち位置だと遠目なものですから、確認が難しかったんですよ〜。自衛隊でもないですし、私としては、ちょっと、判断が難しいですねぇ〜。なんとも言えないです。ただですね、見た限りだと全身が《青い忍者》というか、メタリックな青という感じでしたね〜』と川田さんは持っている手帳を広げて読みながら話していた。
『もっと具体的にお願いできますか? 青い忍者?』とアナウンサーが粘って話を引き出そうとしていた。
『なんとも……。別の取材で来ている方に話を聞きましたところ、部隊の人数がですね、300人近くはいた模様なんですよ。武器らしい物はあまり所持しているようには見えなかった、とも言っていましたね』と川田さんは寝苦しい熱帯夜にも関わらず落ち着いた様子で現場の状況を伝えた。
『川田さん分かりました。ありがとうございます。川田さん、また、何か動きがありましたら、中継を繋げますので、宜しくお願い致します』
『はい、分かりました。ありがとうございます』
『以上、現場の川田さんでした。但野さん、これは何だと考えられますか? しかも深夜にですよ』とアナウンサーは厳しい表情を浮かべて但野さんに質問をした。
『う〜ん。私としましても、噂の範囲ですから、確証の無いことは迂闊に言えん立場なのですよ。ただしですね、《青い忍者》というのは聞き捨てならんですな〜。しかも、300人態勢ですよねぇ。普通の捜索ならこの時間帯には絶対にあり得ない人数ですよ』
と但野さんは困った顔をして目を閉じたまま腕を組んで言った。
『但野さん、言える範囲で結構ですので、ぜひ何か一言でも構いませんので、お願いします』とアナウンサーは言った。
『実はですね……青……』
バチンッ!!
突然テレビ画面が真っ暗になって切れた。
少し経過してから画面が映ると、そこには、
『只今、画像が乱れております。今しばらくお待ちください』
との文字と、チューリップと戯れる3匹の可愛い子犬ちゃんの映像が繰り返し流れていた。
バックでは音楽が流れていた。トイレで大をしている時に流れてきそうな味気ない、間抜けなコメディー風のピアノによるメロディーだった。
「美華ちゃん、なんだこれは!? どうしたんだろう?」と僕は鳥肌が立ったまま、美華ちゃんに聞いた。
「ヤバイことを言いそうになっていたから、上からの圧力で、すぐに画面が消されたんじゃないのかな? 今時、今の時代に、まさか、こんな事が起こるなんてあり得ないことだしさぁ、民主主義の国では信じられない事だよねぇ」と美華ちゃんはかなり驚いた顔をして言った。
「あっ、瀬都子から電話が来たよ!!」と僕は言って電話に出た。
「瀬都子、大変な事になってしまったね。お父さんの加未憂さんは大丈夫かな?」と僕は言って黙った。
「分からない。けど、たぶん、大丈夫だとは思う。竣くん、迷惑をかけてごめんね。テレビを見ていた?」と瀬都子は静かな声で言った。
「見ていたよ。瀬都子、《青い忍者》みたいな部隊って何か知っているかい?」
「うん。知ってるよ。前にも言ったけど、父は国家機密をよく私に簡単に話してくれてね、『絶対に外には漏らすなよ!』と言われて育ってきたのよ。だいたい、10〜20件くらいは聞いてきた。
《青い忍者》はエリート中のエリートでね、超が3つ付くほどのエキスパートでプロフェッショナルな、超超超・本物極秘秘密戦隊組織集団でね、あまり言えないけど、『狙った獲物は逃さない』、『私達の力を見くびるな』というコンセプトで展開している大規模な秘密組織なのよ。一説には……」と言った所で瀬都子は言葉に詰まった。
「大丈夫?」と僕は言った。
「ええ、南弐梦山でお父さんが言っていた『スペース・J・戦隊』とは関係ないのよ。一説には、それよりも、もっと高度な組織なんだってさ」と瀬都子はあっさりと機密を漏らした。
「瀬都子、もう僕達が出る幕ではなさそうだね。力になれたら嬉しいけどさ」と僕は言った。
「そうだね。お父さんも私達の事はオフレコにしてくれたからね」
「今後についてはどう考えているの?」と僕は聞いた。
「そうね。今は父の無事を祈るのみだけど、将来について言えばね、私も色々と出来る範囲で父の仕事を引き継ぎたいかなぁ。機密を聞いて育った子供なんて滅多にいないじゃない。あははは。面白そうだしさ。父は必ず戻るよ」と瀬都子は言って、ありがとうと告げると電話を切った。
僕は美華ちゃんに今聞いた瀬都子の話をすべてを話した。
美華ちゃんに聞いて貰っているうちに、僕は安堵が胸に広がってきた。意思の強い美華ちゃんの心には、まだ僕が知らない未知なる世界が存在しているように感じていた。
全てを見通し、見透かす眼差しが美華ちゃんにはあった。踏み込めないその訳を知りたかったが、知ってしまうのを恐れてもいた。
夏奈子がジョンとミッシェルを抱き抱えて茶の間にやって来た。
台所では『料理をしているはず』の母、幸子はスズ婆ちゃんとの話に夢中になっていて手を休めていた。
母、幸子の話を聞きながら返事を返して笑ったりするスズ婆ちゃんは、茶碗やコップ、お皿を、鼻歌を歌いながら洗うという器用な事をしていた。
和雄爺ちゃんがデモテープを制作しているために、時おり聞こえる歌声。時刻は夏の夜、午後11時を越えていた。
◇◇◇◇◇◇◇
結局、ニュースの画面は戻らず、替わりにダイエットの番組が放送されていて、丸々と太った夫婦が汗まみれで、三段腹を揺らしながら懐かしのランバタを踊っていた。
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その後について明確に答えなければならない。
結論から言うと、佐登加未憂さんは5時間後に無事に保護された。
逃げた宇宙人1人を、森の深くまで追いかけて、宇宙人の背中に触れる所まで迫ったのだが、捕まえることが出来なかったとの事だった。しばらく追い掛けると開けた場所に出れて、巨大な宇宙船があったので、加未憂さんは心臓が飛び出すほど驚き、怯えてたじろいだようだ。
宇宙船の窓を見ると、加未憂さんに手を振って別れの挨拶をする宇宙人の姿が見えたそうだ。
加未優さんも思わず宇宙人に手を振ってしまった。話によると、窓は数えるだけども一苦労で、その数、およそ300の窓があったとのことだった。
加未憂さんは宇宙船に向かって「あんたら本当に危ない奴等だし、俺はもうチビったし、凄い怖いからさ、もう二度と地球に来るなよ〜っ!」と叫んだとのこと。
『誰が加未憂さんを保護したのか?』については、加未憂さんはノーコメントだった。
鷹岡狩猟会の佐々木卓弥さんについては、途中まで、加未憂さんに走って追い付いていたが、3メートル程の深さがある穴に落ちてしまい身動きできずにいた。
涙を堪えて空に向かって助けを叫んでいたところに、捜索していた特殊部隊、数人によって無事に発見されたとのことだった。
つづく
ありがとうございました!




