闇に見える光の中に僕と君がいる
僕の体には力がみなぎっていた。『詩音を必ず助け出す!』という考えだけしか頭になかった。
皆の目には力があった。詩音が暗い洞窟で独りぼっちで怪我をしながらも耐えていると思うと辛い気持ちになっていた。
洞窟の天井が所々低く狭まっていたり、唐突に高くなったりしていた。
相変わらず、壁や地面には見たこともない虫が動き回っていた。
例え新種の虫がいたとしても、僕には新種の虫の価値を見出だすだけの昆虫の知識がないので、場違いな自分が、脇目もふらずに、虫を無視して歩みを進める事の後ろめたさが多少はあった。
今は気持ちにゆとりがあるのか、雑念に支配されているようだ。普段なら昆虫なんて気にも留めない。
僕の歩くスピードは変わらないでいた。
バランス感覚が掴めてきた。体と筋肉のぎこちなさが消えていた。
洞窟での体の動かし方に慣れが出てきた証拠だ。
集中力を持続させて、詩音を見つけ出さなければならない段階に来ていた。
「おや!? 誰かいるかもしれない……。今、声が聞こえなかったかい?」と僕は懐中電灯の明かりを声のした方へ向けた。
「たぶん、天井で逆さになっている、お馴染みのコウモリの鳴き声だよ」と梨香は言って眉間にシワを寄せて、照らされた場所を睨んでいた。
「鳥じゃないの? 鳥っぽかったよ」と亜美は首をひねりながら言った。
「僕も鳥だと思うなぁ。鳥じゃないのか? ファー、ファー、と鳴いたよね? 反響しているから綺麗に聞こえたけども」と憲二は目を細めて僕を見つめた。
「先に進んでみましょうよ」と美華ちゃんは僕に促した。
羽ばたきの音が近い。皆は声を出さずに身を固くしていた。鳥なのか? 洞窟に鳥は住んでいたっけ?
まただ、羽ばたきの音が僅か2、3メートル近くから聞こえてきた。僕は懐中電灯を照らしながら歩いて行くが鳥? 未確認の生物? は僕らの気配を感じたのだろう、どんどん奥へ奥へと逃げているようだ。
「皆さん、あれは伝説の怪鳥『モンスターバード』かもしれないですよ……」と瀬都子は目を大きくして言った。瀬都子の顔が、ちょっとシリアスすぎて怖かった。
「『モンスターバード』はヤバイよね! 皆、引き返そうか?」と梨香は怯えながら言った。
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『モンスターバード』とは、今から5年前に、ある親子が登山旅行に来ていた時の話だ。
父親が2人の息子たちと手を繋いで楽しく山に登っていた。
親子が頂上付近に着いた時、突然、空から黒い大きな鳥が現れた。
「この世で見たこともないほどの大きさだったよ」と後に父親は新聞の取材で答えた。
鳥は空を旋回しながら、ゆっくりと親子を目掛けて急降下して飛んできた。
父親は鳥が近づいて来る度に、その異様なまでの大きさに驚愕した。父親は鳥が長い爪で狙いを子供たちに定めているのが分かったので、子供たちを体の後ろに隠した。
鳥が迫る。
父親が立ち向かう。
鳥が父親に襲い掛かる。
父親は大きく開いた鳥の口に目掛けて野球のボール程もある大きな石を全力で投げ込んだ。
鳥は石を飲み込んで鳴き叫びながら落下していくと地面に叩き付けられた。
鳥は翼を広げた状態で地面に突っ伏していた。
父親が大きさを測ってみると両翼を合わせると約7メートル近くもあった。
父親と子供達はすぐに下山をして、地元の警察と猟師に連絡をした。
モンスターバードの顔付きは不気味だった。写真や動画を撮った後に「皆で食べてみようぜ!」という話になり、山の麓のキャンプ場で30人も集めて、モンスターバードを焚き火で葬り、焼き鳥にした。
その後、実際にモンスターバードの写真が世間に出回った時の反響は大きかった。
「生け捕りにすれば見せ物になった」
「見たことのない鳥だ! 残念な結果だ」
「プテラノドンの生き残りじゃないのか? 古代の生物にある特徴が多数見受けられる。実に勿体ない結末だ」という学者や専門家の意見が多かった。
一方の父親は、
「まず何よりも子供達が無事で本当に良かった。どんな味がしたかって? ジュージでね、塩加減のいい鶏肉みたいな味だったよ」と父親は言っていた。
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「モンスターバードは絶対にいるよ」と憲二はシビアに言った。僕もそんな気がしてきた。
