Nobody told Me
謎めいた人工的なスペースに辿り着いた、竣、美絵、憲二、亜美、瀬都子、梨香。一体ここは何なんだ?
僕と憲二と詩音は立ち上がった。異様な生物、異星人のように見える人たちは顔色を1つも変えずに僕らを見ていた。
身長は165センチ前後くらいで、目は大きくて、感情を露にしない表情をして狡猾な顔をしていた。
3人の性別不明な生き物たちは銀色のをスーツのようなものを着ていた。映画やドラマに出てくるスタイル、と言いたいところだが、ハロウィーンで仮装している若者の姿にも見えた。
異星人のような奴等の特徴は、トカゲのような顔つきの奴、蛇のような目つきをした奴、コブラみたいに威嚇をしている奴だ。
3人に共通しているのは黒目がちの大きな目だ。
「とりあえず、話し掛けてみる」と僕は言った。憲二と詩音は頷いた。
「おい! 宇宙人か異星人かの、よく分からんどっちかの奴らどもよ。何でここにいるんだ? 目的は?」と僕は質問をしてみた。
3人組の反応は皆無、一言もなかった。ただ、黙ってこちらを威嚇するように見ているだけだった。
「無視かよ。非友好的」と僕は憲二と詩音に言った。
「詩音、これはコミニュケーションが出来ないぞ。何かコンタクトが取れる方法はないのかな?」と僕は詩音にアドバイスを聞いた。
「映画だとね、音には反応するみたいだから物を叩いてリズムを取ったりする方が、何か突破口があるかもしれないよ」と詩音はあらゆる選択の中から先ずは1つを選んで話した。
「やってみる」僕は手を叩いてみた。
宇宙人(定かじゃないが宇宙人と呼ぶ)たちは腰を屈めて警戒していた。憲二と詩音も手を叩き出した。
宇宙人たちは僕を睨み付けて身構えていた。
「反応はしているけどイマイチだな」と僕は言って手を叩くのを止めた。
「俺が話してみるよ」と憲二は言って前に出た。
「やあ。僕は憲二。君達の名前は何ですか? 良かったら、名前とメールアドレスを教えてくださいね」と憲二は謙虚に頭を下げて言ったが、宇宙人たちはその質問にも答えず体を揺らし始めた。
「また無視とは酷いな。マズイ事を聞いたのかな?」と憲二は言ってから後ろに下がった。
「おい! あんたらは、一体何者で何の用があるんだよ?」と詩音は大声を出した。
宇宙人のうちの1人、トカゲ(トカゲの顔に似た奴)が腕をこちらに向けると、僕らの方に向かって足音を立てずに歩き出した。
『握手かな?』と一瞬思って気を抜いたのがいけなかった。宇宙人、トカゲは憲二に向かって襲い掛かってきた。
憲二はトカゲの腹を目掛けて回し蹴りをしたが、トカゲに脚を取られて地面に倒された。
トカゲは初めて奇妙な笑顔を浮かべた。泣き顔にも似た笑顔だった。
「クソッ」と憲二は叫んでトカゲの脚を蹴る。トカゲは後ろに下がって、憲二の脚をもう一度掴もうとした。
詩音が助太刀でトカゲの顔を殴り付けた。よろめいたトカゲは仲間に合図を送ると、もう一人の宇宙人、蛇(蛇の目に似た奴)が詩音に飛び掛かってきた。
間一髪、詩音はかわすと蛇のお腹を飛び蹴りを食らわせた。蛇は「グフッ」という声をあげた。
「詩音! 手応えは?」と僕は叫んだ。
「ない!」と詩音は答えた。
今度は憲二が蛇の首をロックして、そのまま走り地面にジャンプをした。蛇の体は地面に倒された。
プロレスの技だがさっきよりは効果有りか?
「憲二! 今度はどうだ? 手応えはあったか?」と僕は叫んだ。
「分からん!」と憲二は叫び返した。
今度は詩音が蛇の腕を取り、一本背負いをして地面に叩き付けた。
「グワッ!」と蛇は苦しそうな声を出した。
詩音はそのまま馬乗りになって何度も蛇の顔を殴り付けた。
蛇は右手で詩音の顔に砂をかけた。
「うわっ!! 見えない!!」と詩音は体を起こして飛び退けた。
蛇の動きが早くなった。素早く起き上がって、詩音の顔を強く殴った。詩音は後方に2メートルほど吹っ飛んだ。
僕はフットワークからファイティングポーズを取って、コブラに似た宇宙人と激しく睨み合った。
嵐の前の静けさ。身動きしないでお互いの出方を窺う。
コブラは腕を広げて笑いながら素早く僕に襲い掛かってきた。
僕の顔に殴り掛かる。
速い。速いパンチだ。僕は何とか、かわしたが、微かに口にパンチが当たった。唇が切れた。僕は右のパンチをコブラのアゴに繰り出した。
コブラが後ろによろめいた所を僕は左右の連打パンチを素早く浴びせた。
コブラは動きを止めて、両手で自分の顔をガードして守っていた。
僕はガードの隙間を目掛けて強いパンチで顔を殴り続けた。コブラの顔に苦悶の表情が浮かぶ。
僕の闘争本能には火がついていた。もう本気で戦うことしか頭に無かった。
コブラは僕の腕を掴むと横に投げ飛ばした。僕は転がるように地面に倒れた。
体が痛い。言葉には出せない。必死に戦っている憲二と詩音に悪い。
僕はサウスポーに変えると円を描くようにコブラの周りをフットワークする。
素早くコブラの顔を一発強く殴った。コブラは倒れた。僕はコブラのお腹をこれでもかというほど強く殴った。コブラはグッタリして動けなくなった。
憲二の叫び声が響き渡った。僕は振り向くと、憲二は蛇に首を締められた状態で吊し上げられていた。
詩音がすぐ蛇の背中に忍び寄って、逆にスリーパーホールドで蛇の首を締め出した。蛇は慌てて憲二を地面に落とした。
憲二は転がりながらその場を急いで離れて自分の首を擦った。
詩音の目は水中メガネをしないでプールに潜った後みたいに充血していた。
「やられる前に倒さなきゃならないぜ!」と詩音は叫んだ。蛇はもがき出したが詩音を背負い投げた。
詩音は前に転がって倒れ込んだ。
その隙に蛇が詩音に飛び掛かった。
ヤバイと僕は思った。
瀬都子が詩音と蛇の間に立っていた。
「おい? 何してるんだ? 瀬都子!! 危ないぞ!!」と僕は叫んだ。
瀬都子は構えてブーメラン手裏剣を飛び掛かる蛇に目掛けて思いっきり力強く投げた。
「ギィーーーーー!」と蛇は叫んだ。蛇の左目に刺さったのだ。
「悪い奴は地獄へ行きなさいよ!! 絶対に許さん!」と瀬都子は叫んでから残り6枚のブーメラン手裏剣を手に持ち格好いいポーズを決めた。
「助かった」と憲二は言って立ち上がった。
のたうち回っている蛇は左目に刺さったブーメラン手裏剣を自分で引き抜いた。
蛇の左目から紫色の血が流れていた。
だが瀬都子はお構い無しにもう一度、素早くブーメラン手裏剣を同じ場所に目掛けて投げた。
またしても蛇の左目に深く刺さった。
「ガアーーー!!」と蛇は叫んで素早く瀬都子の元に移動すると、瀬都子の顔を強く殴った。瀬都子は後ろに吹っ飛んでしまった。
「瀬都子ー!!」と僕は叫んだ。美絵ちゃんと梨香と亜美が瀬都子の元に駆け寄ってしまった。
(マジでヤバい)と僕は思った。
蛇は素早く美華ちゃんの側に行くと美華ちゃんを投げ飛ばした。
亜美と梨香が蛇の脛を蹴り続けていた。蛇は亜美のお腹を蹴り飛ばした後、梨香の首を締めようとしてきた。
僕はキレた。リミットが完全に越えたのだ。
「詩音、あっちを頼む」と僕はトカゲを指差した。
僕はボコボコにしたコブラを放り出して、美絵ちゃんを投げ飛ばした蛇の元に急いで走った。
美華ちゃんは苦しそうに動けずに倒れていた。
瀬都子は鼻血を出して地面で呻いていた。
梨香は額を押さえて苦しんでいた。