「しっ! この先の天井にも何かいるみたいだぞ!!」と憲二はしゃがみ込んで言った。皆も一斉にしゃがんだ。
僕は懐中電灯を洞窟の天井に当てた。
無数コウモリだった。落ち着かない様子で鳴き声を出していた。さっきの羽ばたきはコウモリだったのか? いや、違う。あれは大きな羽音だった。鳥のようだった。
「皆、コウモリが襲ってくる前にダッシュで駆け抜けるぞ!」と僕は言った。
僕らが懸命に早足で駆けている時だった。
後方から何かを叫んでいる声が聞こえて、近づいて来る気配があった。
僕らは一旦立ち止まって耳をすませた。
距離にして10メートルの範囲内にいると思う。皆は恐怖からざわめきはじめた。
「しっ。静かに。懐中電灯を消す。今から小型のペンライトを使う。声を出さずに。足早に慎重に前に進むぞ」と僕は言った。皆は声を出さずに頷いた。
僕らはその場を立ち去るようにして小走りをした。
後ろから近づいて来るのが嫌でも分かっていた。冷や汗が額と背中に滲み出してきた。
前に進むしかない。得たいの知れない何かが確実に僕らに迫っていた。
「よし、走るぞ!!」と僕は言った。皆は必死な顔をしていた。恐怖で声が出せないでいる。マズイ状況になってきた。早く詩音を無事に見つけてこの洞窟から逃げ出すしかない。
開けた場所が前方にあるのが確認出来た。
見えてきた。やっとの思いで開けたスペースの入り口に辿り着いた。
学校の体育館よりも広い場所になっているようだ。空間スペースが十分にあった。天井も凄く高かった。
うまく言えないけども、円形のコンサートホールのような場所にも似ていた。
地面はグラウンドの砂ように整備されていた。
『なんなんだ? 一体ここは何だろう?』というのが最初に思った率直な感想だった。
この場所は明らかに人工的で人の手が加えられていた。
微睡むような間接照明の光が壁や天井から差し込んでいた。空気が澄んでいて呼吸がしやすかった。皆の顔や姿がハッキリと見えていた。
「ここは一体なんなのかしらね?」と美華ちゃんは戸惑いながら言った。
「わからんね。悩むよ」と僕は殺風景すぎて途方に暮れながら言った。
「とにかく、あの大きな岩の後ろに隠れましょう」と梨香は向こう側の岩を指差して言った。
「そうだな。そうした方が良いな」と僕は答えた。
「おい、急ごうぜ!」と憲二は岩に向かって走り出した。
「竣くんよ、私、怖くなってきました。これからどうしましょう?」と瀬都子は体を震わせて言った。
「大丈夫! 助かるよ」と亜美は瀬都子の背中を優しく擦りながら言った。
皆で駆け出し大きな岩の後ろに身を潜めて隠れた。
僕は岩の上から顔を出しすと、食い入るように入り口の穴の様子を窺った。
気配がする。もう、側まで来たようだった。僕はペンライトを消してジーンズのポケットに入れた。
僕は振り返ると、後ろの壁に一人分の通れる穴があることに気付いた。
「しめた! そこから抜け出せるかもしれないよ!」と僕は元気づけて言った。
皆も後ろを振り返って見た。僕が頷くと皆も首を立てに振った。
「あっ!」と僕は思わず声を漏らしてしまった。
唯一のチャンスと思われた壁からも人の気配がしていた。ゆっくりと足音がこちらへ近づいてくる。
『ここまでか。もう終わりかもしれない』と思いながら僕は目を閉じて深呼吸をして覚悟を決めた。
開けた場所の明かりが消えた。
「竣、明かりが消えた。どうしたらいいんだろう? 少し焦ってきたね」と美華ちゃんは自分を落ち着かせるように言い聞かせていた。
「なんで消えた? なんだよ? どうした?」と僕は怒りを滲ませて言った。
「かなりマズイよね」と憲二は諦めたように言った。
「大丈夫だ! と言いたいところだけど、これは危険だよね」と亜美は言った。
「今のうちに皆で別の場所に逃げた方が身のためかもよ」と梨香は勇気を振り絞りながら言った。
「瀬都子、大丈夫か?」と僕は言った。
返事がない。
「瀬都子、瀬都子?」と僕は心配で呼び掛けた。
早く目が暗闇に目が慣れて欲しい。
瀬都子は泣いていた。
「瀬都子、泣くな、大丈夫だよ!」と美華ちゃんは明るく励まして言った。鼻水をすする音がした。瀬都子は泣き声を挙げ始めた。
「よし! 景気付けに点呼をするぞ!」と僕は暗闇の中で居場所の確認のために言った。
「1」僕は言った。
「2」美華ちゃんが言った。
「3」憲二が言った。
「4」亜美が言った。
「5」梨香が言った。
「6」瀬都子が言った。
「7」?