亜美は憲二を抱えていた。詩音はトカゲとニラみ合いをしてから激しく殴り合っていた。
僕は美華ちゃんを投げ飛ばして梨香の首を絞めている蛇の頭を後ろから強く殴った。
蛇は体を揺らしながら梨香を手離した。
梨香は皆の元に駆け寄り自分の首を擦った。
蛇は怒りの目で僕を見ていた。
「相手が誰であろうとも僕に脅しは効かない」と僕は蛇に静かな声で言った。
それでは、こちらから先制攻撃だ。僕は蛇の顔を、今までに無いほどの強力な連打パンチを浴びせた後、ボディブローをしてから得意のアッパー・カットで殴り倒した。蛇が倒れた所を更に殴り続けた。
久しぶりに凄く良いパンチだった。現役に戻ったみたいだ。蛇は中々、起き上がれずにいたが、僕の顔を強く睨んでいた。
「文句があるなら何か言えよ」と僕は見下ろして言った。
蛇の口から濃い紫色の血が溢れてきた。蛇は僕のパンチで完全にダウンしている状態だった。起き上がれないだろう。
僕は詩音の元に向かって歩いた。
詩音はトカゲと取っ組み合っていた。
トカゲが僕に気づき怯え出す。だが時すでに遅し。
僕はファイティング・ポーズを取って「掛かってこいよ」と言った。
詩音はその場を離れて、美華ちゃんたちの元に行った。
「コノママデハスマナイゾ」とトカゲは狡猾な笑顔を浮かべて言葉を話した。
機械を通した声に似ていて声自体にも無機質さが漂い、金属音に似た味気ない声質だった。
「それはどうかな? 甘く見ない方が身のためだよ」と僕は自分の中でトカゲを倒すシミュレーションをしながら冷静に言った。
「コロス」と宇宙人、トカゲは威勢よく言って僕に飛び掛かってきた。
僕は滅多に本気を出さないが今回は本気で左のコーク・スクリュー・パンチを出して蛇の顔面を捉えて1発で仕留めた。
トカゲの鼻を完璧なパンチで捉え陥没させたのだ。
トカゲは後ろに倒れて意識を失った。
僕は美絵ちゃんの傍に駆け寄ると美絵ちゃんの頭を抱き抱えた。
「美華ちゃん、大丈夫かい? 美華ちゃん?」と僕は言った。
「う、う〜ん」と美華ちゃんは言って目を覚ました。
「竣くん、大丈夫?」と美華ちゃんは僕の体を心配そうにして言った。
「ああ、大丈夫さ」と僕は笑顔を見せて答えた。
「瀬都子は?」
「亜美と梨香が介抱しているよ。大丈夫」と僕は瀬都子の様子を確認しながら言った。
「詩音くん、憲二は?」と美華ちゃんは体を起こして言った。大丈夫とばかりに憲二は手を振って答えた。
僕は詩音を見てみると、詩音は瀬都子をおんぶしようとしていた。僕は詩音の元に行った。
「詩音、大丈夫かい?」
「ああ、大丈夫だ。瀬都子が凄く重くて」と詩音は言ってよろめいた。
「ちょっと! 詩音!」と瀬都子はむくれて詩音の頬をつねった。
「瀬都子、大丈夫?」
「うん。ありがとう」
突然、10メートル先にある穴から5人組の170センチほどの異星人が現れた。
倒した3人の宇宙人とは別な姿をしていた。
倒れている宇宙人の体はホワイトだが、現れた異星人たちの体はシルバーだった。
異星人たちは顎が小さいせいなのか口が無いように見えた。
「おい、コイツらは一体何なんだ!?」と詩音は驚いて言った。
「分からない」と僕は穏やかに言った。
5人組の異星人は、あまりにも奇怪で葬式に行くような物悲しい姿だった。
僕も詩音も憲二も身構えた。
5人の異星人たちは倒れている3人の宇宙人たちをかき集めて宇宙人の胸辺りに手をかざした。
倒れていた宇宙人達は無音な状態で宙に浮かんだ。
「これはとんでもなく、信じられないほど、最強にヤバイ」と僕は目の前の光景に驚愕していて小声で呟いた。
「どうする?」と詩音は言った。
「全く分からないよ」と僕は言って立ち尽していた。ある種の奇跡を目撃した瞬間でもあった。
僕らは無になりかけていた。頭が真っ白で何も思い浮かばないのだ。
5人の異星人たちは、僕たちに顔を向けると左腕にある銀色の腕輪を捻った。
5人の異星人と3人組の宙に浮かんだ宇宙人が一瞬にして消え去ってしまった。
つづく
ありがとうございました☆