「だ、だ、誰だよ?」と僕は心臓が止まりそうなほど驚いて言った。仲間が1人多い。
「一体誰だよ! ふざけるなよ」と僕は少しだけムッとして言った。
「憲二でしょ?」と梨香も怒りを込めて言った。
「俺じゃねぇよ!!」と憲二は疑われたので声を荒げて言った。
「憲二、落ち着くんだ。じゃあ誰だよ?」と僕は皆の動揺を落ち着かせるために穏やかな声で冷静に言った。
「驚かせたな、俺だよ。詩音だよ。皆、すまない。ごめんよ。ここまで来てくれてありがとう。助かったよ!」と暗闇から詩音の声が聞こえた。
「えーっ!! し、詩音!?」と皆はざわつきながら声をハモらせて言った。
「大丈夫か? 無事で良かったよ」憲二は僕の肩を叩きながら言ったが僕は黙っていた。
「詩音、心配させてさぁ、もう。無事で嬉しいよう。大丈夫? 本当に詩音なんだよね?」亜美は何度も鼻をすすり、泣きそうになって話し掛けていた。
「うん。そうだよ。この後ろの穴から来たんだよ。更に奥にはエメラルドグリーンの色をした湖があるのを見つけたんだ。その湖でね、挫いた足を冷やしていたら、話し声が聞こえた気がしてさ『皆が来てくれたかもしれない』と思ってここに来てみたんだよ」詩音は嬉しそうに話した。詩音の声に明るさがあるので安堵しているのだろう。
「詩音、詳しい話は後にして、誰かが追いかけてくるんだよ。すでに、あの入り口にまで来ている。詩音、ここは一体なんだ? 明らかに人工的な作りだけども?」と僕は天井を見上げて声を潜めながら言った。
「分からない。ただ、この後ろの洞窟を抜けると湖になっていて壁には奇妙な生き物の絵が描かれているんだよ」詩音は深刻な顔をして言った。
「その壁画を是非とも後で見たいね。詩音の言っていた追手とは、今、入り口の側まで来ている連中の事なのかい?」と僕は入り口を警戒しながら言った。
「そうだと思う。化け物連中さ。率直に言おう。奴等はここ4日間、世間を騒がせている未確認生物の野郎なんだ。
見た時には驚いたよ。新聞に出ていたろう? 4日前に2人組女子大生殺人事件を起こしたらしい謎の3人組の話の事をさ。辺りに奇妙な小型の足跡がたくさん残っていた。きっと奴等だよ。奴等は人間ではない。悪魔の類いだ。戦闘的だ。俺に襲い掛かってきたのだからね。足は十分に冷やしたお陰でどうにか回復はしたよ。準備は出来ている。竣は大丈夫か?」
「ああ。やってみせる」と僕は言って狭い場所でストレッチをして体を解す。
詩音はオリジナルの打撃系の格闘技を自ら考案して研究を繰り返し自己流ながらマスターしていた。経験から蛇拳が大いに役立ったそうだ。
「憲二はどうだい?」と詩音は言った。
「任せてくれ」と憲二は言った。憲二は幼い頃から学んできた少林寺拳法を会得していた。2段の黒帯だ。3段の黒帯試験まであと一息だったが、肩を痛めて辞めてしまい受けれなかった。惜しい。
「私も戦います!」と瀬都子が腹に力を込めて言った。
「ダメだよ!!」と僕は言った。
「私を甘く見ないで! 私にはブーメラン手裏剣があります。私だけしか使いこなせませんし攻撃力もあります」と瀬都子は自分をアピールして言った。
「そんなに言うなら分かったけど、なるべく様子を見ながら参加してくれ。怪我だけはしないように」と僕は瀬都子の意志を尊重して言った。
突然、明かりが戻った。
広場の真ん中で見たこのない異様な3人の生物が立っていた。
僕らの方を感情の無い蛇のように冷酷で異様に大きく黒々しい目で見て静かに佇んでいた。
つづく
ありがとうございました!また宜しくお願い致します。




